スガシカオ|十字架から解き放たれた先に

俺の心の叫び「渋谷区初期衝動2の3の2」

──そして「THE LAST」は死の臭いというか腐臭に近い臭いがしたけれど、今回は総じて生のパワーで構成されていますよね。

うん。むちゃくちゃ生きようとしていると思う。

──東京生まれ東京育ちのスガさんが抱くルサンチマンのこもった「おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった」における「渋谷区初期衝動2の3の2」という歌詞はものすごいですね。

俺の心の叫びっす(笑)。友達の桜井(和寿。Mr.Children)くんも、「今回、この曲が一番すごくて、この歌詞が一番痺れる」と言ってくれました。

──「こんなのよく思い付くなあ」と率直に思いましたよ。

それも桜井くんから同じことを言われた! でもそのあと、知り合いのJ-POP好き女子に聴かせたら「すみません、1行も分かんないです」とか言われてガクッときちゃって。

──クズとかヒモに憧れる男の曲を女子に聴かせてどうするんですか(笑)。

桜井くんに激賞されて有頂天だった自分が少し恥ずかしくなりました(笑)。

──そう言えば桜井さんに聴いてもらった際、SNS上で「1箇所だけ痛いところを突かれた」みたいなことを書かれていましたが。

最後の曲の「深夜、国道沿いにて」です。ちゃんと作り込みすぎちゃったんですよ。もっと音数をどんと落として、じっくり歌詞の世界に浸りたい、みたいなことを言われて、「確かに俺もそう思っていたなあ」と(笑)。だからその後、トラックダウンを3回やり直して、削れるとこまで削りました。

──愚問かもしれませんが、この歌詞は実話がベースなのですか?

1行目のラーメン屋からすべて実話です。俺、昔、幡ヶ谷に住んでいた時代があってね。だいたい土曜は両親とも仕事でいなかったから、親がそこのラーメン屋のおばちゃんにお金を払ってあって、そこで昼飯を食べていた。日曜は一家そろって通っていたような、行きつけの店だったんです。狭かったんだけど、安くておいしくてね。でも、俺が小6のとき、そこのおばちゃんが俺ん家の前にあった踏切で自殺したんです。俺は卒業と共に下町へ引っ越したので、その後、店がどうなったかは知らなくて。最近の国道沿いのラーメン屋って、太麺で、背脂系の戦争じゃないですか。でも、俺はあまりそれが好みじゃなくてね。深夜にラーメンを食っていたとき、ふと、「俺にとって一番うまかったラーメンってなんだったかな?」と考えていたら、あのおばちゃんのラーメンを思い出したんです。

──そうでしたか……なんというか、独特の生々しさを感じる曲でした。

そっか。でもまあ俺の歌は、どれも大抵生々しいけどね。

スガシカオ

今、俺、いくらでも曲が思いつくもん

──まあそうなんですけどね。生々しさで言えば「ドキュメント2019 feat. Mummy-D」も非常に興味深いです。この謙虚な姿勢で方々に噛み付く攻撃性は……。

あ、この曲についてはなるべく触れないでほしい。しかも生々しいとか攻撃性とか噛み付くとかそういう言葉で書かれるのも非常に心外です(笑)。

──ああ、つまりもう「聴いてのお楽しみ」にしておいてくれ、と?

そうそう。1人で全部歌ったらあまりに冗談っぽくならなかったので、Dさんに頼んで茶化してもらいました。

──DさんのパートはDさんが書かれたんですか?

そうです。「いいねえ、やっちゃうよ?」みたいな感じで悪ノリしてくれて(笑)。こんなこと、Dさんのスキルじゃなかったらとても成立させられない(笑)。感謝しています。

──ハマさん、Duranさん、白根佳尚さんのスリリングな演奏もむちゃくちゃいいですね。

このセッションはみんなすごいよね。ハマくんにも「マジな曲じゃないから気楽に弾いて」と頼みました。ちょっとJamiroquaiのパクリが入ったようなディスコティックにまとめたかったんだけど、これをうまいおっさんが弾くと本物のディスコになっちゃうでしょ? でもハマくんだと、安定感もありつつちゃんと音が跳ねて若さも出る。大正解でしたね。最近の彼はレジェンドベーシストへの道を着実に歩んでいると思います。

──「マッシュポテト&ハッシュポテト」もよくできたボキャブラリーのタイトルというか。

この曲の歌詞はもう何種類書いたかわからないぐらいたくさん書いた!

──珍しいですね。そんなことってこれまであまりなかったですよね?

うん。すごく言葉のハマりが悪くて、ヘタクソな人が書いた歌詞みたくなっちゃって苦労しました。一時はアルバムから外そうかと思うぐらいダメダメでしたね。

──演奏ではShikao & The Family Sugarが再集結しました。

個々には今までも一緒にやっていたので特に大ごとではないんだけど、俺を含む4人が一緒に音を出すのは12年ぶりでしたね。やっぱりさすがにツボを心得た演奏だった。それこそアメリカだとメジャーならTuxedoとか、アンダーグラウンドシーンでもファンクをやるやつはたくさんいますけど、日本ではもはやクラシックなファンクをやれる人脈とジャッジメントを持った人なんて、俺以外にほぼいないと思う。だから今後もなるべくアルバム1枚につき1曲は、クラシックファンクをやりたいと思っています。

──では最後に、リリースを間近に控えての感想をお願いします。

自分としては「THE LAST」の次として、すごくいいアルバムができました。案外、聴く人を選ばないというか、ここを入り口に俺の音楽を聴いてもらえるリスナーがいたとしても、絶対に楽しんでもらえると思う。リリース後の全国ツアーでは、ホーンセクションも帯同させて、このアルバムの世界をがっつりと再現していくつもりです。

──リスナーの顔を思い浮かべて書くというアプローチも得て、さらに新しい曲も生まれていきそうですね。

そう思います。今、俺、いくらでも曲が思いつくもん。もしリリースまであと1年あったら、たぶん2枚組になっていたと思いますよ(笑)。

ツアー情報

SUGA SHIKAO TOUR 2019 ~労働なんかしないで 光合成だけで生きたい~
  • 2019年4月27日(土)神奈川県 厚木市文化会館
  • 2019年4月29日(月・祝)静岡県 グランシップ中ホール・大地
  • 2019年5月6日(月・振休)宮城県 電力ホール
  • 2019年5月12日(日)福岡県 福岡市民会館
  • 2019年5月19日(日)富山県 黒部市国際文化センター コラーレ
  • 2019年5月26日(日)北海道 わくわくホリデーホール
  • 2019年5月31日(金)愛知県 名古屋市公会堂
  • 2019年6月8日(土)大阪府 オリックス劇場
  • 2019年6月9日(日)大阪府 オリックス劇場
  • 2019年6月15日(土)新潟県 新潟県民会館
  • 2019年6月16日(日)栃木県 那須塩原市黒磯文化会館
  • 2019年6月22日(土)東京都 NHKホール
  • 2019年6月23日(日)東京都 NHKホール
  • 2019年6月28日(金)香川県 レクザムホール 小ホール
  • 2019年6月29日(土)広島県 三原市芸術文化センター ポポロ