ナタリー PowerPush - スネオヘアー

時代に寄せないセルフプロデュース作「8 エイト」

スネオヘアーの通算8枚目のオリジナルアルバムが完成した。その名も「8 エイト」。今作はスネオヘアー自らプロデュースを手がけており、彼が現在表現したい音楽が色濃く描かれている。ナタリー3度目の登場となる今回のインタビューでは、アルバム「8 エイト」の魅力を紐解くとともに、メジャーデビュー11年目に突入したスネオヘアーの音楽への向き合い方を探った。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類

「寄せなくていいや」って気持ちで

スネオヘアー

──今回のアルバム、もともとは2012年のメジャーデビュー10周年に合わせてリリースすべく制作されてたんですよね。

曲自体は早い段階からそれなりにまとまってたんですけど、さてどうやってレコーディングを進めていくかという、その準備の時間がけっこう長かったんですよね。そうこうしているうちに、ほかのアーティストさんからの曲提供の依頼があったり、いろいろやってたら「おいおい、そろそろ10周年も終わりだぞ」と(笑)。それでも年内のうちには作業に入りたいってことで、結局年末にスタジオに入って。正月を挟んで1回間が空いたりしながらのスローペースでしたね。

──じゃあレコーディングに入るときには、アルバムの全体像はすでに見えていた?

いや、アルバム曲をフィックスさせてからレコーディングセッションに入るんじゃなく、形が見えやすいものからどんどん作っちゃおうというやり方だったので。今、並行して宅録盤も作りたいなと考えていて、そっちの曲も同時に作ってたんですよ。

──宅録盤を作ろうとしているという話は、前回のインタビューでも少し明かされていましたよね。それを同時進行で進めていたと。

そうなんです。だからなおさら、このアルバムを最終的にどういう形にするのか、全体像は自分でも捉えづらくて。

──今回あえてプロデューサーを立てず、セルフプロデュースという方法を選んだのはなぜなんですか?

今さら誰かに委ねても、そんなに変わんないかなと思ったんですよ。むしろ自分でやり込んだほうが面白くなるかなって。どことも交わっていかない、さびしい感じになっちゃいますけど(笑)。

──セルフプロデュースのメリットとデメリットはどのあたりにあるんでしょうね。

メリットとしては、自分の表現したいことがそのまま出せることですよね。でもそれが“商品”として、シーンに対して、時代に対してどのぐらい寄り添うことができているのかという判断は難しいんですよ。

──ああ、そのジャッジまで自分で客観的にしなくてはいけないと。

そう。ただ今回は、決してネガティブな意味じゃなく「寄せなくていいや」って気持ちでしたね。むしろ寄せられないっていうか、自分がいいと思うメロディや雰囲気、カッコいいと思える音を徹底的に作ることに意味があるなと思ったので。「寄せていこう」って考えると、セルフだろうが人に頼もうが、意図的なプロデュースになってしまうというか。今はそれをやりたくなかったんですよね。自分で10年後に酒を飲みながら「いや、青いけど、なんかいいよねえ」とか言いながら聴けるようなアルバムが作りたかったんです。そのためには、時代に寄せていくんじゃなく、自分の中にあるものを丁寧に落とし込んでいくような作り方をしたほうがいいだろうなと。

サウンドに合う言葉がハマると曲が“倍加”する

──そういった作り方のせいもあってか、最初に通して聴いたときは、より個性の際立ったアルバムだなと感じました。シンプルなギターロック編成なんですけど、かなり緻密に作り込まれているような。

外に向いていないぶんだけ、自分の色は濃く出ていると思いますね。それにはエンジニアの中村(文俊)さんとの関係性も大きいです。お互いのキャリアや、一緒に作ってきた年月のおかげで。中村さんとも「今回は密にやりたいね」って話をしていて。余計なことに気を取られなかったぶん、もっと内側に密な時間がかけられたというか。

──ある意味、ここ最近のタイアップ曲などにあった取っつきやすさはなくなったかなという気もするのですが(笑)。

全体的に……地味ですよね(笑)。とにかく自然に「先々まで聴けるものを」ということだけ考えて作っていったら、こういうアルバムになっちゃったんです。改めて考えると、シングルにはやっぱり与えられた役割というものがあって。今回は何もないですから(笑)。

スネオヘアー

──「疾走感のある突き抜けたギターロック」みたいなところがシングルのイメージにあるとしたら、例えばアニメ「荒川アンダー ザ ブリッジ」や「好きっていいなよ。」から入った人は「ん?」と思うところもあるかもしれない。

その可能性は大ですね。歌詞もあまりポジティブなことは歌ってないし。かと言ってネガティブなことばかり歌ってるわけじゃないですけど(笑)。言葉で何かを伝えるというよりも、メロディとありきたりな言葉で、映像が浮かんでくるようなものにしたいというのはずっと変わらないんですよ。

──聴いている人それぞれが自分の中にあるイメージを思い浮かべるような。

そうですね。全部が全部というわけじゃないんですが、サウンドに合う言葉がハマったときに、曲自体の持つ力が倍加するような感じがあるんです。メロディも倍加するし、言葉もふくらんで、曲全体がブワッと体に入ってくるみたいな。そこに歌詞の物語は必要ないんですよね。昔は言葉遊びばかりになると意味がないと思ってたんですけど、このところはそんなふうに考えること自体、音楽的じゃないんじゃないかなって。

──そういった部分のスキルやセンスは、円熟と呼べるところまで達している感じはありますね。

もうね、バンドだったら解散したほうがいいですよね(笑)。何事も同じことをやり続けるのが一番大変だと思うんですけど、その先には何かあるんじゃないかなと。長く聴いていけるようなサウンドとリリックが、もう少しまとまりのあるものとして出せたら、あとは音楽辞めて喫茶店だなと思ってるんです。

──あはははは(笑)。

そこに近いものができていると思うので、今は本当に消え際を探っているような感じですよ(笑)。

ニューアルバム「8 エイト」/ 2013年5月22日発売 / スターチャイルド
初回限定盤[CD+DVD] 3300円 / KICS-91902
通常盤 [CD] 3000円 / KICS-1902
CD収録曲
  1. ブライトン
  2. ロードムービー
  3. slow dance -8ver.-
  4. Love & C
  5. nani o naiteruno
  6. one two sleep
  7. stay
  8. 8
  9. ユニバース
  10. if
  11. 素直になれそう
  12. game over death
  13. 君となら
初回限定盤DVD ビデオクリップ収録曲
  • game over death
  • slow dance -8ver.-
スネオヘアー
スネオヘアー

1971年新潟生まれのシンガーソングライター、渡辺健二によるソロプロジェクト。1999年にカフェオレーベルからアルバム「SUN!NEO!AIR!」を発表し、2002年5月にはシングル「アイボリー」でメジャーデビューを果たした。その後多くのヒットチューンを含むシングル、アルバムを多数リリースしている。その他、YUKI、坂本真綾、新垣結衣、THE COLLECTORSへの楽曲提供や、U.N.O.BANDのプロデュースなどでも幅広く活躍。2010年にはアニメ「荒川アンダーザブリッジ」のエンディングテーマ「逆様ブリッジ」でアニメファンからも大きな注目を集め、2012年10月にはおよそ3年ぶりとなるニューシングル「slow dance」を発表した。デビュー11年目のスタートを切る2013年5月22日に通算8枚目のオリジナルアルバム「8 エイト」をリリース。