音楽ナタリー PowerPush - スキマスイッチ

デビュー10年でたどり着いたセルフタイトル作の真意

スキマが描く“星”のモチーフ

──アルバムと同時にリリースされるシングル「星のうつわ」は、どちらかというと常田さんのセンスが強く出てる気がするんですが。

常田 最初の取っ掛かりは、2人でディスカッションしてますけどね。この曲に関してはタイアップ(映画「THE LAST -NARUTO THE MOVIE-」主題歌)もあったので、かなり話し合ったんですよ。僕としては「見た目は壮大だけど、実はすごく小さいことを歌いたい」という気持ちはあったんですけど。

──“星、宇宙”のような大きな世界と“個人、遺伝子”みたいなミクロなものが共存しているというか。常田さんは、星や宇宙をモチーフにするのが好きですよね?

常田 書きやすいんでしょうね。学生時代はいつも空ばっかり見てたので………。

──ロマンチック気質?

常田 いや、さみしかったんですよ(笑)。

大橋 ハハハハハ(笑)。

常田 “空はいつも裏切らない”って思ってましたから。学生時代はいろんな時期があったんですよね。わりと目立ってた時期もあったし、逆に地味に過ごしていたときもあって……。

──さみしいときは星を眺めていた、と。そういえば以前、ライブのMCで大橋さんのことを「スター、大橋卓弥」って紹介してましたよね?

常田 はい(笑)。最近は言ってないですけどね。皆さん、もうわかってくれたと思うんで。

大橋 あれは巧妙な罠ですね、シンタくんの。

──罠って(笑)。でも、ボーカリストはスターじゃないとダメでしょ。

スキマスイッチ

大橋 ダメなのかな……。

常田 “隣に住んでるスター”くらいが一番いいと思うけどね。やっぱり卓弥はそういうタイプだと思うんですよ。一声でたくさんの人が集まるような。

大橋 スターじゃないですけどね。仮に自分がそういうタイプだったとしても、正確には“スター性がある人”でしょ。

──“スター性がある人、大橋卓弥”っていう紹介、まどろっこしくないですか?

常田 ハハハハハ(笑)。

大橋 “スター”って決められちゃうと、がんじがらめになりそうで。そこを一生懸命にかき分けてきたんですよ、僕は。

満杯の水を持って生まれ、すべてなくなったときに死が訪れる

──「星のうつわ」というタイトルの由来は?

常田 “受け継ぐ”っていう話を最初にしたんですよね。素晴らしい先輩たちにいろんなことを教わってきましたけど、自分たちもそろそろ受け取るだけではなくなってきたねって。まだまだ勉強しなくちゃいけないことがたくさんあるので、それを形にして残すのはまだ早すぎるけど。今は(下の世代に)伝えるだけで十分なんじゃないかって。日本の職人的な仕事には、そういう技術の遺伝もあると思うし。

──ポップスの世界も同じかもしれないですね。

常田 あと「親から何を受け取って、何を残していくのか」ということも考えたんですよね、この歌詞を書くときに。生まれたときに満杯の水を持って生まれてきたとしたら、まず泣くっていう行為でその水を使う。そうやってどんどん使っていって、すべてなくなったときに死が訪れるんじゃないかって。でも、使った水はちゃんと染み込んでいて、そこには思いが残ると思うんです。自分の母親が亡くなったとき、そのことをすごく感じたので……。それは「なんで生きてるんだろう?」ということにもつながると思うんですよ。答えはそれぞれ違うけど、それを“うつわ”に例えたのがこの曲なんです。

──なるほど。先輩のアーティストから受け取ったものは、音楽家としての糧になってますか?

大橋卓弥(Vo, G)

大橋 うん、そうですね。それを感じられる瞬間は「真面目に音楽をやってきてよかった」と思うので。スキマスイッチは2人しかいないから、例えばバンドサウンドが欲しいときは、サポートのミュージシャンにお願いしなくちゃいけないんですよね。そのときに先輩のミュージシャンの皆さんが話してくれたこと、行動で示してくれたことが自分たちの活動にもつながっているんですよ。

常田 そうだね。

大橋 先輩たちにもそんな先輩がいて、そこで習ったことを僕らに教えてくれるんですけど、「アレは嫌だったな」とか「こんなイジワルをされた」みたいなことは排除して、いいところだけを僕らに伝えてくれてる気がするんです。時代の違いもあるでしょうけど、先輩たちの話を聞いてると「自分が若いときの先輩ミュージシャンはホントに怖かった」とか「そこで叩き上げられた」っていう話もけっこうあって。でも僕らに対しては「君らにはそういう思いをさせたくない」って言ってくれるんですよね。しかも、そういうことって誰にでも教えてるわけではない気がするんです。

──スキマスイッチって、デビュー当初から先輩たちに目をかけられてましたよね。小田和正さん、槇原敬之さんもそうだし。

大橋 運がよかったし、環境にも恵まれてたんだと思います。あと、皆さんが今もちゃんと先輩として接してくれるのもありがたくて。無礼講というか、ふざけ合うことがあっても、本番はすごくピリッとするし。レコーディングしていて、「もう1テイク録りたい」と言うのってすごく勇気が要るんです。例えば2回演奏してもらったとしますよね。その中でちゃんと自分たちの思いを伝えられていれば、そのテイクは終わりなんですよ。でも、プレイバックを聴いて「ここはこうしたい」って思い付いてしまうこともあって、そのときは「もう一度お願いします」と言わなくてはいけない。その緊張感は今も全然変わらないですね。

「やっと来れたよ」

──アルバム「スキマスイッチ」にも、日本を代表するミュージシャンが数多く参加しています。1曲目の「ゲノム」はドラムが佐野康夫さん、ベースが亀田誠治さん、ギターが西川進さん。このメンバーでロックをやって、カッコよくならないわけがないですよね。

大橋 いや、ホントに。

常田真太郎(Key, Cho)

常田 レジェンドですからね、皆さん。エンジニアの渡辺省二郎さんも、ずっとやりたいと思ってた方なんですよ。「ゲノム」がこのアルバムの初っ端のレコーディングだったんですけど、できあがったものが本当にすごくて。そのときに「これは絶対、すごいアルバムになる」って思ったんですよね。

大橋 うん。そうそう、シンタくんが気付いたんだけど、今までのアルバムでは1曲目のドラムがほとんど佐野さんなんですよ。

──あ、そうなんですか。そういえばデビュー直後のライブも佐野さんだったような気が。

大橋 「奏(かなで)」のインストアライブのときですね。ライブではあの1回だけだったんですよ、佐野さんは。

常田 そこから去年の武道館まで、ライブでは一緒にやってなくて。武道館では佐野さんに「やっと来れたよ」って言ってもらえたのが、すごくうれしかったですね。最初のライブのときは「やっちまった」っていう感じもあったので……。

──何か失敗したってことですか?

大橋 怒られたんです、要は。佐野さんは「怒ってないよ」って言ってましたけど……あれは怒ってたよね?

常田 うん(笑)。少なくとも注意はされましたからね。「もっとちゃんとしないと」って。

大橋 僕にはその言葉が「ミュージシャンを呼ぶんだったら、君たち、もっとちゃんとしないとダメだよ」というふうに聞こえたんですよね。「君らと僕らの差が明らかになりすぎていて、バンドとして成立してないよ」って。先輩とか後輩ではなく、音で会話するときは対等じゃないといけないので。つまり「今の君たちの技術では、僕らと話をすることはできないよ」ってことですよね。

常田 でも、当時の話を佐野さんとできたのはすごくよかったと思います。「ずっと聴いてたよ」って言ってくれたのもうれしかったし。

ニューアルバム「スキマスイッチ」 / 2014年12月3日発売 / アリオラジャパン
初回限定盤 [Blu-spec CD2+DVD] / 3996円 / AUCL-30028~9
通常盤 [CD] / 3186円 / AUCL-172
CD収録曲
  1. ゲノム
  2. パラボラヴァ
  3. 僕と傘と日曜日
  4. life×life×life
  5. Ah Yeah!!
  6. 夏のコスモナウト(album ver.)
  7. 蝶々ノコナ
  8. 思い出クロール
  9. 星のうつわ(album ver.)
  10. SF
初回限定盤DVD収録内容
  • Ah Yeah!!(Video Clip)
  • パラボラヴァ(Video Clip)
  • 星のうつわ(Video Clip)
  • Special Interview
  • おまけ
ニューシングル「星のうつわ」 / 2014年12月3日発売 / アリオラジャパン
「星のうつわ」初回限定盤
初回限定盤 [Blu-spec CD+DVD] / 1944円 / AUCL-30026~7
アニメ盤 [CD] / 1404円 / AUCL-170
通常盤 [CD] / 1296円 / AUCL-171
CD収録曲(共通仕様)
  1. 星のうつわ
  2. 快楽のソファー(仮)(2014 ver.)
  3. ミッドナイト・グッドモーニン!!のテーマ(instrumental)
  4. スキマスイッチのミッドナイト・グッドモーニン!!
  5. 星のうつわ(backing track)
初回限定盤DVD収録内容
  • スキマスイッチのミッドナイト・グッドモーニン!!THE MOVIE
スキマスイッチ

スキマスイッチ

大橋卓弥、常田真太郎のソングライター2人からなるユニット。2003年7月にシングル「view」でデビューして以降、「奏(かなで)」「全力少年」 などヒット曲を次々と生み出す。2013年7月9日にデビュー満10周年を迎え、同年8月には初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」を発表した。2014年には「Ah Yeah!!」「パラボラヴァ」「星のうつわ」とシングルを立て続けに発表し、12月にはセルフタイトルを冠した約3年ぶりのオリジナルアルバム「スキマスイッチ」をリリース。2015年1月からは全国28カ所32公演の全国ツアーも決定している。