尾上松也が主演を務め、ももいろクローバーZの百田夏菜子がヒロインを演じた映画「すくってごらん」のBlu-ray / DVDが発売された。
「すくってごらん」は大谷紀子による同名マンガの実写映画として、今年3月に全国で劇場公開された作品。とある失敗で左遷されたプライドは高いがネガティブな銀行員・香芝誠が、都会から遠く離れた地で出会った“金魚すくい”を通じ、思いもよらない成長をしていく物語が描かれている。映画初主演となった松也が香芝を演じ、百田は彼が左遷初日にひと目ぼれするミステリアスな美女・生駒吉乃役に挑戦した。
劇中にはポップスやロック、ラップなど、キャストによる多彩な歌唱シーンがふんだんに盛り込まれており、百田は映画の撮影のために特訓したピアノの演奏も披露。Blu-rayの初回限定 絢爛版には主題歌を含む劇中歌全16曲を収録したCDが同梱されている。音楽ナタリーでは映画公開時に真壁監督へのインタビューと、キャストおよび音楽制作陣のコメントを掲載したが(参照:映画「すくってごらん」特集 真壁幸紀監督インタビュー+尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人、石田ニコル、音楽制作陣コメント)、今回は松也、百田、映画の脚本と劇中歌全曲の作詞を手がけた土城温美の3人による鼎談をセッティング。印象に残っている楽曲の話題を交えながら、映画の制作や撮影を振り返ってもらった。
取材・文 / 近藤隼人撮影 / 入江達也
監督が描く世界観をどう受け止めたのか
尾上松也 土城さんとお会いするの、スーパーひさしぶりですね。
土城温美 撮影の初日にお会いしたとき以来ですかね。「すくってごらん」はロケ地が奈良で、1日だけご挨拶に行っただけだったから。
松也 試写のときにもお会いしたと思いますが、それももう1年は前のことで、ちょこっと挨拶したくらいでしたよね。
──撮影中に脚本や歌詞のことでやり取りすることはなかったんですか?
百田夏菜子 全然なかったです!
土城 そこは監督を通していたので。
松也 今日、土城さんにぜひお聞きしたいのは、監督の世界観をどう受け止めていたのかということなんです。僕は脚本を読んだときにぶっ飛んでいて面白いなと感じたんですけど、脚本や歌詞を作るときに監督と打ち合わせするわけじゃないですか。監督はなんて言ってたんですか?
百田 それ、めっちゃ気になります。
土城 「カッコ悪い、ダサいものには絶対にしたくない。おしゃれにしたい」とずっとおっしゃっていて。日本のミュージカル映画だと、どうしても違和感を感じる場合があるというか、特に映画だと海外のミュージカルものとは絶対に違うものになってしまうので、そっちの真似はしたくないし、かと言って和に走りすぎるのも嫌だし、どうやって一番いい形に持っていくかを探っていましたね。歌詞についても物語の展開についても。
松也 構成については、監督が最初から具体的なものを描いていたわけではなかったんですか?
土城 そうですね。基本的には脚本の中であの流れを作っていきました。
百田 すごい!
松也 よく監督のイメージを受け取れましたね。
土城 制作期間が長かったので、最初と比べたらだいぶ違う話になりました。特に吉乃のピアノの要素とか、原作ともかなり違うものにはなりましたが、大谷先生が受け入れてくださって。ミュージカルって日本人にとってちょっと恥ずかしくなっちゃうところがあると思うんですけど、私はすごくミュージカルが好きで、いろいろと勉強していた中で、スッと受け止めやすいのは音楽を奏でる必然性があるシーンだと気付いたんです。それで音楽的なモチーフを入れるために吉乃のピアノや、カフェバーでのライブシーンを盛り込んで、ミュージカル的な展開になるのが不自然じゃないように持っていきました。
松也 そうなんですね。最初に脚本を見たときは何がなんだかよくわからなかったです。
土城 (笑)。
松也 歌が入ってるのも衝撃的でしたし、そのお芝居の流れも決して「さあ、歌にいきますよ」という感じで作られてなくて。すべてが突然始まって突然元に戻るみたいな。「なんじゃこりゃ!」という世界だったので、これがどう映像としてつながっていくのか、最初はまったくイメージができなかったですね。いや、最初の頃どころか、現場でもよくわかってなかったです(笑)。
百田 監督の頭の中の世界についていけず、必死にみんなで感覚を共有していた感じでしたよね。もちろん監督も言葉で伝えてくださいますし、同じところに向かって走ってるんですけど、先を行きすぎていて全然追いつかないんです。でも、みんなであーだこーだ言ってもがきながら作っていくのがすごく楽しくて。特に吉乃の感情はセリフにわかりやすく表れていないので、情報が少ないじゃないですか。「この人、何を考えてるんだろう?」と不思議に感じる女の子で、脚本から心情を読み取るのが難しかったんですが、そういうときは曲の雰囲気や歌詞を頼りにしてました。歌から読み取るのもそれはそれで難しかったんですけどね(笑)。最終的に完成した映像を観たときに「なるほど!」と理解できました。
全編英語のラップを歌うなんて、もう一生ない
松也 僕として聞いておかなきゃいけないのは、土城さん、「Numbers」はどういう狙いで書いたんですか?
土城 あははは!(笑) 英語詞のラップ曲ですからね。これは最終的に英語詞にしたんです。最初はこの形ではなくて。
松也 最初は日本語だったんですか!?
百田 日本語版、めっちゃ聴きたい!
土城 「数字だけは友達なんだ」みたいな内容でした。なんでも数字に例える人っていう、香芝の人となりをここでわかりやすく説明したいなと、脚本家の頭で思ったんですけど、「それだけじゃつまらなくない?」という話になって。監督のアイデアで英語のラップになりました(笑)。私はストンプが好きなので、銀行を舞台にストンプができたらいいなという話にもなり、だったら英語だろうと。
松也 ストンプの要素はすごくいいですよね。それで英語にしちゃったと。面白いですね。全編英語のラップを歌うなんてこと、もう一生ないと思います。
百田 私、「Numbers」大好きです。たぶん、普通の感覚だったら日本語も混ぜるじゃないですか。
土城 特に説明する気はないんだなっていう(笑)。歌うときは相当練習なさったんですか?
松也 発音やリズムの取り方が慣れなくて、レコーディングのときはかなり苦労しましたね。土城さんとしては、完成した映像を観て「ああ、やっぱりこうなったか」と納得する感じだったんですか?
土城 そうですね。監督と共有できていたと感じる部分が多かったです。監督は本当にこだわって作っていらしたので、その頭の中になんとか潜り込もうと思って、歌詞の雰囲気1つひとつに向き合って考えました。
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新しい自分を発見できるいい機会だった