スガシカオ「Sugarless III」インタビュー|Shikao & The Family Sugar復活、松本孝弘との制作…デビュー25周年に向けた意欲作について語る (2/2)

一発えげつないのをぶち込んでおきたくて

──そうかと思うと一転、続く「JOKER」のリリックは女性から性病をうつされた男の物語という(笑)。スガシカオは25年目を迎えてもまだこういう変態的な曲が書けるんだなあと。

実は今回のアルバムは締め切りの2カ月前に一旦全曲が仕上がったんですよ。で、比較的明るくて行儀のいい曲が並んだから、一発えげつないのをぶち込んでおきたくて、極めつきのえげつない曲をぶっ込んで提出したの。そしたらスタッフから「この曲、次のアルバムに入れましょうよ」と言われて、仕方がないからまたすごくえげつない曲を作って送ったら、また数日後にスタッフから「これも次のアルバムに入れましょうよ」と言われて「いい加減にしろよ」と。

──コントみたいですね。

僕的にはエグいのすべて吐き出したあとだったから、曲は先にできたんだけど歌詞がなかなか出てこなくて。四苦八苦しながらなんとか書いたらどういうわけか性病をうつされる話になっていて……。

──なんでやねん(笑)。

でも僕、性病になったことは今まで一度もないから途中で行き詰まっちゃって。だから知人の中で「こいつは経験ありそうだな」と思うやつに目星を付けて集中的にインタビューして仕上げました。

──ほう。そのインタビューはどなたに?

言えるわけねえだろ(笑)。

──何かを帳消しにしようとするかのようにさわやかなサビのメロディにも笑いましたが、スガさんの弾くキーボードも個人的にツボでした。70年代後半から80年代中盤頃までのソウルやファンク、ディスコを3周くらい聴きすぎてこじらせちゃったようなフレーズで。

僕はキーボーディストじゃないから音の選び方がいつもぐちゃぐちゃで、1人でいじっているうちにこうなるんですよ。やっぱり僕のアレンジってすげえイビツなんだと思う。でもそれが自分でも嫌いじゃない(笑)。当面は積極的にイビツなアレンジ曲を増やしていこうかなと思っていて、なんでかと言うと、このイビツさって自分の武器になり得るというか、ワールドワイドに通用する気がするんですよね。しかも根っこがダンスビートでロックじゃないという点も希少な気がする。

スガシカオ

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打倒リトグリで臨んだ「ヒカルカケラ」セルフカバー

──先ほども少し話題に触れた「ヒカルカケラ」は2017年にLittle Glee Monsterへの提供曲でした。提供した経緯はどのようなものだったんですか?

最初、リトグリってほとんど興味がなかったんです。でもお誘いをいただいて、日本武道館でEarth, Wind & Fireとのツーマンを観たら「アースしっかりしろ!」というぐらいリトグリがめちゃくちゃよかった。それでファンになって。当時、リトグリはバラードを歌わなかったから、まあ採用されなくてもいいやと思って3曲渡すうちの1曲に「ヒカルカケラ」を入れておいたら、ちょうど芹奈のソロ曲を探していたそうで「これでいきたい」という流れになったんです。

──女性目線のリリックについては?

当時、リトグリメンバーは10代後半が多くて、だいたいその目線で歌詞を書かなきゃならなかったんだけど、もちろん自分は10代でもなければ女の子でもないから、途中まで書いては知り合いの10代の女の子数人にジャッジをしてもらって、また直して。それを繰り返してようやく完成に漕ぎ着けました。歌詞に「シフォンケーキ」が出てくるんですが、最初、「スイーツ」という言葉を使ったら「スガさん、『おいしいスイーツ見つけた』なんて言わないから」と女の子たちに言われて。「じゃあなんて言うの?」と聞いたら「おいしい甘いもの見つけた」って。それじゃ普通で歌詞にならないから、けっこう悩んでシフォンケーキにしたのを覚えています。

──セルフカバーをしてみた感想は?

悔しいけど改めて芹奈とリトグリのみんなの歌のうまさを思い知りました。こういう曲ってある意味歌い切るのは簡単だけど、ちゃんと歌い出しから物語の起伏を付けて歌うのは至難の技なんですよ。サビを派手に歌えば抑揚が付くかと言えばそうでもない。自分の中できちんと構成を組まないと物語にならない。その構成力が芹奈は圧倒的。僕も今回は打倒リトグリを目指して森さんと2人でコーラスの部分にものすごく難しいコードを積んで、それを自分のスタジオで2日がかりで録りました。

スガシカオ

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「心の防弾チョッキ」は次回作に向けた前哨戦

──「心の防弾チョッキ」は、FUYUさんを筆頭に、Juny Magさん、KAPPASWGさん、Antoine Katzさんという海外で活躍されているミュージシャンたちとレコーディングされた曲ですね。

コロナ禍にFUYUの企画でLA、ニューヨーク、東京をつないだリモートセッションで僕の「バクダンジュース」をやったことがあって。そのときに意気投合したメンバーです。デモの段階ではもっとシンプルでシリアスな曲だっだけど、途中からものすごくヒップホップ的なメロディの間奏が入ってきたりして、だんだんそっちに引っ張られていった。

──このバンドの演奏は今までのスガさんのサウンドの中にはなかった文脈ですね。リズムの裏の取り方や急ブレーキのかけ方がかなり変則的で。

そうそう。「え? そこでリズムを止めるか!?」みたいなね。次のアルバムではこのメンバーの演奏もガッツリ入れたい。今回はその前哨戦的な意味合いもありました。

スガシカオが語る、プロデューサー・松本孝弘

──2006年にKAT-TUNに歌詞を提供した「Real Face」は作曲の松本孝弘さんが編曲、プロデュース、演奏メンバーのコーディネートまでを担当されての新録となりました。

2006年当時は直接お会いしていなかったんです。それが一昨年、機会があってようやくお会いできたので、今回僕からお願いしてみました。

──LAハードロック調のアレンジも含めて、アニバーサリーならではのド派手なお祭りと言える仕上がりになりましたね。またアウトロのサックスが歌うわ歌うわ(笑)。

松本さんから「サックスは絶対スガくんの声に合う。カッコよくなるから」と強くプッシュされて。最初、僕はやや難色を示していたんだけど、松本さんが「絶対オススメだから!」と。仕上がりを聴いて僕もびっくりしました。もはや僕の歌なんていらないくらいのヤバさで(笑)。

──プロデューサーとしての松本さんはいかがでしたか?

ものすごく緻密でした。「日本だとこじんまりしちゃうから、俺のLAの仲間とやろうよ」と、このご時世にもかかわらずこの曲のために自らLAですべてのメンバーを決めて、トラックを録ってくださって。しかも「こういうリズムが録れたんだけど、トラックダウンでもう少しこう響かせたい」とか、逐一確認の連絡もくださるんですよ。素晴らしい耳とプロデュース能力に脱帽でした。それにしてもB'zの稲葉(浩志)さんはこの轟音トラックの中で30年以上歌ってるんだよね。つくづくすごいなって。

──確かにそうですよね。

僕には無理っす。だってこれ歌とギターのケンカだもん(笑)。僕、今回は1曲だけだからなんとか歌い切れたけど、アルバム全曲だったら確実にぶっ壊れるわ(笑)。

──この「Real Face」然り「ヒカルカケラ」然り、スガさんはこれまでほかのアーティストに計12曲を提供されてきました。25年目というキャリアで考えると決して多くはないように思います。提供にあたっては何よりタイミングが大きいと想像しますが、引き受ける際のポイントとは?

シンプルに“興味”ですかね。どこか1点でも興味を持てたら「やってみよう」と決めている気がする。「やったことないジャンルだからやってみよう」とかね。

時代を経て変化した「Progress」

──アルバムのラストナンバー「Progress」は15年ぶりにkōkuaで再レコーディングされたんですよね。

当時とまったく同じ楽器、音色、譜面でやりたいとリクエストしたんだけど、いざ録り始めたら全然違うものになった。毎週「プロフェッショナル 仕事の流儀」でかかり続けた重みと、東日本大震災、熊本地震、コロナ禍のたびに応援歌として機能してきた重みが、いつの間にか曲の中に宿っていた。

──何よりもスガさんのボーカルの重みにそれが表れていますね。初出のときのややナイーブな感じが今回はたくましさと説得力に変わっていて。

自分でもそう思います。歌は体の中でどんどん変わっていくのだなと実感させられました。

──今回、音楽ナタリー編集部からの質問を預かってきました。「アニバーサリーイヤー、おめでとうございます。もし今の自分が25年前の自分に声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?」とのことなのですが、いかがですか?

「お前、今遊ばないでいつ遊ぶんだよ!?」かな。当時は睡眠時間が3時間取れるか取れないかぐらいの忙しさだったんだけど、「その3時間も寝ずに遊べ!!」と言いたい。やっぱりプロになって聴く音楽と、遊びの中から吸収する音楽ってまったく違うんですよ。だから昔ハマったプリンスとかマイケル・ジャクソンと同じような気持ちではヒップホップを楽しめない今の自分がいる。R&Bも「彼女と聴きながらドライブした」みたいな思い出が一切ないし。あの頃、もっと寝ないでクラブに行ってヒップホップをガンガン聴いてダンスビートをきっちり体に入れて血肉化していたら、今頃もう少し違った音楽の作り方をしていたんじゃないかな。

──興味深い回答をありがとうございました。最後に25周年アニバーサリーイヤーの展望について聞かせてください。

すでにヤバい曲がたくさん貯まってるんで、オリジナルアルバムを出して、コロナが落ち着いていれば長いツアーにも出たいですね。ぜひ楽しみにしてください。

スガシカオ

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ライブ情報

スガ シカオ 25th Anniversary Shikao & The Family Sugar Special Live

  • 2022年2月26日(土)東京都 中野サンプラザホール
  • 2022年3月11日(金)大阪府 フェスティバルホール

プロフィール

スガシカオ

1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビュー。「愛について」「Progress」など多数のヒット曲を世に送り出す。2017年5月に埼玉・さいたまスーパーアリーナでデビュー20周年記念イベント「スガフェス!」を開催し、怒髪天、UNISON SQUARE GARDEN、Mr.Childrenらと共演。2019年4月に11枚目のアルバム「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」をリリースした。2020年4月には桜井和寿(Mr.Children)と岡野昭仁(ポルノグラフィティ)が参加した、コロナ禍の医療従事者にエールを送る楽曲「あなたへ」のリリックビデオを公開。2021年12月には、来年のデビュー25周年に向けたキックオフを飾る作品としてニューアルバム「Sugarless III」をリリースした。2022年3月には大阪・フェスティバルホールでデビュー25周年を記念したスペシャルライブ「スガシカオ 25th Anniversary Shikao & The Family Sugar Special Live」を開催する。