真面目なシーンの0.5秒後に全裸
──歌詞はどのように考えていったんですか?
片岡 おがりんも言っていましたけど、歌謡曲っぽいテイストは感じたので、80'sの歌謡曲の歌詞を意識しました。「バンバン」「ヘイヘイ」とか、擬音がけっこう多くなっています。今までだったら「そこを歌詞に置き換えて、ほかの言葉で表せないか?」と考えていたんですけど、この曲に関しては擬音のままで。カタカナがたくさん入ってきて混ざり合う感じが、僕の中では80'sの歌謡曲っぽさかなと思っていて、そこに挑戦したところはありますね。
──言葉が悪いかもしれませんが、いい意味でのダサさといいますか。
片岡 そうそう、カッコつけない感じ。言葉の意味を深く追求するというよりも、言葉遊びをしながらメロディをハメていくというのが、やっていて楽しかったです。これまでのsumikaのイメージとは違う部分もあるでしょうし、この曲で出会ってくれた人は、今までとは違った形の「はじめまして」ができると思うのでそれも楽しみですね。
──そしてタイトルが面白いですよね。なぜかセレナーデを絶叫するという。
片岡 この曲はとんでもない量のタイトル候補があったんですよ。今、歌詞のメモを見ながら話してるんですけど……ほら(画面に向けて見せる)。
──歌詞より長い(笑)。
片岡 そうなんです。レコード会社のスタッフと2人で「これもいいよね」ってLINEしながら、日ごとに仮タイトルが変わっていって。そろそろ決めないとヤバいという日の深夜に、メンバーのみんなにタイトル案を送りまくりました。
──例えば、ほかにどんな候補があったんですか?
片岡 えーっとね……あっ、これヤバいですよ。「燃えろボンボヤージュ」。
一同 ははは(笑)。
片岡 あと「鎌倉セレナーデ(鎌倉じゃないけど)」とか。なんで注釈付きなのかよくわからないんですけど(笑)。いろいろありましたね。
──そして「絶叫セレナーデ」に決定したという。
片岡 セレナーデ=小夜曲でありながら、なぜか絶叫しているという、ミスマッチな感じがよかったんですよね。映画のほうも、すごく真面目なシーンがあって「これは青春映画なんだな」と思った0.5秒後に登場人物が全裸になってるみたいな作品なので(笑)。瞬きしている間に脱いでいたりするんですよ。その感じがタイトルのミスマッチ感につながっていると思います。
──こういう時期だからこそ、元気付けてくれるようなパワフルな映画があるのはいいですよね。
片岡 そうなんですよね。本当は5月公開だったところ延期になって、今年の夏に「ぐらんぶる」が公開されるというのは、僕の個人的な思いとして、足りなかったものが補完されるというか……「海に行けない、お祭りにも行けない、花火もない」という状況の中にこういう映画があってくれるのは、1人のお客さんとしてよかったなと思うんです。「こんなバカなことを2020年にやってくれてありがとう」という気持ちがありますし、このタイアップをやれてよかったなとも思う。公開時期が夏に変わったことで、余計にありがたみが増した感じがあります。
ピュアピュアな恋愛ソング
──挿入歌「唯風と太陽」も小川さんが作曲を手がけています。こちらはメロディアスなミドルバラードですね。映画サイドから曲調のオーダーがあって作ったんですか?
小川 いえ、「いい曲をお願いします」と言われただけでした。「こういう場所に入れたいんです」という映像をいただいて、あとは「sumikaのいい曲がハマれば最高です」と言われたので、単純にいい曲を作ろうという意識で作っていきましたね。「絶叫セレナーデ」に関してはわちゃわちゃしていて、登場人物がすごく多い感じなんですけど、「唯風と太陽」に関しては人数を減らして、2人のキャラクターの距離感、日常感をイメージしたうえでラブソングを作りました。
──ネタバレになっちゃうとよくないかもしれませんが、しっとりとした、いいシーンでかかるんですかね?
小川 いやー、ところがどっこい(笑)。そこは本当に、いいギャップがあると思います。
黒田 「ここに入るよ」という映像が、すごくパンチのある映像だったので、そのシーンのことは1回置いておいて(笑)。おがりんが言ったように、人数感で言うと1対1だし、sumikaの曲の中でもピュアな好き度がすごく強い曲だなと思ったので、ギターもそういうことを意識しました。サウンドで言うと、レスリースピーカーでギターを鳴らすことを初めてやらせてもらいましたね。プラグインソフトは使ったことがあるんですけど、実機を使ってマイクを立てて録るのは初めてで。
──レスリースピーカーの実機を使用するって、すごく贅沢ですね。
黒田 貴重な体験をさせてもらいました。Bメロとかに入っているんですが、海の静かな波とか、水しぶきとか、光が飛ぶ感じにすごく合うなと思ったので、それはうまく表現できたなと思っています。
荒井 僕も映画のことは1回頭から外しましたね。「この曲をとにかくいい曲にしよう」という純粋な思いで制作に取り組むことが、結果的に映画との相乗効果にもつながると思ったので。「このメロディを一番よく聴かせるためにはどういうリズムがいいか?」ということを考えて、ゆるやかな波が続いているような感じの、落ち着いたリズムになったのかなと思っています。
片岡 みんなも言ってるように、映画のことは考えずに曲のことにだけ集中して作ったんですけど、ピュアピュアな恋愛ソングをひさしぶりに書いたなという気がします。歌詞の背景としては、学生時代のことを思い出して作っていました。序盤から「クラスの窓」という言葉が出てきたり。
──この曲は、彼女が「太陽」で、僕が「風」という比喩ですよね。
片岡 そうですね。曲の中で「風」の視点が変わっていくんですよ。風がだんだん自分になっていく。
──ああ、なるほど。風が彼女の笑顔を運んだり涙を拭ったりしていたのが、それは僕の役目だということになっていくという。いい歌詞ですね。
片岡 ありがとうございます。映画のシーンとは、かなりギャップがありますけどね(笑)。でもギャップが生まれれば生まれるほど楽しいから、「映画のタイアップだけど映画のことを考えないようにする」という、よくわからないミッションを自分に課していました。映画のシーンを想像したら負けだと。
──それが正解だったわけですね。
片岡 今回は正解だった気がします。試写会で見たときには、めちゃくちゃ笑いましたけどね(笑)。あれはヤバいので、楽しみにしていてほしいです。
小川 最高ですよ(笑)。
後悔しないものを作っていきたい
──「ぐらんぶる」とのコラボは2曲とも、sumikaにとってとてもいい実りになったのでは?
片岡 そうですね。今までいろんなタイアップをやらせていただいて、1つとして同じあり方はなかったんですけど、今回携わらせてもらった映画「ぐらんぶる」は、今までのタイアップとは全然質の違う掛け算だったので。今まで結んだことのない関係性の作り方だったから、これからに生きるだろうなと思いますね。映画の制作チームの人もみんな振り切っていて、いい意味で変な人ばっかりだったんですよ。変な人は大好きですし、純粋に面白かったです(笑)。こんなに笑える作品だけど、皆さん真面目に笑いを考えているんですよね。笑えるだけじゃなくて、尊敬しました。
──密に気を付けつつ、ぜひ多くの方に劇場に足を運んでほしいですね。
片岡 はい。でも、この映画を言葉で伝えるのは難しいですね。さんざん伝えようとしてみたんですけど、無理だなって(笑)。映像をぜひ観てほしいです。
──このシングルをリリースしたあとのsumikaの活動について、今言えることはありますか?
片岡 常に「何をやろうか?」ということは考えています。僕らの生きている世界はスピード勝負の世界でもあると思うんですけど、バンドをやっていくうえでの目標は「ずっと続けていくこと」なので。僕らがおじいちゃんになっても、聴いてくれる方がおじいちゃん、おばあちゃんになっても、音楽を続けていくことを目標にやっているから、こういうときだからこそ、ちゃんと1個1個丁寧に作って発信して、後悔しないものを作っていきたいです。外から見ると、もしかしたらスピード感がないように見えるかもしれないけど、1つずつメンバーやスタッフと話し合いながら「何年経ってもこれだったら後悔しない」という考え方で作っています。また新しく何かが出るとしたら、それはバンドとして何をやるのか、誠心誠意向き合って出した答えですね。こういう状況でも気をてらわず、いつも通りに考えながら発信していきたいなと思っています。