音楽ナタリー Power Push - スガシカオ
剥き出しのアルバム「THE LAST」誕生
スガシカオインタビュー
スガシカオが実に6年ぶりとなるオリジナルアルバム「THE LAST」をリリースした。身魂をなげうって制作されたと言っても過言ではない、スガの音楽への執念を形象化したような作品だ。今、スガシカオはなぜここまで鬼気迫るアルバムを作る必要があったのか。その理由を語ってもらった。
取材・文 / 三宅正一(ONBU) ライブ撮影 / 中河原理英
着地するのが怖くてずっと引っ張ってきちゃった
──今作が6年ぶりのオリジナルアルバムと聞いて、そんなに間が空いてたんだというのが正直なところで。
そうそう、自分でも「そんなに出してなかったっけ?」という感じなんですよね。でも、前の事務所を辞めて独立してからもう5年も経つので。そう考えるとそうだよなって思うんですけど。デビュー20周年って言ってるけど、そのうち6年も何もしてないというね(笑)。
──いやいや、活動自体は精力的にしていたと思いますが。
そうなんですけど、アルバム単位で考えるとそんなに空けてしまったのかと思いますね。ただ独立してからは、アマチュア的な活動の仕方をしてて。自分の部屋で曲を作って、ライブのチケットもネットで手売りして、大々的なプロモーションもできないのでメルマガで情報を発信して、Twitterでその情報を拡散してもらって……っていう。そういうところからリスタートしたから、冷静に考えると新しいオリジナルアルバムを作るまでに6年はかかるよなって思いますね。前の事務所にいたときは締め切りもキツかったし、タイアップも多かったので、必然的に制作のゴールが見えてることが多かったんです。でも独立してからは明確なゴールがないんですよ。今のレーベルは「いつアルバムをリリースしてもいいですよ」というスタンスで。当初は2015年の秋にリリースする予定だったんだけど、「2016年でもいいですよ」という流れになって。
──あまり厳しくないんですね。
かなり自由ですね。いつまでにアルバムを何枚リリースしなきゃいけないというピリピリした契約ではなくて。そういう意味で作品ありきなんです。
──スガさん自身が着地点をどこにするか設定するという。
そうそう。着地するのが怖くてずっと引っ張ってきちゃったんですよね。曲数で言えば、独立してから3年目くらいでアルバムは作れたんだけど、「このゴールでいいの?」という不安があるから、アルバムを完成させることに踏み切れなかった。その結果、配信シングルとかはどんどん増えていくのに一向にアルバムの気配がしないという(笑)。途中から自分でもアルバムから逃げてることに気付いてましたね。「次のアルバムは集大成的な内容になる」とか言っちゃってたし、余計にアルバムを作るのが怖くなっちゃって……。
「いやあ……そんなアルバム出したら死ぬわ」
──アルバムに向かってギアが入ったのはいつ頃だったんですか?
2014年の終わりくらいかな? 本格的に小林(武史)さんプロデュースで制作することが決まり、「じゃあいよいよアルバムを作ろうか」というムードになったんですよね。
──やはり小林さんの存在は大きかった?
うん。やっぱり僕1人じゃアルバム制作に踏み切れなかった。自分の判断力にも自信がなかったし。曲はいっぱいできるんだけど、どうしたら「これが集大成です!」と言えるアルバムにできるのか。そこまでの道筋を小林さんに導いてもらおうと思って。
──サウンドうんぬんというよりも、アルバムが完成するまでの動線を小林さんに引いてもらおうと。
そう。最初のアルバム会議のときに小林さんにお願いしたのは、「サウンドプロデュースというより、トータルプロデュースをお願いしたいんです」ということで。「今のスガシカオがどういうふうに立って、どういうふうに歌えばいいのか。その姿をプロデュースしてほしいんです」と。小林さんも「そういうプロデュースのやり方には自信があるから任せて」って言ってくれて。その次の会議のときに、2011年に独立してから作った曲を全部紙に書いて、それを小林さんに渡したんですね。「これだけ曲があるんですけど、どういうふうに組み合わせてアルバムを作ったらいいですかね?」って聞いたら、「ここにある曲はなしで、全部新曲でアルバムを作ってください」って言われて。「ええーっ!」みたいな(笑)。
──そうなりますよね。
「今ある曲はまた次のアルバムでもいいから、全部新曲でいこうよ」って。まあ、体が固まりましたよね(笑)。
──その提言から小林さんのプロデュースは始まっていたんでしょうね。
今考えると、「既発曲に頼って枠組みを作って、そこに甘えていたら今より一歩先には行けないよ」という小林さんからのメッセージだったと思う。そこに関して小林さんの腹は決まっていたみたいで。あとは「J-POPはやるな」と言われましたね。
──J-POPを熟知しているであろう小林さんにその言葉を言われると余計にドキッとしますね。
「青春の甘酸っぱい感じとか、誰かの背中を押すとか、そういう曲は全部いらないから」と。俺、その時点で30曲くらい持ってたんですよ。いい曲もいっぱいあったんですよ? それを全部外されて。小林さんがその中からマニアックな曲を11曲くらい並べて、「イメージとしてはこういう感じのアルバムかな。それを全部新曲で作って」って言ってきて。「いやあ……そんなアルバム出したら死ぬわ」って思ったんだけど。
──「死ぬわ」ってどういうニュアンスなんですか?
「そんなマニアックなアルバムを誰が聴くの?」みたいな。またその次の会議のときに「『アストライド』だけはどうしてもアルバムに入れたいんです」という話をして。それで小林さんに「そんなに『アストライド』が重要って言うなら、『アストライド』が生まれる前夜の『アストライドゼロ』にあたるような曲を作ってきなよ」って言われたんです。それが1曲目の「ふるえる手」なんですけど。で、「アストライドゼロ」にあたる「ふるえる手」で始まって、「アストライド」で終わるアルバムにしようってことになったんです。
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- ニューアルバム「THE LAST」 / 2016年1月20日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD2枚組] 4104円 / VIZL-918
- 通常盤 [CD] 3240円 / VICL-64498
- 完全生産限定盤 [CD2枚組+DVD+グッズ] 8640円 / VIZL-917
CD収録曲
- ふるえる手
- 大晦日の宇宙船
- あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ
- 海賊と黒い海
- おれ、やっぱ月に帰るわ
- ごめんねセンチメンタル
- 青春のホルマリン漬け
- オバケエントツ
- 愛と幻想のレスポール
- 真夜中の虹
- アストライド
完全生産限定盤 / 初回限定盤付属CD「THE BEST」収録曲
- Re:you
- 傷口
- Festival
- アイタイ
- したくてたまらない
- 赤い実
- 赤い実 Remix
- 情熱と人生の間
- 航空灯
- LIFE
- モノラルセカイ
完全生産限定盤DVD収録内容
「ぶらり途中下車しない旅 ~伊豆急行 語らひ編~」
スガシカオ
1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビュー。日常や時代の空気感を鋭く切り取る作品性や世界観で、世代を問わず幅広い支持を得ている。1stアルバム「Clover」から9thアルバム「FUNKASTiC」まで、これまでリリースしたオリジナルアルバムすべてがオリコン週間ランキングトップ10入りを記録。2011年に長年在籍していた事務所を離れて独立し、シングル「Re:you」「赤い実」、ミニアルバム「ACOUSTIC SOUL」を配信でリリースする。2014年5月に両A面シングル「アストライド / LIFE」をSPEEDSTAR RECORDSより発表し、メジャーシーンに復帰。2016年1月に約6年ぶりとなるオリジナルアルバム「THE LAST」をリリースした。
2016年1月20日更新