音楽ナタリー Power Push - サニーデイ・サービス
悪魔に憑かれた渾身ポップアルバム
サニーデイ・サービスが再結成後3作目となるニューアルバム「DANCE TO YOU」を完成させた。このアルバムで彼らは前作までのリラックスしたムードを脱ぎ捨て、多くの試行錯誤とスクラップ&ビルドの中でバンドの核を追求。ポップでメロウなサウンドはさらに純度を増しつつ、その奥に抜き差しならない情熱を見え隠れさせている。
バンドにとって大きな転換点に当たるこの作品のリリースを受け、このたび音楽ナタリーでは曽我部恵一(Vo, G)にインタビューを実施した。なぜ彼らは今、これほどまでに濃密なアルバムを作ることができたのか。「このままずっと完成しないかと思った」と語られるほど長期に及んだレコーディングの内幕とは。曽我部自身の言葉から読み取ってもらいたい。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / moco.(kilioffice)
設計図がないまますべてがボツになっていく
──素晴らしいアルバムが完成しましたね。サウンドはポップでメロウなのに、どこか鬼気迫る印象を受けました。なぜ今、こんなに純度の高いアルバムができたんでしょうか?
その理由は、すごく時間をかけて、自分の今までのキャリアで一番たくさん曲を作ったからじゃないかな。
──制作期間はどれくらいだったんですか?
去年の3月頃からずっとだから、1年以上ですね。
──去年の3月というと渋谷公会堂でのワンマンライブがあった頃ですよね。
うん、あの頃「やっぱり3人でバンドやるのはいいね」っていうのを強く感じて。前回のインタビュー(参照:サニーデイ・サービス「Sunny」インタビュー)のときも、そんな話をしてたと思うんだけど、その流れでまたアルバム1枚できたらいいなって言って制作を始めたんです。
──そこから曲を書きためていったわけですね。
でもその頃書いた曲はアルバムにはほとんど入ってない。
──えっ?
けっこう曲書いてデモも作って、最初にスタジオ入ったのが5月か6月くらいかな? 3人でいっぱい録ったけど、その頃の曲はもうない。
──それはクオリティの問題で?
っていうわけじゃない。実際いい曲もあったし。
──じゃあどういう基準でボツになったんですか?
難しいよね。自分が満足できないとかっていうのもあるし、今作ろうとしてる何かにイマイチ合わないっていうのもあるだろうし。
──アルバムのコンセプトに合わなかったということ?
いや、その時点では自分が何を作ろうとしてるかもわかってないからさ。設計図があるんだったら、そこに合わないとかもあるんだろうけど、よくわかんないまま進んでいって、よくわかんないまますべてがボツになっていくわけ。
これがサニーデイの伝統的な作り方
──じゃあ制作初期はアルバムの核になる曲ができない、見えてこないという感じだったんでしょうか?
うん、普通は核になる曲が何曲かできて、それを中心に10曲とかまとめてアルバム完成ってことになる。6月ぐらいに一度そういう状態になったんだけどね。
──6月って1年前ですよね?
そう(笑)。そのときに一度完成したはずなんだけど、もっと新しいものを出したくなったというか。いわゆるサニーデイっぽさを残さずに、完全に脱皮した状態を見せたくなって。
──でもその新しいものがどういうものかは見えないまま?
だから途中からこれはヤバいな、このままずっと完成しないんじゃないかって思い始めて。「これでいいんじゃないか」と「もうちょっといかないとダメだろう」っていうののせめぎ合いでしたね。
──最終的に何曲ぐらい作ったんですか?
50曲は作ってる。そのうち40曲以上はちゃんと録ってミックスダウンまでしてるし。
──めちゃくちゃですね。
めちゃくちゃだと思う。そもそもレコーディングには予算ってものがあるからさ。スタジオ代やエンジニアのギャランティを確保して、だいたいの予算を決めた上でスタジオに1週間とか入るんだけど、結局そこでは何もできなかった。
──でもレコーディング初体験の新人じゃあるまいし、普通はもう少しうまくやれそうなものですが。
もちろん予算とか期間のことを考えたら、落としどころはあったと思うんだけど、でも今回は自分のアーティスト性のほうが勝っちゃったんだよね。よくわかんないところから無理やりひねり出すみたいな感じで、とにかく作り続けてた。
──ここ数年の曽我部さんのソロ作品は、日記的な感覚でどんどん曲を書いて、どんどんリリースしていくというスタンスだったと思うんですが、今回はそれとは真逆ですよね。
真逆になっちゃったよね。
──そうなったのはなぜですか? サニーデイだから?
サニーデイだからっていうのは絶対あると思う。サニーデイの伝統的な作り方がそういうものなんです。今思えば、再結成してからの2作は肩慣らしだったのかもしれない。そういえば昔はいつもこんなふうに大変な思いをして作ってたなって。
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収録曲
- I'm a boy
- 冒険
- 青空ロンリー
- パンチドランク・ラブソング
- 苺畑でつかまえて
- 血を流そう
- セツナ
- 桜 super love
- ベン・ワットを聴いてた
サニーデイ・サービス TOUR 2016
- 2016年10月21日(金)
- 大阪府 umeda AKASO
- 2016年10月28日(金)
- 岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2016年11月3日(木・祝)
- 北海道 札幌PENNY LANE24
- 2016年11月6日(日)
- 宮城県 Rensa
- 2016年11月12日(土)
- 広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2016年11月13日(日)
- 福岡県 BEAT STATION
- 2016年11月19日(土)
- 香川県 DIME
- 2016年11月20日(日)
- 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2016年11月23日(水・祝)
- 京都府 磔磔
- 2016年11月26日(土)
- 新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
- 2016年11月27日(日)
- 石川県 Kanazawa AZ
- 2016年12月14日(水)
- 東京都 LIQUIDROOM
- 2016年12月15日(木)
- 東京都 LIQUIDROOM
サニーデイ・サービス
曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博し、7枚のアルバムを世に送り出すも2000年12月に解散。2008年8月に再結成を果たして以降はスローペースで活動を重ね、2015年までにオリジナルアルバム2枚とライブアルバム1枚を発表。2016年8月に通算10枚目のオリジナルアルバム「DANCE TO YOU」をリリースした。