初音ミクを用いてニコニコ動画に投稿された楽曲が2000万回以上の総再生回数を記録し、1stアルバムはオリコンウィークリーチャート4位にランクイン。supercellはこの2年間、新人アーティストとしては前代未聞の売れ行きと騒がれ続けていた。
だが、そのキャッチーかつ繊細な楽曲、胸に迫る歌詞、美麗なイラストを配して贅を尽くしたアートワークなどがどのように生み出されるか、広いリスナーに理解されているとは言いがたい。そもそも「supercell」がユニットやアーティストとしての名称でないことすら、十分に理解されていない。
2年ぶりのニューアルバム「Today Is A Beautiful Day」は前作とうって変わって生ボーカルがフィーチャーされ、さらに新たな展開を見せようとしている。supercellは何を起こそうとしているのか? その意図は何か? 確実に変化している音楽シーンのひとつの象徴となりつつある、その活動の中心人物であるryoに話を訊いた。
取材・文/さやわか
新アルバムはバンド的に作った
──ニューアルバムは前作と違って初音ミクをまったく使っていないですね。なぜでしょうか?
1枚通してボーカルは同じ人がいいなっていうのがあって。今回のアルバムはちょっとバンド的に作りたいっていうイメージが強かったんですけど、バンドだとすると曲ごとにボーカルが変わるのってあまりないじゃないですか。最初にhydeさんが歌ってて次の曲はTERUさんになるとかいうことはあまりないというか(笑)。ボーカルは同じ人がいいというのは前作もそうで、当時初音ミクだけじゃなくてすでに鏡音リンとかも出てたんです。それも使えばいいじゃんってよく言われたんですけど、やっぱりミク1人にしたんですね。
──バンド的な音が作りたかったというのは、どういう理由だったんですか?
例えば「Feel so good」っていう曲だとJINOさんっていうベースのすっごいうまい人がいて、テレビで観て「うわ、かっこいいな」って思ったので、彼に演奏してもらうことをイメージして作ってみたりしたんです。それでエレクトロ的なサウンドじゃなくて人を想像したという感じで、まあ全体的に並べてみると生サウンド主体な感じになったんだと思います。まあとにかくそういうことがやりたい時期だったんじゃないかと客観的に思ってみたり。
──今回のアルバムを聴いて、supercellっていうのは最初はVOCALOIDで注目されたけれども、実はVOCALOIDのコミュニティだけじゃなくて「演奏してみた」みたいなところからいろんな創作活動が始まるような、ニコニコ動画全体が持つセッション感覚に近いのかなと思いました。
ああ、そうでしょうね。まあ最近どうなのかわからないですけど、もともとニコニコ動画に投稿してそれで人が集まってきたというのがsupercellだったので。でも結局ある一定のコミュニティに所属したりして思いっきりはっちゃけたりすることもないまま気がついたらここにいるっていう感じなんで、なんかもうちょっと参加しておけば面白かったなとも思いますけど(笑)。
──しかし前回のアルバムだけ聴かれた方なんかは特に、初音ミクのようなVOCALOIDのイメージでsupercellのことを考える人もいると思うんですけど、そういう見られ方を意識されたことはありますか。
あんまり外からどう見られるというより自分の好きなボーカルと一緒にやったっていう気持ちのほうが強いですね。いまだにVOCALOIDって最強だなって思いますからね。聴く側からすると人間のボーカルのほうが絶対わかりやすいんですけど、作る側となると“バイクを一から全部組み立てる”みたいな楽しみがあるんですよね。ハンドメイド感というか。聴いてもらって「ああ、いいねー」って言ってもらったときの満足感は何ものにも代え難いし、シンガーソングライターにでもなった気分にさせてくれるんです。打ち込みやってる人にとっては魔法のツールというか、夢のようなものだと思いますね。
初音ミクでポップスの面白さに気づく
──VOCALOIDならではの良さもあるけど、今回のアルバムは生の良さを使ったということですね。いずれかのジャンルに対するこだわりはないんでしょうか。
まったくないですね。昔、バンドとかやってたときにさんざん思ってたのは、バンドの人ってジャンルにこだわらないといけない美学ってあるじゃないですか。自分はそれに交じれなかったんですね。下北とかでライブやっても、なんか違うんですよね。
──それは別に「ロックが嫌い」というのとも違うわけですよね。
いや! ロックは好きですよ。ただ、そのジャンルに属して表現するっていうのは違うっていうことなんです。それだとシンプルすぎて作ってる感じがしないっていうのもあるんですけど。そこはやっぱり宅録の人と本当にバンドだけでやってる人の違いだと思うんですけど。打ち込みやってる人たちってなんかちょっと「本物でない感じ」っていうか、あれこれ足したくなるみたいなところがあって(笑)。そういう宅録的ミクスチャーのほうが好きなんだと思います。それが結果としてポップスになっていくのかなって思ったり。
──最初にryoさんがニコ動に「メルト」という曲を投稿して注目されたときには、初音ミクを使った打ち込みだったこともあってエレクトロニカ的な文脈をみんな感じたと思うんですけど、そこに腰を据えて活動しようというふうには思わなかったんですか?
エレクトロニカでということですか? でも、もともと自分は「メルト」を作る前に好きだったのがエレクトロニカというか、NUMBさんみたいなちょっとブレイクビーツよりな感じのダウナーなビートっていう感じだったんです。MASSIVE ATTACKがすごい好きなんで、ああいう感じから派生した、あんまり主張しないものが好きだったんですよ。それが初音ミクっていうものを手にしたときに「歌メロが作れる」ってなって、しかも歌詞が打てるっていうか、むしろ歌詞を打たないとメロにならないんで、そこでやってみたら意識が変わっていったんです。
──なるほど。そこからポップスになっていったんですね。
そうですね。ポップスってすげえ面白いんだなっていうのにそこで気づいて。それまではコード進行とか意味がないと思ってたんですよね。ワンコードで押す美学というか。フレーズは1個あれば十分で、あとはいかに音程鳴らさずに聴かせるかみたいな(笑)。だからポップスは2007年の12月から作り始めた感じですね。たぶん、ずっとポップスをやってる人とはそこが違うと思うんですけど、自分は何をやっても新鮮なんですよね。「supercellの曲はスタンダードだ」って言われやすいんですけど、そのスタンダードな感じっていうのが自分にとっては今新しいんです。
CD収録曲
- 終わりへ向かう始まりの歌
- 君の知らない物語
- ヒーロー
- Perfect Day
- 復讐
- ロックンロールなんですの
- LOVE & ROLL
- Feel so good
- 星が瞬くこんな夜に
- うたかた花火
- 夜が明けるよ
- さよならメモリーズ
- 私へ
DVD収録内容
- 「君の知らない物語」×アニメ「化物語」コラボCM
- アニメ映画「センコロール」トレーラー映像
- PCゲーム「魔法使いの夜」トレーラー映像
- 「ヤングジャンプ」新増刊雑誌「アオハル」トレーラー映像
- 新曲「Perfect Day」Music Clip
初回生産限定特典
- supercellオリジナル全36Pフルカラーイラストブックレット封入
- supercellオリジナルデザインピック封入
- supercellオリジナルデザインケース仕様(illustrated by redjuice)
- 新曲ビデオクリップなどが収録されたDVD付き
初回限定盤イラストブックレット 参加イラストレーター
三輪士郎 / redjuice / huke / 宇木敦哉 / コザキユースケ / 優 / こやまひろかず / 粉冬ユキヒロ / なぎみそ / マクー / スガ
supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoと複数のイラストレーター・デザイナーによって構成。VOCALOID「初音ミク」が歌唱するオリジナル曲をニコニコ動画にアップしたことから人気に火がつき、ニコニコ動画での楽曲の総再生回数は2000万回以上を記録する。2009年3月に発表したメジャー1stアルバム「supercell」のセールスは10万枚を超え、ゴールドディスクに認定された。続く1stシングル「君の知らない物語」もアニメ「化物語」の主題歌に起用され大ヒット。2011年3月には2年ぶりとなる2ndアルバム「Today Is A Beautiful Day」をリリース。