シングル「SOUND VILLAGE」インタビュー

自分たちをフラットに見てみよう

──ニューシングル「SOUND VILLAGE」の楽曲は、バンドにとって初の“作曲合宿”で生まれたものだそうですね。

片岡 そうです。みんなで山中湖に行って、合宿して、曲を作ってきました。

sumika

──そもそもどういうきっかけで、合宿に行こうという話に?

片岡 次の制作をどうするかということをメンバーだけで話し合ったときに、まず「自分たちをフラットに見てみよう」という話をしたんです。ここ数年のsumikaはとても恵まれた状況にあって。「こういう曲を作ってほしい」というお話を多くいただいていたのは本当にありがたいことで、これからも大切にしていきたい縁なんですけど、一方で僕はsumikaが作る音楽のファンとして、「この曲を本当に作りたくて作っているのかな。誰かに書かされているわけじゃないよね?」というふうに疑う部分が若干あったんですね。結論から言うと、それは「ない」んですけど、でも、そう思われたらすごく悲しいじゃないですか。それで合宿に行って、情報をシャットアウトした中で「音楽を作りたい」という気持ちをふつふつと煮えたぎらせて、そこから生まれてきたものが次に出す作品の最適解なんじゃないか?と。「曲を作らなきゃ」ではなく、「合宿に行こう」ということが先で、曲ができると信じてはいるけれど、できなかったら全力で謝ろうと(笑)。それぐらいの気持ちで合宿に行くという提案をしました。

──何日間行っていたんですか?

片岡 4泊5日です。

荒井 事細かくスケジュールを決めてやるというよりは、僕は遊びに行くみたいな感じでしたね。それで、まず機材を入れてセッティングして、「どうする?」「やってみる?」みたいな感じでのんびりやってたら、初日の夜に健太が「ある程度スケジュールを決めないと、あっという間に終わるね」と(笑)。2日目以降はざっくりと時間の使い方を決めていこうという話をしてくれて。

片岡 いや、思ってたより、メシが忙しかったから。

──どういうことですか?(笑)

黒田 それまで3食きちんと食べる生活を、あんまりしてなかったんです。でも合宿では9時、12時、20時と3食出していただけるので、朝起きて、朝ごはんを食べて、ちょっとゆっくりしてからやろうかと思ったら、もう昼ごはんになっちゃうみたいな(笑)。それで「朝ごはんはなしにしてください」とお願いして、そっちのほうが集中できそうだねと。

片岡 また、スタジオのマスターが作ってくれるごはんがおいしいんだよね。あの人の手料理を毎日食べられる経験なんて、なかなかないから。

荒井 幸せだよね。

「SOUND VILLAGE」通常盤ジャケット

──という素晴らしい環境が、サウンドビレッジにはあったと。ちなみにサウンドビレッジというのはスタジオの名前で、タイトルとジャケット写真を見た瞬間にわかっちゃいましたけども。

片岡 わかる人にはわかる(笑)。

──山中湖の近くにある、有名なスタジオですからね。そして合宿中には、何曲ぐらいできあがったんですか?

片岡 合宿では、曲の叩き台になるものをとにかくいっぱい作ろうと思ったんです。自分の頭の中だけだとわからないから、ドラムを叩いて、鍵盤を弾いて、ギターを弾いて、曲によっては隼ちゃんがベースを弾いて、いろんな形で立体化させたらどうなるか?という実証実験を繰り返したんですよ。それが結局、何曲になったんだっけ?

小川 22曲ですね。

片岡 とにかく曲を立ち上げまくって、その中から自分たちが一番イメージできるもの、次に出してワクワクするもの、最初に言った「自分たちは本当にやりたいことをやっている」ことが伝わるものをテーマとして選んでいって、これで進めていこうという骨格ができた状態が最終日でしたね。シングルとして、このような曲たちをこういう形で入れようというところに着地させて、山中湖をあとにしました。

“誰も知らないsumika”になれるんじゃないか

──サウンド的にも歌詞的にも見事に個性の分かれた4曲で、それぞれ喜怒哀楽のように聞こえました。まず1曲目「Babel」は、さいたまスーパーアリーナのファイナルで初めて聴きましたけど、びっくりしましたね。バンドサウンドが一切入っていない、完全なエレクトロサウンドのダンスミュージックで。

片岡 みんなびっくりですよね。メンバーもびっくりです。

──ここまでエレクトロニックなサウンドに振り切るというのは、どの程度頭にあったんですか?

片岡 曲の骨格みたいなものはあって、サウンドビレッジでバンド形態の音像を1回立ち上げてみたんです。でも次に出すなら「もっと振り切ったほうが面白いよね」ということになって、アレンジをしてくれる方と手を組んだほうが、sumikaも知らないsumikaになれるんじゃないか?と。その場でTeddyLoidさんの名前が出て、お願いできたらいいねという話はしていました。そしたら、TeddyLoidさんが予想の何十倍もパンチのある形で応えてくれて、思っていた以上のものになった。もともとこの曲を作るときに「毒の成分をちゃんと出したい」ということをしきりに話していたんですよ。sumikaはいつも機嫌がいいように思われたり、マイナスなことをまったく考えていない人たちだと思ってくれていることも多くあって。でも作っているのは人間なので、喜怒哀楽で言ったら“怒”や“哀”の部分もあるし、というものを表現したほうが人間らしいなという、そこにフォーカスしてアレンジも組んでいきました。

荒井 健太から「この曲はこうしたい」という提案を受けたときに「面白そう」と思ったし、上がってきたアレンジを聴いて、想像以上にカッコいいなと思いました。僕は何もやってないですけど(笑)、すごく新鮮だったし、これをsumikaとして世に出すことに対して不安はないというか、めっちゃカッコいいと思います。むしろ周りのほうが心配してくださる方もいて、「メンバーが決めたのなら信じるけども、大丈夫?」「大丈夫だと思いますよ」って言ったりして(笑)。たぶんメンバーのほうが能天気というか、すごくポジティブに捉えていたのかなと思います。

──歌詞は、恋愛の物語の中で、手ひどい裏切りに出会ったときに何を思うか?ということがテーマになっているように受け取りました。この歌詞を書いた最初のきっかけはなんだったんですか。

片岡健太(Vo, G)

片岡 歌詞を書き始めたきっかけは、僕の中にあります。人のことを許さないぐらいまで怒るということは、本当に人生に数回だと思うんですけど、それが起きたときにちゃんと肯定したいという感情があるんですね。普段は「そういうことがあっても許さなきゃいけない」という考え方があって、じゃないと「器が小さい」と言われてしまうと思うんですけど、「一生許さない」という人間が1人ぐらいいてもいいんじゃないか?と。少なくとも、そういう感情があることを罪悪感のように思う必要はないというか、怒る権利は誰にでもあるわけだし、大事な感情だと思うんです。僕は“喜怒哀楽”というのはフラットなものだと思っていて、そもそも怒りがないということはないよなと思うんですね。心に波風が立たないと、だんだん人間らしくなくなっちゃうと思うし、「怒りを肯定したい」ということが、この曲の一番強い気持ちかもしれないです。

──実際にそういうことがあったんですね。みなまで言わずとも、いいですけれど。

片岡 この歌詞を書くうえで一番考えていたのは……sumikaを組む前の話ですけど、嘘を言ってくる大人の人とか、約束したことをやってくれない人とか、不義理だなと思う人とか、人道に欠いた行動をしている人とか、そういうこともフラッシュバックさせながら書いていました。そこに音楽でフルカウンターを食らわせたら、その人は嫌だろうなと思いながら。すごい性格悪いですけど(笑)。

──いや、大事な感情だと思います。ストーリー的には、浮気男と女の子の物語っぽく見えるけれど、いろんなことに置き換えられますよね。反響が楽しみな1曲です。

片岡 すでに聴いてくださった方から「私はこう思う」とか、いろいろ考察もいただいてるんですよ。「そういう受け取り方をしてくれてるんだ」ってニヤニヤしながら、ご褒美のような時間をいただいています。これからの反響も楽しみです。