sumika「Unmei e.p」インタビュー|揺るぎない意思と、培った大きな力を抱いて歩く3人の本音

まったく曲調の異なるバラエティ豊かな4曲の中に、決して揺るがない3人の意思がはっきりと見える。sumikaの新作EP「Unmei e.p」は、アニメ「ダンジョン飯」オープニングテーマ「運命」を筆頭に、斬新なミクスチャーロックナンバー「Poker Joker」、小川貴之(Key, Cho)がボーカルを取る「いつかの化物」、初の卒業ソング「卒業」を収録した充実作だ。

昨年末、片岡健太(Vo, G)の急性声帯炎によって、sumikaはライブハウスツアーをストップ。年末のイベントやフェスには小川と荒井智之(Dr, Cho)によるsumika[roof session]として出演した。片岡の復活を経て再び走り出したバンドは今何を思うのか? 3人の本音に迫った。

なお音楽ナタリーでは後日、4月21日に神奈川・ぴあアリーナMMで終幕したライブツアー「sumika Live Tour 2024『FLYDAY CIRCUS』」に関するインタビューも掲載する。

取材・文 / 宮本英夫撮影 / 梁瀬玉実

フロムゲーで培った精神力が生きました

──ひさしぶりのEPリリースということで、全曲にスポットを当てて、しっかりと話を聞いていきたいと思います。4曲のうち、最初にできあがったのはどの曲だったんですか?

片岡健太(Vo, G) 僕が作詞作曲した「運命」ですね。「ダンジョン飯」のオープニングのお話をいただいて、2023年4月には原型を作っていたので。しばらくライブを休んでいて、「さあ戻るぞ」というタイミングが去年の4月末だったんですけど、その直前に選曲会議をして。曲を決めてからライブ活動を再開した記憶があります。あの時期はスケジュールがぐちゃぐちゃだったから、正確な日は覚えていないですけど。

小川貴之(Key, Cho) 最初にデモを聴いたときは、好奇心のままに展開していく曲調だなと思いましたね。「とんでもないダンジョンに入っちゃったな」みたいな始まりなんだけれども、サビでグッと心をつかまれる……そのギャップがすごいなと感じました。サビが熱くて力強いのに、どこか軽快な響きがある。サビのメロディの軸がしっかりしているからこそ、ほかのセクションではわりと遊べるというか、いろんな展開ができる曲だなと思いましたね。今までやったことのないアプローチで鍵盤を入れてみたり、いろんなチャレンジができたのも、サビがしっかりしているからこそだと思っています。

──ピアノの音がすごく目立っていますよね。スウィングジャズっぽくもあり、ラグタイムっぽくもあるような。

小川 なんとも言えない、独特なフレーズを作ってみました(笑)。演奏は理屈抜きで、本当に楽しい。

片岡 このサビがあれば、ある程度枠から外れても大丈夫かなという感じはありました。Aメロからサビまでで来たあと、まだ時間的に余裕があるなと思って、イントロを足して。その尺を測ったら、サビ終わりまででぴったり89秒だったんですよ。自分でも完璧だと思いましたね。

──それはすごい。アニメ主題歌の慣例として尺が89秒に決まってますからね。先ほど小川さんも言っていましたけど、プレイヤーとしては、すごく楽しい曲ですよね。荒井さんはレコーディングいかがでしたか?

荒井智之(Dr, Cho) そうですねえ……楽しいけど、「大変」が先にくるんですよ。頭の中が忙しい(笑)。

──確かに、イントロからものすごく複雑でテクニカルですよね。1カ所でも間違えたら大変なことになる。

荒井 そうなんですよ。怖いですね。

片岡 俺、今だから言えることがあるんだよ。このドラムを考えたときに、さすがに「ヤバい」と思ったの。でも、「トモくんはフロムゲーやってるから大丈夫だ」って。

荒井 はははは。フロム・ソフトウェアというゲーム会社があって。その会社が作るゲーム、通称フロムゲーはすごく高難易度なことで有名なんです。何回も死にながら、攻略していくんですけど、そこのゲームが僕は好きで。

片岡 敵にかすっただけで死ぬみたいなゲームだから。「それをやってるから大丈夫だ」という結論になったの。でもその感覚、あるでしょ?

荒井 確かに、その感覚はありましたね。スタジオでずーっと聴いてて、「ここはこうで、こうなって……あ、違う、これだ」みたいな。フロムゲーで鍛えた精神力が、この曲では生きましたね(笑)。でも、忙しい分すごく集中できるし、そういうところに楽しさはありました。

sumika

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村人が主人公の物語だってあるはず

──歌詞に関してはいかがですか? 「“1” 唱えて」「“2” 闊歩して」「“3” 結んで」「“4” 叶えて」と、数え歌のように進んでいくのが印象的です。

片岡 数字表現は、過去の曲にも取り入れているんですけど、今回結成11年目のバンドとして、基本に立ち戻るようなマインドもあったんです。僕らが最初に世に出したのは「雨天決行」(2013年10月発売の1stミニアルバム「新世界オリハルコン」収録曲)という曲なんですけど、それも「ワン、ツー!」から始まっていて。そこからいろいろと大変なこともありましたけど、それでも0から1へとなんとか進んできて、今また当時の表現に立ち戻るのは胸熱だなと自分でも思いました。

──タイトルは最初に決めていたんですか?

片岡 ワンコーラス作ったあとに、これは「運命」だなと思いました。まさに最初のサビの歌詞の通りですね。

──「運命 願っているよ」のところですか?

片岡 「運命を願って、祈って」という、僕の当時の心境が、たまたま「ダンジョン飯」の作品の中で表現したいこととリンクしていたんです。そういう場合は、理屈とか抜きにして、合致している部分を大切にしたいというマイルールがあるので、奇をてらわずにそのままタイトルにしました。

片岡健太(Vo, G)

片岡健太(Vo, G)

──運命って決して逆らえない強いものかもしれないし、でも自力で変えられる部分もあるかもしれない。片岡さんにとって運命ってどういうものですか?

片岡 運命には「運ぶ命」と「運ばれる命」の両方の意味があると思うので、受動的でありながら、能動的でもあると思います。運命とは自分で作るものでもある一方で、自分たちの父親と母親や、おじいちゃんとおばあちゃんがどうやって出会ったかとか、今の自分が関与しようもない、抗えないものでもあると思うんですよね。その両方があるから、全部を操作しているとは思わないけど、自分で操作していないわけでもない。やっぱりどうにもできない流れみたいなものもありますけど、それを自分がどう捉えていくかのほうがむしろ大事というか。

──そうですね。そう思います。

片岡 占いと一緒で、いいことだけ信じて嫌なことは無視するという考え方もあると思うので。「これは運命なんだ」と言って、ポジティブになれるならなればいいし、「これは運命なのか」と思って、ネガティブになりたいならなればいいし、わりと都合のいい言葉ではあるのかなという気はしています。その価値観は、人それぞれ違うんじゃないかなと。

──片岡さんらしい解釈だと思います。後半の「勇者になんてなれないし」「僕は僕だけのジョブを生きていこう」というところも片岡さんらしい。人それぞれですよね。

片岡 僕はそう思っているから、こう書いていますけど、人によってはたぶん、自分が勇者だと思って生きている人もいるんでしょうね。勇者だと思って生きている人は、この歌詞を読んでも何かを得ることはないかもしれない。こういうメッセージを必要としてないはずだから、何かに救いを求める必要がないと思うんですよ。この曲を聴いて、何かパワーをもらってくれる人って、「自分は優秀じゃないし、人生の主人公ではないのかな」みたいなことを考える人が多いのかなと思う。でも自分が勇者じゃないからと言って、“主人公”じゃないかと言えば、そうではない。魔法使いが主人公の物語だってあるし、僧侶が主人公の物語だってあるし、村人が主人公の物語だってあるはずだから、「勇者じゃないことに一喜一憂しなくて大丈夫だと思うよ」ということだと思います。

──その歌詞に引っかかった自分は、まさにそっち側だなあと思ったりします。勇者じゃない。

片岡 そうですか(笑)。でもね、誰かにとっては勇者なんですよ、きっと。

素直な感情の起伏を、もっと大事にしたい

──2曲目の「Poker Joker」は作詞が片岡さん、作曲が小川さんですね。とんでもなく激しくヘビーな曲になっていますが、どのようなイメージで作ったんですか?

小川 最初のきっかけは、怒りでしたね。作っていたときにいろんな感情が渦巻いていたこともあったので、ラウドなミクスチャーサウンドになりました。歌もラップ調で言葉数の多いものにして、サビでしっかりメロディを歌うみたいな。そのときの自分のメンタリティを何かしらの形にしてみたくて、シンセサイザーでソロを取ってみたり、いろんなベクトルで怒りをサウンドの中に放出していきましたね。

──怒りが湧くような出来事があったんですか?

小川 何か特定の出来事に対する怒りではなくて、自分自身に対してだったり、はっきりしない心のモヤモヤを持ち続けながら生きていた時期があったんですよ。それを言葉にすることができないから、もう曲にしちゃおうと思って。うまくまとまってよかったです。

──最近のsumikaの曲としては、珍しい作り方ですよね。

小川 そうですね。ある意味、10代の頃の曲作りの方法と近いのかなと思います。大人になってきて、感情の曲線がわりと緩やかなカーブを描いている自分に対していらだっていたところもあった気がします。素直な感情の起伏を、もっと大事にしたいなと思っていた時期だったので。

小川貴之(Key, Cho)

小川貴之(Key, Cho)

──そういったテーマを受けて、片岡さんが歌詞を書いていったわけですか。

片岡 そうです。おがりんが言ったように、言語化できない、割り切れない感情は今もたくさんあって。SNSとかでは割り切った感じで正論を言って論破するみたいな風潮が顕著ですけど、そんなに単純なものじゃないと思うし、そういう風潮に僕はイライラする。そこに対して「どういうふうに怒りを表現していこうかな?」と考えたときに、同じ手法をやっちゃったら、その人と変わらないじゃないですか。怒りの表現として語気を強めたり、汚い言葉を使えば楽なのかもしれないですけど、それも違うと思うし、「ですます口調」で怒っていくのが僕の年齢にもマッチしているのかなとか、そういうことを考えていましたね。

──なるほど。

片岡  “割り切れない世界”があることは変わらない。どう転んでも誰かが何かを言ってくるから、そこで割り切って答えを出すこと自体がナンセンスな時代なんじゃないかなと思います。あとSNSで発言する人も、実名じゃないことも多いじゃないですか。それは掛け金ゼロでギャンブルをやっているのと変わらない気がしていて。でも、僕らの場合は何かを言ったら名前が出ちゃうから、そもそもそういう人たちとは違うルールの中にいるんですよね。そこに対するモヤモヤみたいなものを、おがりんからもらったクエスチョンに対するアンサーとして、書いてみました。歌詞として並んでいる言葉は、パッと見て意味がわからないものもあると思うんですけど。

──「ここは何を言ってるんだろう?」と読み解くのも面白いと思います。ドラムに関しても怒りがエネルギーになったんですか?

荒井 まあ、そうですね。攻撃力高めに叩かせていただきました。言ってみれば原始的というか、ドラムをやり始めた頃のように、とりあえず力いっぱい叩いています。