ソン・シギョン特集|「僕はどこまで上がれるんだろう」韓国トップスター、ソン・シギョンはなぜ日本で挑戦するのか (2/2)

K-POPではない、韓国の歌手が日本で活動すること

──「たくさんの日本の方に韓国の歌を聴いてもらいたい」とのことですが、ここでの「韓国の歌」というのはK-POPだけではなく、ということですか?

そうです。日本では「K-POP」や「韓流」という言葉がよく使われますが、アイドルを指すことが多いですよね。韓国の音楽は、K-POPのアイドルグループだけでなく、ソロの歌手でも日本で成功できる、本当にいいものは受け入れてもらえる、と信じて活動しています。最近は日本のアーティストも韓国に来られますし、アーティスト同士ももっと交流できるといいなと思います。

──お金は二の次?

その質問に「YES」と言ったら僕はカッコつけすぎですね(笑)。ただお金が一番のモチベーションではありません。僕は車にも時計にも興味がない。洋服だってなんでもいい。こだわるのは飲食ぐらいかな(笑)。それと前回の春ツアーは赤字でしたしね(笑)。来日のときに泊まるホテルも普通の部屋だし、移動もタクシーや車は自分で手配します。僕はいわゆる“スター”みたいな生活に、本当に興味がないんです。

──歌手として真摯な姿勢で活動に取り組まれているんですね。

調子に乗るのが嫌なだけです。そういう人たちもあまり好きじゃない。僕はルックスも見ての通り、庶民派なんです(笑)。

ソン・シギョン

──40歳を過ぎて新しい目標を設定することは簡単ではないと思います。

これはほかのインタビューでも話した例えですが、「今、日本でK-POPという白菜の漬物がものすごく愛されています。しかも市場価値の3倍で売れるらしい。僕は違う味付けの白菜を韓国で25年間売り続けてきました。味には自信がある。僕の白菜も日本で売ってみたい」という感覚です。もちろん気に入ってもらえるかはわかりません。真面目に勉強しながら売っていきます。僕はそこにやりがいを感じるんです。

──なるほど。そうなると韓国のお店の営業はどうするんだという問題が出てくる。

おっしゃる通り。最近すごく悩んでいます。僕は案外無計画なんです。全部思いつき。面白そうと思ったら始めちゃう。YouTubeもそう。気付いたらYouTuberになってしました(笑)。たまに自問するんです。「僕はなんのためにYouTubeをやってるんだろう?」って。いくら考えても答えは「楽しいから」に行き着いてしまいます。

──力の配分とスケジュールの管理が今後の課題ですね。

今はまだすべてをいいバランスで保てていますが、どこかで何かを減らさなきゃいけなくなる時期も来るのかなと思います。自分的にはこれからもっと音楽を作りたいです。11月には香港でイベントがあって、12月の中旬に日本でコンサート、後半は韓国で年末コンサート。合間に曲を作る予定です。「選択」と「集中」について真剣に向き合う必要がありそうです。

──とはいえYouTubeもソン・シギョンさんのキラーコンテンツですよね。

だから本当にバランスが難しいです。あれこれやって全部中途半端になるのが一番よくない。歌、運動、お酒、食事は欠かせない。今後は日本側で曲を作ってもらい、僕が歌うスタイルも考えています。日本の市場は日本のスタッフさんのほうが詳しいわけですし。

韓国でバラードが支持される理由

──そういえば、韓国ではバラードの需要がものすごいですよね。すごく人気のアイドルグループがカムバックしても、日本ではそこまで知名度がないバラード歌手の方が音楽番組で1位を獲られることがあります。ソン・シギョンさんから見て、なぜ韓国ではバラードが愛されると思いますか?

うーん、バラードは、最近はちょっと力を失っている気がします。僕が見る限り、今の若者はヒップホップやR&Bを愛していて、バラードはちょっと”古い音楽“という感覚なのかもしれません。ただ、バラードが根強く愛されているというのは事実としてあって、これに根拠はないですが、“恨(はん)”の感性が関係しているような気はします。論文を書いたわけではないので、本当に自分の肌感覚でお話ししていますが。

──自分も韓国文化を好きになってから、“恨”についていろいろ勉強したんですが、まだ理解できていません。

「なんとなく悲しい」みたいなニュアンスですね。「怒ってはないけど、なんか悔しい」とか。朝鮮半島にはいろんな歴史があります。その歴史があるから、悲しい曲調に惹かれる感覚が僕らの中にはあるかもしれません。全然根拠ない、ただの感覚ですけど。……本当になんで韓国人はこんなにバラードが好きなんでしょうね(笑)。

──僕は韓国の歴史や政治にも興味があるので、今お話いただいた感覚は少しだけ理解できます。

バラードの基本は“切れてる関係”、つまり断絶なんです。バラードではよく「会いたい」という言葉が使われます。その会いたい人は亡くなった人であることもある。もう会うことができない。気持ちを伝えることもできない。だから曲にして歌うんです。

──なるほど!

ただ最近はSNSがあるじゃないですか。スマホを見れば、誰が何をしたのか、誰と誰が付き合って、別れたのかすぐわかっちゃう。そういう生活の中ではどうしてもバラードは古くなってしまう。SNSをやってる若い子にとっては、泣きながら「会いたい」と歌ってる人は、なんというか……キモいでしょ(笑)。同じ状況はアメリカでも顕著で、バラードではなく、ファストライフ(fast life)の歌が流行ってる。金、車、高級ブランド、パーティ……SNS映えする内容ですね。

ソン・シギョン

──韓国ではドラマのOST(サントラ)曲の人気も根強い印象があります。OSTはバラード曲も多いですよね。

そうですね。ドラマなら作品に合わせて曲を書けるから、さっき言ったようなバラードも成立します。ただやはり断絶にフォーカスした歌詞ではなくなってきてますね。恋愛の感覚が変わってきてると思います。

──SNSに絡めて言うと、音楽が消費されるスピードが早くなっている気がします。

そうですね。最近は音楽がアクセサリーみたいになっている。内容よりも雰囲気が重視で、センスよくクラップできるような音楽が好まれている。昔はメロディを作ってからアレンジしましたが、今はトラックにメロディをつけるスタイルも多い。いろいろ変化しているから悩むこともありますが、いいメロディといい歌詞は時代を超えて普遍だと思います。売れるか売れないかは別として、僕はそこを死ぬまで追求したいですね。

僕は日本でどこまで上がれるんだろう

──お話を伺ううちに、12月11、12日に開催される「2024年末コンサート〈SUNG SI KYUNG〉In Japan」がますます楽しみになってきました。

ライブというのは目の前で歌手が感情を入れて歌う場で、CDを聴くことはまったく違う体験です。特にバラードは観客が「歌手と同じ空間にいると実感できる」ことが大事なので、今から趣向を凝らしています。どれくらいできるかワクワクしてます。コロナ禍前はNHKホールでコンサートをしました。4000人くらいのお客さんが来てくれたけど、最近はどこかに隠れちゃってる!?(笑)。そして「僕は日本でどこまで上がれるんだろう」という気持ちがあります。ライブに来てもらうためにはいい曲を歌って、いい活動をしないとダメ。いつか日本武道館で歌いたいです。今回のコンサートはその第一歩。僕自身にとっても意味のある公演になるので楽しみにしていてください。最近は、日本のファンの皆さんとコミュニケーションを深めるために、日本語で発信する、日本用のInstagramアカウントを開設しました。フォロワーはやっと4900人ぐらい(笑)(※10月下旬現在)。苦手な自撮りもがんばっています。日本の情報はぜひこちらでもチェックしてほしいです。

ソン・シギョン

公演情報

2024ソン・シギョン年末コンサート〈SUNG SI KYUNG〉in Japan

  • 2024年12月11日(水)東京都 立川ステージガーデン
  • 2024年12月12日(木)東京都 立川ステージガーデン

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プロフィール

ソン・シギョン

1979年生まれ、韓国出身のシンガーソングライター。MC、DJ、タレントとしても活躍している。韓国で2000年にデビューを果たし、韓国の人気ドラマ「シークレット・ガーデン」「星から来たあなた」などの劇中歌で広く知られる存在に。2017年にアルバム「DRAMA」で日本デビュー。2023年11月にニューアルバム「こんなに君を」をリリースした。2024年4月には5年ぶりとなる日本ツアー「SUNG SI KYUNG LIVE TOUR 2024」を開催。12月11、12日には「2024ソン・シギョン年末コンサート〈SUN SI KYUNG〉 in Japan」を東京・立川ステージガーデンにて行う。