音楽ナタリー Power Push - スキマスイッチ
カップリングという名の「実験」集大成
苦肉の策が必然に
──シングルのカップリング曲を実験の場として捉えるというのも、デビュー当初から決めていたんですか?
常田 いや、2枚目のシングル「奏(かなで)」からですね。やっぱり、インストを入れたタイミングからだと思うので。
──2ndシングル「奏(かなで)」から、スキマスイッチのシングルは表題曲、カップリング曲、インスト曲の構成になりましたね。
大橋 1枚目のシングル「view」のときはシングルを作ること自体が初めてだったし、「とりあえずカップリング曲も入れようか」くらいの感じでしたからね。自分たちが手に取ってきたシングルもそうだったから、「まあ、そういうものだよね」っていう。でも、2枚目からはだんだんと自分たちのエゴみたいなものが出てきて、2人で話す中で「インストを入れよう」ということになって。
──シングル「奏(かなで)」のカップリングには、インディーズ時代のデモ音源をそのまま生かした「僕の話-プロトタイプ-」、さらにインスト曲「蕾のテーマ」が収録されています。ここからスキマスイッチの音楽的な実験がスタートしたわけですね。
常田 最初はシングルを作るための苦肉の策だったんですけど、それがだんだん必然になってきたというか。
──なるほど。カップリング曲の中には、スキマスイッチの音楽的ルーツを色濃く反映した曲もあって。「夕凪」はデビュー前から存在していた曲で、「The Beatlesサウンドをやってみる」というテーマで制作されたそうですね。
大橋 最初からそのつもりで作ってましたからね。ビートルズは昔からずっと好きだったんですけど、この曲のアレンジをシンタくんに頼んだことが、結果的にはスキマスイッチを結成するきっかけになったっていう。
常田 デモ音源とビートルズのCDを一緒に渡されたんですよ。そのときは「今の自分の技術でできるかな?」と思ったんですけど、2人で「ああでもない、こうでもない」って言いながらアレンジして。
大橋 参考にしたのはビートルズの後期の曲なんですけど、その曲を聴いたら「まったく同じサウンドだ!」ってビックリすると思いますよ(笑)。ビートルズの曲をオマージュするアーティストは大勢いますけど、その感覚はすごくわかるんですよね。“ビートリー”という言い方があるくらい、1つのジャンルになっているというか。もう1つ裏話をすると「夕凪」のレコーディングには、ビートルズが大好きなミュージシャンやエンジニアの方に集まっていただいたんです。ギターはCOILのサダさん(岡本定義)なんですけど、最初に弾いてくれたイントロがあまりにもそのまんまだったから(笑)、そのフレーズだけあとから変えてもらって。でも、歌が始まった瞬間、やっぱりビートルズとは別物になるんですよね。
──大橋さんの歌が聞こえてきた瞬間、スキマスイッチの曲になるということですね。
大橋 いろんな聴き方をしてもらいたんですよ。「あれ、どっかで聴いたことがあるな。なんだっけ?」という人もいてほしいし、「あの曲と同じじゃん!」と思ってくれる人も存在してほしくて。そういう聴き方って、すごく面白いと思うんですよね。まあ、「この曲には元ネタがある」なんて話は、昔から山ほどあるんですけど(笑)。
「カップリング曲だから」は本質外
──「電話キ」(14thシングル「さいごのひ」収録)は演奏、ミックス、ボーカルを常田さんが担当しているレアな楽曲ですね。
常田 もともとはインディーズ時代の自主制作盤に入っていた曲なんですよ。僕は卓弥に歌ってほしかったんだけど、「アンニュイな雰囲気が出ないから、シンタくんが歌ってよ」って言われて。キャリアの中で「全部自分で完結したい」という欲求がちょこちょこ現れるんですけど、この曲もその1つですね。ちょうどアナログシンセやサンプラーを使い始めた時期だったし、「せっかくだったら、ミックスまで全部やってみたい」と思って。面白くもあり、難しくもありっていう感じでしたね。
大橋 そうだね。
常田 今回のリリースにあたって、当時のMIDIデータを引っ張り出してみたんですけど、「(制作時の)選択は間違ってなかったな」って思って。古きを知って……じゃないけど、ちゃんとやってたんだなって改めて思えたのもうれしかったですね。
──「電話キ」のようにDIYで制作された楽曲もあれば、ピアノとボーカルのトラックに弦楽四重奏を加えた「弦楽四重奏のための『ドーシタトースター』」(4thシングル「冬の口笛」収録)もあって。カップリング曲と思えないほど豪華なアレンジですよね。
大橋 そうですね。お金があったのかな……。
常田 ハハハハハ(笑)。
大橋 まあ「カップリング曲だからお金をかけられない」という考え方も、本質から外れていると思いますけれども。
常田 確かに。タイアップが付いてリカットされるほうが注目してもらえるっていうことも学びましたね、当時(笑)。「ドーシタトースター」ってもともとは1stアルバム「夏雲ノイズ」の収録曲なんですけど、こういった形で作り直してみるのもいいものだなって思いました。
──「雨は止まない」(3rdシングル「ふれて未来を」収録)をはじめ、ライブで強い存在感を放っているカップリング曲も多いですよね。
大橋 カップリング曲、アルバム曲がライブの定番になることもけっこうあるんですよ。
常田 「SL9」(アルバム「ナユタとフカシギ」収録)とかね。
大橋 うん。逆にシングルの表題曲のほうがセットリストに入れづらいときもあって。
常田 特に「さいごのひ」「マリンスノウ」みたいなバラ—ドは入ってこないことが多いですね。
大橋 強いメッセージ性がある曲って、続けて歌っていると、押し付けているような感じになることがあるんですよ。カップリング曲はそういうことが少ない気がするというか。
常田 カップリング曲はそのときの衝動で作っていることが多い分、あとからライブ用にアレンジしやすいし。シングルの表題曲はしっかり窯で焼いて固めてるけど、カップリング曲は柔らかいまま出している感じなんですよね。
大橋 あと「みんなが知らない曲をセットに組み込みたい」という気持ちもありますからね。カップリング曲って、シングルを買ってもらわないと聴けないじゃないですか。どの曲もとにかく一度は聴いてもらいたいなって思うんですよね、やっぱり。
次のページ » 「消しゴムシリーズ」の由来
- ベストアルバム「POPMAN'S ANOTHER WORLD」 / 2016年4月13日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤 [Blu-spec CD2 3枚組] 4104円 / AUCL-30034~6
- 通常盤 [CD2枚組] 3564円 / AUCL-204~5
収録曲
DISC 1
- 夕凪
- スフィアの羽根
- ためいき
- 電話キ
- 石コロDays
- Aアングル
- 弦楽四重奏のための「ドーシタトースター」
- 僕の話-プロトタイプ-
- 快楽のソファー(仮)2014 ver.
- 夏のコスモナウト
- サウンドオブ
- 雨は止まない
- 小さな手
DISC 2
- 雫
- ハナツ
- 1017小節のラブソング
- 僕の青い自転車
- 青春騎士
- さみしくとも明日を待つ
- 猫になれ
- 君曜日
- Bアングル
- トラベラーズ・ハイ
- 回想目盛
- またね。(betsu-oke ver.)
<ボーナストラック>
- 壊れかけのサイボーグ
- フレ!フレ!
DISC 3 ※初回限定盤のみ付属
- 蕾のテーマ
- 天白川を行く
- 追伸
- 花曇りの午後
- 安曇野にて
- 若葉
- ピーカンブギ
- 夕間暮れ
- ノウムの調べ
- Human relations
- ガレポンク
- フォノグラフ
- 10th
- 10th-typeII-
- ミッドナイト・グッドモーニン!!のテーマ
スキマスイッチ
大橋卓弥(Vo, G, Harmonica)、常田真太郎(Piano, Cho, Organ)のソングライター2人からなるユニット。2003年7月にシングル「view」でデビューして以降、「奏(かなで)」「全力少年」 などヒット曲を次々と生み出す。2013年7月にデビュー10周年を迎え、同年8月には初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」を発表。2016年4月には「POPMAN'S WORLD」と対をなすアナザーベストアルバム「POPMAN'S ANOTHER WORLD」をリリースした。