菅原圭が3月22日に1stデジタルEP「one way」をリリースした。
2020年頃からインターネットに自作曲を投稿し始めた菅原圭。色彩豊かなメロディライン、リスナーの想像力を刺激する歌詞、楽曲によって表情を変えるボーカルによって注目を浴びた菅原は、昨年「RADAR: Early Noise 2022」に選出されたことをきっかけにさらに知名度を上げた。昨年末には1stデジタルアルバム「round trip」を発表。自身が作詞作曲を手がけた楽曲だけで構成された本作によって、シンガーソングライターとしての資質の高さを改めて証明してみせた。
EP「one way」は、気鋭のクリエイターから提供された4曲を収録。前作「round trip」と対を成す、“シンガー菅原圭”のポテンシャルを体感できる作品となっている。音楽ナタリー初登場となる今回は、歌に興味を持ったきっかけ、制作に対するスタンス、本作「one way」の収録曲などについて語ってもらった。
また特集の最後には今作に楽曲を提供した雄之助、くじら、TOOBOE、笹川真生が各楽曲の聴きどころと菅原圭の魅力について語ったコメントも掲載している。
取材・文 / 森朋之
「満月をさがして」に憧れて歌手に
──菅原さんは歌に興味を持つ前に、小学校の授業の音読で声を出すことが好きだったそうですね。
はい。学校にはたくさん人がいて、普段は自分の声なんて全然聞こえないんだけど、国語の授業の音読のときはみんなが私の声に耳を傾けている。その時間が好きだったんです。もともと私は目立つタイプではなくて、人と話すのも得意じゃなかったんですけど、朗読のときは注目されるじゃないですか。ちっぽけな存在である自分が主人公でいられる瞬間というか。
──クラスでは大人しいほうだったんですか?
そうですね。友達はいるけど、“私の席にみんなが集まってくる”みたいなことはなくて。どちらかというと、図書館で借りてきた本を自分の席で読んでることが多かったと思います。
──物語の世界に没頭していたんですね。
本は好きでしたね。5、6歳離れた兄と姉がいるんですけど、姉がめっちゃ本を読む人だったんですよ。小学生の頃に「この本、面白かったよ」と言われたときに、「私も読んだ。こういうところがよかったよね」とコミュニケーションを取れるのがすごくうれしかったんです。対等に話したくて、そのために本を読んでいたところもありますね。
──音楽はどうですか?
最初に聴いていたのは車で両親がかけていた音楽ですね。サザンオールスターズ、MIYAVIさん、山口百恵さんとか。あとはゲーム音楽ですね。「キングダム ハーツ」のサントラに収録されていた宇多田ヒカルさんの曲だとか。
──なるほど。歌い始めたきっかけは?
気が付いたら歌っていたんですけど……なんで歌いたいって思ったんだろう? 朗読が好きというのもあって、小学生の頃は声優かナレーションのお仕事に就きたいと思っていたんです。アニメもけっこう観てたんですけど、ある年の夏休みに、変身魔法少女アイドル系のアニメの特集が放送されて。「魔法の天使クリィミーマミ」「マクロスF」も好きでしたけど、特に「満月をさがして」に惹かれました。主人公が喉の病気にかかった女の子で、声か命のどちらかを選ばなければならなくなって、死神の力を借りて16歳の姿に変身して歌手になるんですよ。その主人公にめちゃくちゃ憧れて歌い始めたところもあるかもしれないです。声優だったらモブキャラやサブキャラの声をやることもあると思うけど、歌うときは基本的に1人だし「歌っているときは主役じゃん!」って(笑)。バンド系のアニメやマンガも観ていました。「NANA」とか。あと、いろんな曲を聴いて「私だったらどんな感じで歌うかな?」と思い描くのも好きでした。
──映画「NANA」が公開されたのは2005年ですね。
家族の影響もあるんですけど、1990年代後半から2000年代くらいまでのカルチャーをたくさん浴びているんです。ゲームもそうで、家にあったプレステ2とNINTENDO64でずっと遊んでいて。なのでちょっと上の世代の人と話が合うんです。「『地獄先生ぬ~べ~』、面白いですよね」とか(笑)。
──(笑)。どうして曲を作り始めたんですか?
高校生のときに、「『歌ってみた』だけじゃダメだな」と思ったんです。YOASOBIさんみたいなユニットを組んだり、バンドのボーカルとして歌うという道もあるかもしれないけど、私はいまいち自分のことを信用していなくて。いいボーカリストは私以外にもたくさんいるし……例えば洋服にしても、年齢や時期によって好みのブランドが変わったりしますよね。作曲者にも同じようなことがあると思うんですよ。作曲する人が「菅原圭、いいな」と思って組んだとしても、2年、3年と経つと、違う感じの曲が作りたくなって、「だったらほかのボーカリストのほうがいいな」と思うかもしれない。そうなったら私、何もできないじゃないですか。だったらシンガーソングライターの人たちみたいに自分でオリジナル曲を作ったほうがいいという考えになったんです。
──音楽を続けるためには作詞作曲する力も必要だと。
はい。アピールできることは多いほうがいいという気持ちもあったので。楽器はできないんですけど、テンポだけ決めて、アカペラで歌うことから始めました。今もそうなんですけど、アカペラのデモ音源を編曲家の方にお願いして、伴奏を付けてもらって、録音して……という感じで作ってます。取材のときも「私、楽器も何もできないけど、曲はどんなふうに聴かれてるんだろう?」と不安に駆られています(笑)。
──いえいえ、素晴らしいです。歌詞については?
最初はなんとなくニュアンスで書き始めました。自分で読むと「ポエムすぎてキショイな」と思うこともあったけど(笑)、とにかく完成させることが大事だと思って。あとで聴いたときに恥ずかしくなってもいいから、作り始めたら絶対に完成まで持っていこうと決めていました。100曲くらい作ったら手癖も出てくるだろうし、その中から自分の感性や個性みたいなものも見えてくると思ったんですよね。
──なるほど。実際に「これが自分の作風だな」というものは明確になってきましたか?
聴いてくれた人からは「散文的だね」と言われることが多いですね。歌詞を書くときは、まずキャッチコピーみたいなものを決めて、そこから物語を作っていくんですけど、語りすぎないことを大事にしています。もちろんどの曲にも自分の解釈があるんですが、リスナーの皆さんはそれぞれの経験や思いと重ねて聴いてくれるだろうし、あまり詳しく語らないほうがハマりやすいというか、いろいろ想像してもらえるのかなと。それが人に寄り添える曲になると思うんですよね。
──今はたくさんのリスナーが菅原さんの楽曲に親しんでいるし、いろんな解釈を目にする機会も多いのでは?
そうですね。私はそのつもりで作ったんじゃないんだけど、「失恋の曲だと思いました」という感想があったり。“好き”という言葉ひとつにしても、聴く人の状況や心情によって受け取り方が変わるような歌詞を書きたいと思ってます。
「歌ってる人」から「曲も作る人」のイメージに
──そして2022年12月には1stアルバム「round trip」をリリースされました。全曲、菅原さんが作詞および作曲に関わっている楽曲で構成された作品ですね。
歌詞とメロディラインを自分で作った曲ばかりなので、“菅原圭”感がすごくあるアルバムだと思います。菅原圭に対して、「歌ってる人」というイメージを持っている方も多いと思うんですけど、そういう方々に「曲も作っているんだ」と思ってほしくて。それもあって、まずは自分が作詞作曲した曲を集めたアルバムを出したかったんです。
──「これを聴けば、菅原圭がわかる」というか。
確かに“入門書”感もありますね。「アルバムを作るぞ!」と制作を始めたわけではなくて、いろんな時期の楽曲が入っているので、菅原圭の“今まで”と“これから”が詰まっているんです。音質も曲によって全然違うんですよ。自主制作で作った曲に関してはマスタリングをやってなかったりするので、ストリーミングで聴いてくれた方が「曲によって音量の差がありすぎる」とTwitterに書いていたりしましたけど(笑)、アルバムにするにあたってすべてマスタリングし直したので、聴きやすくなっていると思います。
──録音も自分でやっていたんですね。
以前はほとんど宅録でした。録音機材なども自分でそろえつつ、知り合いから使わなくなった機材をもらったり、安価で譲ってもらったり。「マイクじゃなくて、インターフェイスの問題だと思う」みたいなことをアドバイスしてくれる人もいて、すごく助かっていました。
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「菅原はこの角度が映えるでしょ」の4曲