SUPER BEAVERが2月3日にメジャー再契約後初のアルバム「アイラヴユー」をリリースする。
本作には「ハイライト」「ひとりで生きていたならば」「突破口」「自慢になりたい」といったシングル曲や、アルバムリード曲「アイラヴユー」など全11曲を収録。新型コロナウイルス感染症拡大によって活動の停滞を余儀なくされた2020年を経てさらに先に進もうとする意思、そして「大切な人に『愛している』と伝えたい」という純粋な思いにあふれた作品となっている。
音楽ナタリーでは4人にインタビューを行い、アルバムの収録曲に込めた思いについて語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 斎藤大嗣
「やってよかった」と思えた
──まずは2020年12月8日、9日に横浜アリーナで行われた生配信ライブについてお伺いさせてください。初日は、中止となったツアー(「続・都会のラクダ TOUR 2020〜ラクダの前進、イッポーニーホー〜」)のチケット払い戻しを希望しなかったファンに向けての限定ライブ、2日目は誰でも視聴できる無料の配信ライブでした。手応えはどうでしたか?(参照:SUPER BEAVERが横浜アリーナで無観客ライブ、最低な1年の中で見つけた“最高の瞬間”)
渋谷龍太(Vo) 不思議な感覚でしたね。自分の中で「この4人でやれてよかった」「楽しかった」という部分と、「これはいったい、どこにつながるんだろう?」という感じが両方あって。これまでは(観客からの)生のリアクションをもらい続けてきたわけですけど、それがなくなったことで、「俺たちの感覚は観てくれてる人にどう伝わって、どう化けるのか?」という具体性が感じられなかったというか。
──ライブ中、渋谷さんは「あなたがお家でいくら歌っても、俺たちには届かない」って言ってましたよね。
渋谷 はい。ライブ前は声が聞こえるような感覚になるのかなと思っていたけど、やっぱり無理だったし、そこは嘘をついちゃいけないなと。無責任に「みんなの声が聞こえてる」と言って、そこで満足してほしくなかったんですよね。もちろん、こっちも満足したくなかった。配信ライブでは直接思いを伝えられないもどかしさがすごくあったけど、この先、そういう気持ちを落とし込む場所を作れると思ったし。
──なるほど。柳沢さんはどうでした?
柳沢亮太(G) 個人的には「やってよかった」と素直に思いました。たくさんの方に観てもらえたし、楽しんでもらえたんだろうなと。ライブのスタッフ、映像スタッフも集結できたし、レコーディングエンジニアの方もブースを作って配信用に音を作ってくれて。去年は思うように動けないことが多かったけど、いろんな人たちのいろんな思いが凝縮されたのが、あのライブだったのかなって。2日間、それぞれたった1時間のライブでしたが、生きがい、やりがいみたいなものが双方にあったと思うんですよね。
──それが「やってよかった」という率直な気持ちにつながったんですね。
柳沢 はい。無観客の無料生配信ライブって、正直ピンと来てなかったんですよ。(コロナ禍の)序盤からやっていた人たちもいたけど、自分たちはそうではなくて。結局は年末になったんだけど、いろんな段階があったからこそ「やってよかった」と思えたし、安堵に近い気持ちもありました。「実際に動いた先でしか見えないこと、わからないことってあるよな」と思えたのも大きかったです。
上杉研太(B) 2020年を象徴するライブだったと思いますね。例年通りのライブの本数は全然やれなかったし、メンバーに会えなかった時期もあって。一緒に音を鳴らす機会も減っていたんだけど、配信ライブでは、なぜかバンドの成長を感じたんですよ。去年は考える時間も多くて……「バンドとは?」みたいなことも考えましたからね。そういうふうに各々に変化があったはずで。横アリの配信ライブにもそれぞれが何かしらの覚悟を持って臨んだと思うし、それをドカン!と鳴らすことで、未来に希望が持てるようなものになった気がしています。
──ツアーができない、フェスもないという状況の中でも、SUPER BEAVERは確実に前進していたと。
上杉 そうですね。会話で擦り合わせるというより、楽曲を演奏すること、歌うことで確かめ合ってるバンドだと思うんですけど、去年はそれもなかなかできなくて。でも、ブランクはまったく感じなかったです。2020年に出したシングル曲をやれたのもよかったですね。リリースは続いていたけど、ライブでやれなくて、新曲がそのままの状態になっていたので。発信したかったことを形にできたし、次に進むためのエネルギーになったと思います。やってよかったですね。
藤原“32才”広明(Dr) メンバーが本当に楽しそうで、それがうれしかったですね。映像チーム、照明チームの皆さんにも「よかったよ」と言ってもらえて。普段のライブとは違う形でしたけど、一生懸命作り込んで発信したものが、誰かの喜びにつながったのかなと。そういう結果を出せたことは、本当によかったと思います。大変なのはミュージシャンだけじゃないですからね。いろいろな事情で「どこにも行けない」「楽しいことがない」という人も多いだろうし、画面越しではあったけど、何かを感じてもらえたのはうれしいです。
──2日目の無料配信では、「初めてSUPER BEAVERのライブを観た」という人も多かったようですね。
渋谷 そうなんですよね。2020年の初めにメジャー再契約を発表して、2枚シングルをリリースして。メディアに出させていただく機会もあったし、タイアップに起用してもらえることも増えたんですけど、最近自分たちのことを知ってくれた人にとっては、会いたくても会えない状況が続いていて。ただ、ライブに来たことがない、実際に自分たちを見たことがない人たちが、配信にお金を払うのは難しいだろうと思ったんです。お金を取らないというのはイレギュラーな形だし、プロとしてやっている以上、「無料ってどうなんだろう?」という気持ちもあったんですけど、去年はいいことが少なかったし、ご褒美としてはいいのかなと。MCで話した「欲しいのはお金ではなく、あなたの時間です」というのも本心だし、自分たちのエゴに付き合ってもらえたのはうれしかったですね。まあ、お金も欲しいですが(笑)。
柳沢 はははは(笑)。
時を超えていく作品を作れた
──では、ニューアルバム「アイラヴユー」について聞かせてください。2020年にリリースされたシングル4曲も収録されていますが、昨年の活動の中で生まれた感情を生々しいロックミュージックに昇華した、本当に素晴らしい作品だと思います。
柳沢 ありがとうございます。確かにこの時期だからできた作品だとも言えますけど、この先ずっと聴き続けてもらえるアルバムになったとも思っていて。本作に限ったことではないですが、「今だから歌えること」を形にしながらも、ずっと聴けるものを作ってきたつもりなんですよね。「アイラヴユー」はそれがより強く出たアルバムだし、時を超えていく作品を作れたという手応えを感じていて。何かを意識していたわけではなく、「より強固でしっかりしたアルバムにしたい」という気概で制作していただけなんですけど、気付いたら「あれ? すごいのができちゃった」という感じです(笑)。
上杉 個人的には洗練されたアルバムになったと思っていて。1つひとつの曲もそうだし、演奏や音もそうなんですけど、無駄がないんですよ。無駄がないことだけが素晴らしいわけではないけど、今回は各々の持ち場で、プロフェッショナルとして楽曲を構築できました。2020年の中で感じたこと、考えたこともそうだし、集中力と覚悟を持って制作に臨めて。歌がないところでも同じくらいの情報量、エネルギーを込められたんじゃないかなと。
──確かに音数も少ないし、さらに研ぎ澄まされた印象がありますね。
藤原 シンプルではあるんですけど、それも意識していたわけではなくて。ライブがなかった分、1つひとつのアレンジやフレーズをじっくり考える時間があったんですよ。プリプロの段階で「最高だ」というアレンジができたあとも、気になるところが出てきたら「やっぱりこうしよう」と変えたり。作ったものを崩して、また作って……と繰り返した結果、必要なものだけが残ったというか。ただシンプルにしたのではなくて、その過程にはいろんな情報が入っているんですよね。
渋谷 ボーカルに関しても、1曲1曲にかける時間をいっぱい取れて。歌の練習って、ずっとライブをやってると、なかなかできないんですよ。喉を使わないことも大事だったりするので。今回のアルバムの制作は、ライブがなかった分、試してみたかったことを全部やれたし、それはすごく大きかったです。基本的にカラオケ店にずっとこもって、やりたかったことを自分の中でちゃんと消化してからレコーディングに臨めました。普段の制作では、「こういう歌い方のほうがいいな」とレコーディングの現場で気付くことが2割くらいあるんですけど、今回はそれがほぼなかったですね。自分で作った設計図通りに歌えたし、「時間をかけられるって、こういうことか」と実感しました。歌に向き合う大切さもわかって、いい経験になりました。
──新曲もしっかり体に沁み込ませたうえでレコ—ディングできたと。その手応えはライブでも生かせそうですね。
渋谷 いや、ライブはどうなるかわからないです。お客さんとの対話に近いところもあるし、いつも出たとこ勝負なので、パッケージ作品とは違いますね。レコーディングのときに思い描いていたこと、歌の設計図みたいなものは、歌録りが終わったら全部捨てるんですよ。いつもそうなんですけど、今回も例外ではなかったです。
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大切な人に向けて「アイラヴユー」を歌いたかった