いとうせいこうさんのおかげで完成した「フィクション」
──「Fiction e.p」は4曲入りCDですが、どのような過程でこの形になったのでしょうか?
片岡 4曲全部が違うアプローチだけど、どこを切り取ってもちゃんと「sumikaです」って言い切れる作品を作りたいなあと思って。「SALLY e.p」(2016年12月発売の4曲入りCD)と同様に、全曲リードの4曲入りというボリュームで作りたいとスタッフチームに提案しました。
──タイトルの「Fiction e.p」は、1曲目の「フィクション」ができてから付けたのでしょうか?
片岡 同じタイミングですね。“片岡インスピレーションノート”っていうのがあるんですけど(笑)、そこに「こういうタイトルいいな」というメモがバーっと書いてあって、「フィクション」はそのうちの1つだったんです。1曲目は仮タイトルから「フィクション」だったんですけど、最初は「フィクション」という言葉の解釈がしっくりこなくて。自分の中で“フィクション”と“嘘”の境界線が曖昧だったんですよ。そんな中、番組(去年11月にスペースシャワーTVでスタートした初の冠番組「sumikaのコシカケ」)でいとうせいこうさんとお会いして。
──小川さんがいとうせいこうさんに手料理を振る舞ったそうですね。
小川 はい、すき焼きを作りました(笑)。
片岡 その中で、せいこうさんから「ラップしたことないんだったら、やってみたらどうかな?」って提案していただいたんです。それでみんなでラップに挑戦したら、けっこう面白くて。韻を踏んでいく面白さもあるんですけど、ラップの楽しみ方の1つは“連想ゲーム”なんだなと。
──最初の言葉からどんどん先につなげていくという。
片岡 そうそう。結果的に違うところに着地するのが面白いなって。それを知ったときに「フィクション」から連想してみたんです。フィクションってなんだろう……創作物だなあ。で、自分が創作物という名の曲のタネを作るとき、いつも家で1人だなあって。そのあと想像したものをメンバーに聴いてもらって、スタッフに聴いてもらって、お客さんに聴いてもらってという流れがありますけど、そもそもゼロから1になる作業が“フィクション”なんだって気付いたんです。準備も含め、そのフィクションの一切合切が“創作物”なんだなって。
──なるほど。
片岡 まず想像しないと何も実現しないし、自分の中で物語を描かないと感動もしないなと思って。例えば100万円拾ったとしても、過去に「100万円拾ったら何に使おうかなー」って思ってなかったら、喜びようがないと思うんです(笑)。あと、急に親に褒められたとか。「いつか褒められたいな」と思ってた自分が数年前にいたから、うれしいんだと思うんです。
──確かに、そうかもしれません。
片岡 そう考えていたら、途端に「フィクション」というワードがポジティブに思えてきたんです。“フィクション”って“嘘”じゃないな、いいタイトルだなと。それが1曲目の「フィクション」ができたのと同じタイミングで、この言葉をそのまま掲げて4曲並べたら面白いかもと思って。それぐらい「フィクション」が自分にとってパワーワードだったんだと思います。
──とても素敵な解釈ですね。
片岡 せいこうさんのおかげです。すき焼き用の肉持ってご挨拶に行かないと(笑)。
「ヲタ恋」も“半径2m以内”にある幸せを描いてる
──1曲目「フィクション」はこの春フジテレビ系ノイタミナ枠で放送がスタートしたテレビアニメ「ヲタクに恋は難しい」のオープニングテーマです。sumikaがアニメのタイアップを手がけるのは初めてですが、お話をもらったときはどう思いましたか?
片岡 まずは原作を読もうと思って。sumikaのタイアップに対しての考え方として、アイテムや作品のテーマとリンクする部分や、自分たちから生み出してプラスになれる部分が想像できるのであれば、全力でお受けしようと。それが無理ならちゃんと「できません」って言わないと失礼になっちゃうと思うんです。それで今回「ヲタクに恋は難しい」の原作を読んだとき、作品の中で描かれているものとsumikaにリンクしている部分があったので、単純にそこを描けばいいんだなと思いました。しかも今、自分自身が書きたいことも同じで。だから「フィクション」は書きたいことを書いた曲なんですよ。
──リンクしてると思った部分はどんなところでしたか?
片岡 「ヲタクに恋は難しい」は、突拍子もないことが起こるような作品ではないですよね。SF的なものではなく、半径2m以内にあるような、日常の中にある幸せを描いてる。
──片岡さんはご自身のソロライブに「半径2mのはなし」というタイトルを付けていますよね。
片岡 はい。そういうライブ会場の選び方もそうですし、いろんなところにリンクするなと。「ヲタクに恋は難しい」を通して「幸せなものって実は近くにあるんじゃないかな」ってことに、改めて気付かせてもらいました。
──「ヲタクに恋は難しい」の主要キャラクター4人のやりとりや温かい空気感は、sumikaのメンバーにも共通していますね。
片岡 そう思います。キャラクター4人も、個々に大事にしているものは違うじゃないですか。それぞれがオタクだけど異なるジャンルが好きで。sumikaの4人も聴いてきた音楽も違うし、育ってきた環境も違って。でもお互いに大事にしたいものは理解し合っているし、そのうえで大切に思えているっていう関係性もリンクしましたね。
sumikaの5年間の物語を曲にした
──「フィクション」は「ストーリー」「展開」「キャラ」といった、アニメやコミックを感じさせるような歌詞もありつつ、1曲を通して人生のことを歌っていますよね。
片岡 まさしく、音楽人生を歌いました。sumikaは今年結成5周年で、休んだ期間もあり、その間にメンバーが増えたり、聴いてくださる方も増えたりして、本当にいろいろと紆余曲折ありまして。でも、その全部を“物語”だと思って読み返してみたら、本当に素敵なことがいっぱいあったなと。つらいこともあったけど、忘れたくないことばっかりなんですよね。だから、ひとまずこの5年間のことを忘れないように曲にしようと思いました。
──ほかの皆さんは、歌詞を読んでどんなことを感じましたか?
黒田 一番好きなところは、Cメロの「付箋の場所を読み返し そこに在ったストーリー 彩るキャラは居ましたか さあ 思い出して」ってところで……いたー!!ってなりました(笑)。
──ちなみに、どんなことを思い浮かべたんですか?
黒田 僕、ちっちゃい頃社宅で育ったんですけど、最近その社宅が取り壊されちゃったんですよ。で、それを見に行く機会があって。ちょうど自分が住んでた部屋がガシャーンって壊される瞬間を見て、「何もなくなってしまったなー」って寂しかったんですけど、いやいやいや! 物理的なものじゃなくて、ここで過ごした時間が自分の中にある。家族と一緒に過ごしたその時間っていうのは、圧倒的に幸せだったなって……。
──そんな思いのときに、この歌詞を見たんですね。
黒田 そうなんです! この1月からの制作期間、僕は総じてエモい気持ちでした!
片岡 すごいプライベートの話きた……お疲れさまでした(笑)。
小川・荒井 お疲れさまでした(笑)。
黒田 ありがとうございます。無事抜け出しました。
──(笑)。小川さんは歌詞を読んでみていかがでしたか?
小川 片岡さんが書く曲、けっこう自分の人生に置き換えて勝手にぐっときちゃうタイプなんですけど、またこれも「きたかー」と思って。常に「そうなんだよ、そうなんだよ……」って思うぐらい(笑)、毎回思いを代弁してくれるんですよね。大人だから声に出せないような大切なこともちゃんと言ってくれるし、歌詞で補填してもらえて救われる一面もあるし。僕自身、sumikaに出会って大きく変わったし、音楽人生の“色”が増えた部分もたくさんあるので、できあがった「フィクション」を聴いたときに「この曲はずっと聴いていられるな」と思いましたね。
──ちょうど4月ですし、新生活を始める人の背中を押すような楽曲にもなりそうですね。
荒井 歌詞の「ひらり ひらり」という単語が持つ花びら感から、僕も始まりの歌っていうイメージがあって。この曲自体、今年のレコーディングの一発目だったんです。これから始まる新しいツアータイトルも「Starting Caravan」だし、5周年を迎えて新たなスタートだし、sumikaにとっても新たな始まりの曲ですね。
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聴くたびに“涙の跡”を思い出せるように
- sumika「Fiction e.p」
- 2018年4月25日発売 / Sony Music Records
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初回限定盤 [CD+DVD]
2052円 / SRCL-9756 -
通常盤 [CD]
1296円 / SRCL-9758
- CD収録曲
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- フィクション
- 下弦の月
- ペルソナ・プロムナード
- いいのに
- 初回限定盤DVD収録内容
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「sumika Film #3」
2017.10.26東京国際フォーラム ホールAでのライブ映像- Answer
- Lovers
- Summer Vacation
- まいった
- ここから見える景色
- ふっかつのじゅもん
- アイデンティティ
副音声:メンバーによるオーディオコメンタリー収録
ツアー情報
- sumika「sumika Live Tour 2018 "Starting Caravan"」
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- 2018年5月8日(火)
神奈川県 カルッツかわさき - 2018年5月11日(金)
宮城県 トークネットホール仙台 大ホール - 2018年5月13日(日)
北海道 札幌市教育文化会館 大ホール - 2018年5月18日(金)
新潟県 新潟県民会館 大ホール - 2018年5月26日(土)
広島県 上野学園ホール - 2018年5月30日(水)
香川県 サンポートホール高松 大ホール - 2018年6月1日(金)
熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館) - 2018年6月8日(金)
福岡県 福岡市民会館 大ホール - 2018年6月10日(日)
石川県 本多の森ホール - 2018年6月22日(金)
愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール - 2018年6月23日(土)
愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール - 2018年6月30日(土)
東京都 日本武道館 - 2018年7月1日(日)
東京都 日本武道館 - 2018年7月14日(土)
京都府 ロームシアター京都 - 2018年7月17日(火)
兵庫県 神戸国際会館こくさいホール - 2018年7月18日(水)
大阪府 フェスティバルホール
- 2018年5月8日(火)
- sumika(スミカ)
- 片岡健太(Vo, G)、荒井智之(Dr, Cho)、黒田隼之介(G, Cho)により2013年5月に結成されたバンドで、sumika[camp session]名義のアコースティック編成でも活動している。同年10月に1stミニアルバム「新世界オリハルコン」をリリース。2014年11月にはmurffin discs内レーベル・[NOiD]の第2弾アーティストとして2ndミニアルバム「I co Y」を発売する。2015年2月にサポートメンバーの小川貴之(Key, Cho)がバンドに正式加入し、6月に3rdミニアルバム「Vital Apartment.」をリリースした。8月には片岡の体調不良によりライブ活動を休止。その後11月に東京・shibuya eggmanで行ったワンマンライブをもって活動を再開させる。2016年3月には活動再開後初の作品として両A面シングル「Lovers / 『伝言歌』」を、2017年7月には初のフルアルバム「Familia」をリリース。2018年4月に新作CD「Fiction e.p」を発売した。バンド結成5周年イヤーに突入する5月からは東京・日本武道館公演2DAYSを含むバンド史上最大規模のホールツアー「sumika Live Tour 2018 "Starting Caravan"」を開催する。