音楽ナタリー Power Push - スキマスイッチ「re:Action」特集
スキマスイッチ&ベニー・シングス
宅録出身の2組が語る、ポップソングの定理
スキマスイッチが2月15日にニューアルバム「re:Action」をリリースする。本作は奥田民生、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、フラワーカンパニーズ、小田和正、RHYMESTER、KANら12組のアーティストをプロデューサーに迎え、過去の楽曲をリアレンジした作品。このアルバムの完成を受け、音楽ナタリーではスキマスイッチと共に、今回のアルバムで「晴ときどき曇」のアレンジを担当したベニー・シングスを迎えてインタビューを行った。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 岩佐篤樹 通訳 / 林美和
80'sなサウンドで生まれ変わった「晴ときどき曇」
──ベニーさんは今回のアルバムで「晴ときどき曇」のアレンジを担当しました。常田さんと大橋さんは以前からベニーさんの音楽を聴いていたんですか?
常田真太郎(Piano, Cho) もちろん。卓弥とも「いいよね」ってよく話してました。
大橋卓弥(Vo, G) 宅録という言葉に反応しちゃうんですよね。僕らもインディーズ時代は自宅で制作することが多かったから、ほかのアーティストの楽曲を聴いて「宅録でこのクオリティって、すごくない?」みたいな話をよくしていて。
ベニー・シングス 僕自身、ホームレコーディングで活動を始めているから。2007年に発表したアルバム「Benny...At Home」は、まさにその要素を押し出した作品だね。
──ベニーさんは「晴ときどき曇」を最初に聴いたとき、どう感じました?
ベニー 楽しかったよ。「オールドファッションな曲作りをしているトラックだな」と思った。The Beatles的なところも感じられて。
常田 うん、まさに。
大橋 特にあの曲はThe Beatlesのサウンドを意識して作ってましたから。
ベニー 僕もクラシックなコード進行やメロディが好きだから、すごくいいなと思って。今回の「晴ときどき曇」のアレンジは80'sスタイルにしたという感じだね。
大橋 ベニーにアレンジしてもらった「晴ときどき曇」は、彼らしいサウンドになったなと思いました。最近のアルバムを聴かせてもらったときも「80'sにハマってるのかな」という印象があったし、「晴ときどき曇」も、そのスタイルでアレンジしてくれたんだろうなってわかりましたし。いろいろなアーティストに僕らの楽曲をアレンジしてもらうというコンセプトにもピッタリだったと思います。
ベニー 時期によっても違うんだけど、今の自分のフィーリングが80'sなんだよね。最近の制作ではKORGのTritonというシンセを使っていて、これは1990年代に有名になった機種なんだけど、80'sの雰囲気に近い音を鳴らすことができるんだ。
常田 「晴ときどき曇」のトラックもTritonのサウンドを駆使した、僕らとはまったく違う感覚のアレンジになっていて、すごいなと思いました。自分たちでアレンジしていると、どうしてもセオリーを意識してしまうところがあるんですが、ベニーはインスピレーションでパッと形にするセンスがあるというか。音色も個性的だし。
ベニー 今僕が使ってるサンプル音源、渡そうか?
常田 え、ホントですか?
ベニー うん。よかったら、あとで。
常田 お、やった!
──ははは(笑)。スキマスイッチの2人も80年代の音楽は通ってますよね?
大橋 もちろん。AORが好きなので。Steely DanやDaryl Hall & John Oatesも好きだし。
ベニー いいね!
僕にとって、スタジオは楽器
──大橋さんのボーカルは、オランダのアムステルダムにあるベニーのスタジオで録ったそうですね。
大橋 面白かったですよ。日本語の歌詞がわからないだろうから、翻訳したものを送っていたんですけど、やっぱり感覚が違うんですよね。歌の録り方も、ベニーは歌を素材として捉えている感覚に近いんですよ。歌詞を意味ではなく音として捉えているというか。まずAメロのパートだけを作って、「じゃあ、次は2番のAメロを歌って」「次はサビ」っていうふうに、パート区切りでレコーディングを進めて。普段のスキマスイッチのレコーディングは頭から最後まで通して録ることが多いから、そこは全然違いました。
ベニー いつもは「今日はコーラスだけ」「今日はAメロだけ」という感じなんだけど、1日しかなかったから凝縮してレコーディングした感じだね。
──ベニーさん自身の楽曲の制作も、パートごとに分けて作っていくんですか?
ベニー そうだね。例えば2005年の5月に録音したサビのパートがあったとして、残りのAメロ、Bメロはまったく違う時期に作ったものと組み合わせるんだよ。それは何カ月前かもしれないし、もしかしたら何年前かに作ったフレーズかもしれない。普通、曲作りとプロデュースは別物だけど、自分の場合は曲作り=プロデュースなんだ。
常田 なるほど。僕らはまず曲を作って、歌詞を書いて、それからアレンジするという順番ですから。結果的には同じかもしれないけど、プロセスは全然違いますね。
大橋 思い付いたフレーズを録っておくのは同じかもね。僕もボイスレコーダーの中に800trくらいフレーズが入っていて、今できたサビに対して「半年前のフレーズをAメロにしよう」ということもあるので。それをシンタ(常田)くんに「こういう曲があるんだけど」って提案して、そこから2人でアレンジして。
常田 曲を作り始めたときからミックスのことも考えてるんですか?
ベニー フレーズを作る段階からミックスまで含めて考えてるね。僕にとっては、スタジオが楽器なんだよ。何かいいアイデアがあったら、スタジオという楽器を使って作業する、という感覚なので。
常田 なるほど。興味深いな。
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- ニューアルバム「re:Action」 / 2017年2月15日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [Blu-spec CD2 2枚組] / 3900円 / AUCL-30040~1
- 通常盤 [CD] / 3240円 / AUCL-218
CD収録曲
- 全力少年 produced by 奥田民生
- 僕と傘と日曜日 produced by 田島貴男(ORIGINAL LOVE)
- フィクション produced by フラワーカンパニーズ
- ユリーカ produced by GRAPEVINE
- マリンスノウ produced by TRICERATOPS
- Ah Yeah!! produced by 澤野弘之
- 奏(かなで) re:produced by スキマスイッチ
- 晴ときどき曇 produced by BENNY SINGS
- 君のとなり produced by 小田和正
- ふれて未来を produced by 真心ブラザーズ
- ゴールデンタイムラバー produced by RHYMESTER
- 冬の口笛 produced by SPECIAL OTHERS
- 回奏パズル produced by KAN
初回限定盤付属CD収録曲
- 全力少年
- 僕と傘と日曜日
- フィクション
- ユリーカ
- マリンスノウ
- Ah Yeah!!
- 奏(かなで)
- 晴ときどき曇
- ふれて未来を
- ゴールデンタイムラバー
- 冬の口笛
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スキマスイッチ
大橋卓弥(Vo, G)、常田真太郎(Piano, Cho)のソングライター2人からなるユニット。2003年7月にシングル「view」でデビューして以降、「奏(かなで)」「全力少年」 などヒット曲を次々と生み出す。2013年7月にデビュー10周年を迎え、同年8月には初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」を発表。2016年4月には「POPMAN'S WORLD」と対をなすアナザーベストアルバム「POPMAN'S ANOTHER WORLD」をリリースし、同作を携えた新コンセプトの全国ツアー「POPMAN’S CARNIVAL」を大成功におさめる。11月にはテレビアニメ「ALL OUT!!」のエンディングテーマとして使用されている、奥田民生プロデュースのもと再レコーディングした「全力少年 produced by 奥田民生」を収めたシングルを発売。2017年2月15日には、12組のアーティストをプロデューサーに迎えて、過去に発表した楽曲をリアレンジしたアルバム「re:Action」をリリースした。
ベニー・シングス
オランダのドルドレヒト出身の音楽家。幼少時からThe Beatlesやスティーヴィー・ワンダーらの楽曲に親しみ、15歳のときに初めてバンドを結成する。その後コンピュータでの音楽制作をスタートし、2003年には初のソロアルバム「Champagne People」を発表。同作はオランダの「エッセント・アワード」で新人賞を受賞した。2007年にはアルバム「Benny...At Home」、2012年には自身初となるベストアルバム「The Best Of Benny Sings」をリリース。2015年発表のアルバム「Studio」が現時点での最新作にあたる。自身のスタジオを構え、ウーター・ヘメル、ジョヴァンカらのプロデュースも担当している。