音楽ナタリー Power Push - サニーデイ・サービス

悪魔に憑かれた渾身ポップアルバム

晴茂くんだったらこう叩くんだろうな

──ところで今回のレコーディングはドラムの丸山晴茂さんが体調不良のため、途中までの参加だったと聞きましたが。

うん、晴茂くんが叩いてるのは「苺畑でつかまえて」と「血を流そう」っていう2曲だけで、あとは俺が叩いてます。

──そう考えると、このアルバムは丸山さんが参加していない曲も含めて、なぜこんなにサニーデイっぽいんだろうという疑問が生まれるんですが。

曽我部恵一(Vo, G)

それは思うよね。「桜 super love」って曲に「きみがいないことは きみがいることだなぁ」っていう歌詞があるんだけど、結局そういうことなんだよ。実際に叩いてなくても、いつも晴茂くんがいてバンドを動かしてるような感じがする。どこかで見えない力が働いてる。自分でドラム叩いてても、晴茂くんだったらこう叩くんだろうなって思いながらやってるしね。だからサニーデイは結局この3人なんだっていうのは今回すごく感じた。晴茂くんの代わりに誰かほかの人に頼もうっていう発想はなかったし、この3人だけでやりたいっていう気持ちが強かったよね。

──ベースの田中貴さんはどんな感じでレコーディングに参加していたんですか?

最初はみんなでスタジオに集まってやってたんだけど、途中から個人作業になったので。俺がパソコン持って都内の練習スタジオで音を録って、自宅や事務所に持って帰って作業するっていう感じ。だからベースが必要になったときに田中に電話して「ベース」って言うの。そしたらあいつスタジオに来てベース弾いて帰るっていう。特に何も話さないし、「この曲いいね」とか「最近どう?」とか一切ない。「うぃーす」って来て、ケースからベース出して何テイクか弾いて「じゃあ」って言って帰るだけ。

──淡々としてますね。

だってお母さんとかにいちいち「お母さん、今日も晩ごはんおいしかったよ」とか言わないじゃん。でも家族とかってそういうもんだからね。

──不思議な制作風景ですね。

うん、自分でもすごく不自然なことをやってるんじゃないかなっていうのは思ってたよ。すごくいびつなものを作ろうとしてるのかもって。でもやっぱりここまできちゃった以上どうしようもなかった。最初に3人で作ったものを全部捨てて、自分の中のまだ見えてない何かにたどり着きたかったから。

サニーデイはずっと続いてるストーリー

──今回は作り方だけ見ればほぼ個人作業で、ソロアルバムみたいなものだったわけですよね。

曽我部恵一(Vo, G)

普通の人が見たらバンドのアルバムを作ってるとは思わないだろうね。ベース以外の楽器はほぼ自分で弾いてるし、俺が延々作業してるだけだから。

──でも完成した作品を聴くと、ちゃんとバンドのアルバムになっている。

うん、ソロでこのアルバムは作れない。スタジオに集まって「せーの」で演奏したからサニーデイになるっていうわけじゃなかった。1人で作業しながら、これがサニーデイなんだなって思ってましたね。

──どういうことなんでしょう?

そこ説明するのは難しいよね。でも例えば夫婦や家族だって、毎日一緒に暮らして一緒にごはん食べてるから家族っていうわけでもなくてさ、いろんな形があるし、それと同じでバンドのあり方もいろいろあるわけ。今のサニーデイはオーソドックスな形ではないかもしれないけど、バンドへの愛は誰よりも強いから。そういう思いを持って、1人でパソコンに向かって作業してたからね。

──この制作を通して、自分にとってサニーデイ・サービスとは何か、みたいなことも考えましたか?

考えました。なんでやってるんだろうって。

──ソロやほかのプロジェクトとは何が違うんでしょう?

これはすごく大事なことなんだけど、20代の前半で音楽を始めた瞬間から、俺はずっとサニーデイ・サービスなんだよね。ずっと続いてるストーリーがあって、今ここにいる。

──解散してる間も続いていたということ?

曽我部恵一(Vo, G)

うん、大きい流れの中で全部続いてる。家族だって結局ずっと家族じゃん。離ればなれになっても、ケンカしたりしても、家族の物語っていうのはずっと続いていく。だから音楽的に機能しなくなったとか飽きたとか言って解散したわけだけど、その間もサニーデイはどこかで続いてたんだよ。自分にとってソロとかほかのバンドとかはもっと音楽的なものなんだけど、でもサニーデイはそうじゃなくて、自分の青春というか生活というか、そういう感じのものだから。

──確かに音楽的に優れた作品を作るだけなら、このアルバムももっと早くに完成していたはずですよね。

まあね(笑)。

──それを超えて、誰も見たことがないような世界に足を踏み入れて、いびつだとか狂ってるって言われながらも、何か新しいものを作らなきゃいけない。

うん、どうしてもそうなっちゃうんです。20代の頃からそういう作り方をしてきたから。

ニューアルバム「DANCE TO YOU」/ 2016年8月3日発売 / 2700円 / ROSE Records / ROSE-198
「DANCE TO YOU」
収録曲
  1. I'm a boy
  2. 冒険
  3. 青空ロンリー
  4. パンチドランク・ラブソング
  5. 苺畑でつかまえて
  6. 血を流そう
  7. セツナ
  8. 桜 super love
  9. ベン・ワットを聴いてた

サニーデイ・サービス TOUR 2016

2016年10月21日(金)
大阪府 umeda AKASO
2016年10月28日(金)
岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
2016年11月3日(木・祝)
北海道 札幌PENNY LANE24
2016年11月6日(日)
宮城県 Rensa
2016年11月12日(土)
広島県 広島CLUB QUATTRO
2016年11月13日(日)
福岡県 BEAT STATION
2016年11月19日(土)
香川県 DIME
2016年11月20日(日)
愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2016年11月23日(水・祝)
京都府 磔磔
2016年11月26日(土)
新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
2016年11月27日(日)
石川県 Kanazawa AZ
2016年12月14日(水)
東京都 LIQUIDROOM
2016年12月15日(木)
東京都 LIQUIDROOM
サニーデイ・サービス
サニーデイ・サービス

曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博し、7枚のアルバムを世に送り出すも2000年12月に解散。2008年8月に再結成を果たして以降はスローペースで活動を重ね、2015年までにオリジナルアルバム2枚とライブアルバム1枚を発表。2016年8月に通算10枚目のオリジナルアルバム「DANCE TO YOU」をリリースした。