ソン・シギョン特集|「僕はどこまで上がれるんだろう」韓国トップスター、ソン・シギョンはなぜ日本で挑戦するのか

「バラードの皇帝」「鼓膜彼氏」「韓ドラOSTの帝王」──数々の称号を持つ韓国の国民的歌手ソン・シギョンが12月11、12日に東京・立川ステージガーデンで年末コンサート「2024ソン・シギョン年末コンサート〈SUNG SI KYUNG〉 in Japan」を行う。

今年4月には、5年ぶりとなる日本ツアー「SUNG SI KYUNG LIVE TOUR 2024」を開催したソン・シギョン。韓国の音楽業界で確固たる地位を築いている彼が、なぜここまで精力的に日本で音楽活動を続けているのか。音楽ナタリーでは、その理由を探るべくインタビュー。コンサートに関する話題を中心に、さまざまなテーマで語ってもらった。インタビューを通じて見えてきたのは、ソン・シギョンの人柄や日本での活動に対する思い、そしてバラードに対する彼の考え方。彼の多様な価値観に触れていただきたい。

取材・文 / 宮崎敬太撮影 / 須田卓馬

公演情報

2024ソン・シギョン年末コンサート〈SUNG SI KYUNG〉in Japan

  • 2024年12月11日(水)東京都 立川ステージガーデン
  • 2024年12月12日(木)東京都 立川ステージガーデン

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日本に来ると“新人歌手”になれる

──ソン・シギョンさんは今年の4月に5年ぶりの日本ツアー「SUNG SI KYUNG LIVE TOUR 2024」を開催されました。年内にもう一度日本でコンサートを実施しようと思ったのはなぜですか?

前回のインタビュー(参照:“韓国バラードの皇帝”ソン・シギョンインタビュー)でもお話ししましたが、僕は性格的にコツコツと地道に努力するタイプでコンサートの規模を少しづつ大きくしていきたいんです。コンサートの制作会社に相談したら、たまたま12月に会場が空いてたので、二つ返事で「やりましょう」ということになりました。

──韓国よりも小規模の公演であるにもかかわらず、日本でツアーを開催するのはなぜですか?

シンプルに僕がやりたいからです。大きい会場でのコンサートももちろん楽しいですよ。でもバラード歌手が一番輝けるのは、前回の春ツアーの会場や、今回の年末コンサートのような規模感(ライブハウス~小ホール)だと思っています。マイク1本で歌って、トークして、お客さんの感情の琴線に直接触れる。僕は、歌手がマイク1本でコンサートそのものをコントロールできるのは2000人ぐらいの会場までだと思っています。それより大きい会場になると、歌以外の特別な仕掛けや演出が必要になってきます。年末のコンサートも皆さんに僕の歌とトークを楽しんでいただけるように、がんばっています。楽しみにしていてください。

ソン・シギョン

──先日5年ぶりに実施した春の日本ツアーはいかがでしたか?

死ぬかと思いました(笑)。

──というと?

4月9日に福岡で始まって、広島、大阪、京都と回って、東京で2公演、最後は4月18日の名古屋公演。10日間で7公演(笑)。韓国でのツアーは週末に公演を行うので5日間は休めます。体力的には大丈夫でしたけど、移動もありますし、とてもタイトな日程でした。

──なぜタイトなスケジュールになったんですか?

僕のせいです(笑)。当初は東京と大阪のみでしたが「全国ツアーをしたい」と言ったのでこういうスケジュールになったと思います。今、日本は会場を押さえるのがすごく大変らしいです。

──全国ツアーにこだわったのはなぜですか?

日本のいろんな場所でファンの方々と触れ合ったり、日本の文化に触れてみたいと思ったからです。韓国だと僕はいろんな人に顔を知られているし、体も大きいから目立ってしまいます。どこに行っても話しかけられたり、写真を撮られたり。もちろん応援してくれる方には感謝しています。ただ、あまり気が休まらないという面もあるんです。日本ではまだ有名になってないので、自由なんです。どこでもひとりで自由に行けます。……でも日本でも有名になりたいと思って活動してるので、もしそうなったらどうしようかな(笑)。

──韓国を好きな日本人はだいたいソン・シギョンさんを知ってますよ。

僕は日本に来ても新大久保には行かないようにしてるんです(笑)。渋谷も新宿も行きませんね。ちょっとありふれた表現ですけど、日本に来るとタイムスリップした感覚になるんですよ。

──タイムスリップというのは?

こういうことを言うと偉そうに聞こえてしまうかもしれませんが、僕はデビュー後すぐに売れたので、努力する新人時代を経験していません。だけど、日本に来ると大半の人は僕を知らない、新人歌手のようになれるんです。「歌を認めてもらえるのか?」と思っていた22、23歳の頃に戻った気分。映画みたいですよ。「わあ、こんな経験ができるんだ」って思います。前回のツアーも大変だったけど楽しかった。日本語の新しい言葉を勉強して、いい曲を作ったり、いい曲と出会ったり。いろんな街で歌うのはワクワクします。

韓国旅行の豆知識です

──春ツアーでは日本各地のグルメを堪能する時間もなかった?

そうですね。僕はコンサートが終わったら、ビールを1杯だけ飲んですぐホテルに帰ってました。次の日も移動があるし、会場に着いたらすぐにリハーサルをしなきゃいけないし。20代の頃なら打ち上げまで参加できましたけど、この年齢になると、どうしても翌日の歌に影響が出てしまうんですよね。でも広島ではお好み焼きを食べました。あと牡蠣もおいしかったです。

──美食家ですもんね。

いえいえ。カップラーメンもよく食べます。あ、あと京都で銭湯に行きました。ゆっくりと湯に浸かって体の疲れを取りたかったんです。僕、銭湯大好きです。

──余談ですが、韓国は銭湯よりもサウナのイメージがあります。

韓国では大体、サウナに銭湯もついてます。日本のスーパー銭湯みたいな感じ。昔はよく週末に家族と一緒にサウナに行って、お風呂から出たら牛乳を飲んでいました。

ソン・シギョン

──日本ではここ最近サウナが流行っているんですよ。

そうらしいですね。日本で銭湯に行ったとき、そのままサウナに入ろうとしたら「別料金です」と言われてびっくりしました。韓国では同じ料金でお風呂とサウナを行き来できるので(笑)。あと韓国だと最近、あんまりサウナは流行ってないかもしれません。昔はお風呂がないマンションやアパートが多かったのでみんなよく銭湯に行ってましたが、今はどの家にも立派なお風呂があります。あとシャワー文化が根付いているのも大きいですね。今の人は湯船に浸かる習慣があまりないかもしれません。

──知りませんでした!

韓国旅行でお風呂(湯船)付の部屋を探すの大変でしょう? 高いホテルじゃないとお風呂はついてないことが多いです。そこを妥協すると見つけやすくなると思います。韓国旅行の豆知識です(笑)。

「日本のファンの皆さんに失礼ではないか」

──ライブの話に戻りますが、ソン・シギョンさんは歌うためにどんなコンディション作りをされていますか?

40歳を過ぎてからは、コンサートの1カ月前から禁煙してます。でもお酒はやめられないです(笑)。あと、遊ばなくもなりました。体を中からきれいにして。そうじゃないと自分もコンサートを楽しめなくて。

──冒頭の質問と少し内容がかぶるのですが、ソン・シギョンさんは韓国の大スターです。韓国内の仕事もとても忙しい。では日本で活動するモチベーションはなんなのでしょうか?

日本での初めてのコンサートをしてから、毎年1回ほどファンミーティングを開催していましたが、当時の僕は日本語が全然わからないから、暗記した日本語をしゃべり、あとは通訳してもらっていました。そのときの日本語、いまだに覚えてます。「歌詞がわからなくても、それ以上の何かがあると思います」みたいなことを話しました。当時も日本語の勉強はしてたけど、韓国での仕事が忙しすぎて、気がつくと日本語を忘れてしまうような日々で……。でも心のどこかで、これは日本のファンの皆さんに失礼ではないかって思ってました。

ソン・シギョン

──話す機会がないと言語は忘れてしまうと言いますもんね。

何年か続けて日本に呼んでもらっていたら、ファンの皆さんがいつのまにか韓国語をしゃべれるようになっていて、僕よりもきれいなハングルを書けるようになっていたんです。一方の僕は、いつも「日本語を勉強します」と言うのに全然上達せず……。それがずっと心に引っかかっていました。そしたらありがたいことにNHKの「ハングル講座」のお話をいただきました。それを機に本格的に日本語を猛勉強して、今まで応援してくれたファンの方はもちろん、もっとたくさんの日本の方と日本語でコミュニケーションを取りたい、そして韓国の歌をもっと聴いてもらいたいと思うようになりました。それが日本で活動するモチベーションにもなっています。