音楽ナタリー Power Push - スガシカオ
剥き出しのアルバム「THE LAST」誕生
音楽のドキドキ感を取り戻したい!
──違和感をポップに昇華するという試みに、このアルバムで向き合うことができた?
うん、そうですね。ミスチルの桜井くんとよく話すんです。CDが売れなくなったりとか、そういうことは俺たちにとってどうでもよくて。一番困るのは、みんなが音楽でドキドキしなくなることなんですよね。2000年くらいまではまだ新譜を買って、電車でそれを聴きながら家に帰るときに「うわ、なんだ!? 景色が変わったぞ!」みたいなドキドキ感がいっぱいあったと思うんですよね。でも、そうじゃない音楽のほうがヒットする時代になってしまったなと思うところがあって。ドキドキする音楽を作るためにエネルギーを使わないシーンがメインになっちゃった気がするんですよね。でも、音楽ってもっともっとポテンシャルがあるはずだから。だから今回、小林さんは「事件性」という言葉を使っていたけど、俺はそれを「ドキドキ感」だと思っていて。「音楽のドキドキ感を取り戻したい!」という衝動が、俺にこのアルバムを作らせたんだと思います。
──その上で、スガさんの場合、やっぱり音にファンクネスが表出するんだなと思いました。例えば「愛と幻想のレスポール」にはPファンク感が前に出ていると思うし。
ね。サウンドをとがらせたいと思うと、やっぱり自分のルーツに寄っていくんだよね(笑)。これはなんでしょうね。自分を追い詰めれば追い詰めるほど黒くなる。
──「海賊と黒い海」にはニューソウル感があって。
そうそう。ニューソウルでありAOR的ですよね。何年か前に「オシャレな音楽はもうやらない! AORは二度とやらない!」って決めてたんですよ。ちょっとAOR的な曲になったらボツにするみたいな(笑)。でも、今回やってみようと思えたのは、時代の背景もあるのかな。今の音楽シーンの流れを見ていて、AORをやっても恥ずかしくないんだなと思ったし。
こういう制作作業をするのは本気でもう無理
──「THE LAST」というタイトルに決めたのはいつ頃だったんですか?
去年の秋くらいかな? スタッフに「このアルバムが最後のつもりで作ってる」という話をしたら、「じゃあタイトルは『LAST』にしたらどうですか? 僕らもそのつもりでサポートしますので」って言われて。「え、俺、引退!?」って思ったんだけど(笑)。でも「LAST」の前に「THE」を付ければ「最新の」という意味にもなるので、そこでちょっと逃げるのはどうですか、と提案して。
──あはははは(笑)。
でも、こういう制作作業をするのは本気でもう無理だわ。もう1枚これと同じようなアルバムを作れるかどうかは疑問ですね。ここまで自分を追い詰めて、ここまで濃度の高いアルバムを作れと言われたら、作る自信はないです。
──逆にこのアルバムを作ったから、これからなんでもできる気がしますけどね。
そうだといいけどね。これを新たな出発点としてね。でも、しばらくはこのあとのことは考えられないです(笑)。
──最後にお聞きしたいんですが、マスタリングを終えてこのアルバムを通して聴いたときにどういうことを感じましたか?
今はもう戻ったんだけど、実はちょっと前までまた耳の調子が悪くて、片方の耳しか聞こえない時期があったんです。それでステレオ感が全然つかめなかったんですけど、エンジニアも含めて周りの人間が「スガさんはこういう音が好きだろうな」って理解してくれてるから、その部分でかなりサポートしてもらえて。助かりました。それは、長いこと音楽活動を続けてきた財産だなと思いましたね。そういう周りのサポートもあって、ここまでのアルバムが作れたんですよね。
- ニューアルバム「THE LAST」 / 2016年1月20日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD2枚組] 4104円 / VIZL-918
- 通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64498
- 完全生産限定盤 [CD2枚組+DVD+グッズ] 8640円 / VIZL-917
CD収録曲
- ふるえる手
- 大晦日の宇宙船
- あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
- 海賊と黒い海
- おれ、やっぱ月に帰るわ
- ごめんねセンチメンタル
- 青春のホルマリン漬け
- オバケエントツ
- 愛と幻想のレスポール
- 真夜中の虹
- アストライド
完全生産限定盤 / 初回限定盤付属CD「THE BEST」収録曲
- Re:you
- 傷口
- Festival
- アイタイ
- したくてたまらない
- 赤い実
- 赤い実 Remix
- 情熱と人生の間
- 航空灯
- LIFE
- モノラルセカイ
完全生産限定盤DVD収録内容
「ぶらり途中下車しない旅 ~伊豆急行 語らひ編~」
スガシカオ
1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビュー。日常や時代の空気感を鋭く切り取る作品性や世界観で、世代を問わず幅広い支持を得ている。1stアルバム「Clover」から9thアルバム「FUNKASTiC」まで、これまでリリースしたオリジナルアルバムすべてがオリコン週間ランキングトップ10入りを記録。2011年に長年在籍していた事務所を離れて独立し、シングル「Re:you」「赤い実」、ミニアルバム「ACOUSTIC SOUL」を配信でリリースする。2014年5月に両A面シングル「アストライド / LIFE」をSPEEDSTAR RECORDSより発表し、メジャーシーンに復帰。2016年1月に約6年ぶりとなるオリジナルアルバム「THE LAST」をリリースした。
2016年1月20日更新