ナタリー PowerPush - スガ シカオ
ロック社会でファンクを鳴らせ! 「FUNKASTiC」とスガ流FUNK論
スガ シカオがおよそ1年9カ月ぶりとなるニューアルバム「FUNKASTiC」を5月12日にリリースする。ポップで“FANTASTIC”な楽曲に、業の深い“FUNK”が渦巻く、まさに彼の真骨頂と言える本作。このインタビューではアルバムに関する話題を中心に、スガ シカオの考える「ファンク」について迫った。
取材/唐木元 文/臼杵成晃
「彼のCDの中で一番ファンキーなやつをくれ」
──2009年はライブハウスツアーやフェス出演などライブ三昧でしたよね。さらに年末にはイギリスの学校でのライブもありましたが、これはどのようなきっかけで実現したんですか?
ライブは、日英国交樹立150周年のイベントの一環で声をかけていただきました。イギリスに日本語を教える公立学校があるんだけど、そこで僕の詞と曲が載った教材を使って授業が行われてて。「みんなスガさんの曲を歌えるよ」ってメールをもらったんですよ。そりゃ行くしかねぇべ、みたいな。「この人誰?」みたいな顔されたらヤだなあみたいな恐怖感もあったけど(笑)、「NEWS ZERO」(日本テレビ系)が付いてきてくれるっていうんで、ロンドンから2時間ぐらいのコベントリーっていう街まで行ってきました。
──ライブのリアクションはどうでしたか?
日本のアーティストがイギリスに行くと、だいたい在英日本人が8割ぐらいらしいんですよ。「じゃあMCも日本語でいいね」なんて言ってたんだけど、いざフタを開けてみたら半分以上イギリス人で、プラス東南アジア系の人がバラバラと。おかげで前半はもう舞い上がっちゃって。でも後半に行くにつれ、ファンキーな曲をやり始めたら急にみんな一体感が出てきた。最後はダンスパーティみたいになって、なんとか成功に終わりましたね。
──スガさんの場合、サウンドは多分J-POPというより海外のファンクに直結する部分が多いと思うんですけど、そこに日本語の歌詞が乗っているのを、海外の方たちがどういうふうに聴いているのか気になりますよね。
ライブをやってみて感じたのは、ルーツをハッキリと出してる曲がより喜ばれるんだなってこと。「ファンク好きです!」「ブラックミュージック大好きです!」みたいな曲のほうがわかりやすく盛り上がってくれるし、会場の物販コーナーでも「彼のCDの中で一番ファンキーなやつをくれ」とか「一番ファンク色の強いやつをくれ」って言われることが多かったみたい。
“大人がクールに踊れるダンスナンバー”じゃない
──海外でのライブは、やっぱり大きな経験になりましたか?
ライブをやったことよりも、長年憧れてた“海外でのライブ”を成功させた、っていう自信のほうが大きかったかなあ。自分がやってきたことが間違いじゃなかったという自信がつきました。結構ね、そこでの経験が最終的にアルバム制作に影響してるかもしれない。
──それはどういう部分で?
弾き語りの曲だと「悲しいです!」とか、ダンスチューンだと「楽しいです!」って、ハッキリと感情を出したほうが伝わるんですよ。そこをぼやかすとあまり反応が良くなかったりして。僕、レコーディングだと結構ちゃんとしちゃいがちで、ちゃんとするっていうことはイコールぼやけるっていうことになるんですよ。初期衝動みたいなのがどんどん削れてっちゃって。人間って放っとくと、バランスを取っちゃうんですよ。なまじキャリアが長かったりすると。
──ああ。ましてやスガさんの場合は社会人経験もありますし。
うん。知らないうちにバランスを整えてしまう。で、実際アルバムができあがると「あれ? 結構ちゃんとしてんなぁ」みたいな。僕は不安定な人間の精神を歌詞に書くことが多いから、もっと音も不安定でガタガタなはずなのに、演奏で失敗したところを全部レコーディングし直したりすると、伝えるべきところが伝わらないんじゃないかなっていう。
──今回は荒削りな部分はそのまま?
デコボコのまんま作ったんですよ。ドラムが右からしか鳴ってないとか極端なこともやってるし、曲のテイストによっては演奏も本当にイビツなまんま。結構徹底してやりましたね。
──それって、ディレクターとかレコード会社の人から「ちょっと待って!」って止められたりしないんですか?
僕はもう、止めてもしょうがないと思われてるから。
──あはははは(笑)。
そういう位置づけなんで(笑)。歯止めが効かないぶん、今までは怖くなって自分でブレーキをかけちゃってるところがあったんですけどね。やりすぎると、単に「マニアックな曲やってるねー」でスッとかわされて終わっちゃうから。心に刺さる前に「あぁなんかすごいマニアックね」で終わっちゃったら元も子もないし、ちゃんと歌詞の世界観が伝わる音じゃなきゃしょうがない。
──スガさんはこれまでどちらかと言うと、8割ぐらいの力でクールに仕上げて「あまり汗をかかないぐらいがカッコいい」みたいな印象だったんですけど。
最近はむしろ逆で。ここ3~4年かな、10周年っていう節目を機に、ちょっと一気にシフトを変えたんですね。さっき言ったようなきちんとパッケージ化されたものに、自分がいつの間にかなっているのに気付いて。「あれ、こんなつもりじゃなかったんだけどなあ」と。ライブでも、自分としてはすごくファンキーにやってるんだけど、お客さんにはそう伝わってないところもあった。“大人がクールに踊れるダンスナンバー”とか、いやいや全然そうじゃないんだけどなあとか思ったり。
──「AORじゃねえんだ!」みたいな。
そうそう(笑)。やっぱり、それはライブ会場の選定ひとつから始まっていつの間にかこういうことに、知らないうちに自分からそうなってたんですよね。固定イスの付いた大きなホール会場で聴いたらそうなりますよね。それをもう、10周年を機にバンドも変えて、会場もライブハウスに戻って。
──それはスガさん自身が決断したことなんですか?
そうです。元の自分に、デビューした頃の自分に戻るみたいな。この3、4年はそれを一生懸命やってますね。
CD収録曲
- サヨナラホームラン
- 世界が終わる5秒前
- FAN-KEY-TRAINリクエスト・ソング(タイトル未発表)
初回盤DVD収録内容
- 「Hitori Sugar Tour 2008」ライブ&MC映像
CD収録曲
- Party People
- 91時91分
- サヨナラホームラン
- 兆し
- ファンカゲリヲン
- トマトとウソと戦闘機
- 雨あがりの朝に
- ドキュメント2010 ~Singer VS. Rapper~
- 台風は北北東に進路をかえ・・・
- 夏色タイム
- 軽蔑
- はじまりの日 feat. Mummy-D
初回盤DVD収録内容
- 2009年ロンドン公演 ライブ&ドキュメンタリー映像
スガ シカオ
1997年2月にシングル「ヒットチャートをかけぬけろ」でメジャーデビューを果たした、日本を代表するファンクミュージシャン。1998年1月にリリースされたSMAPのシングル「夜空ノムコウ」で作詞を担当したことで、多方面から大きな注目を浴びた。また、1999年7月には杏子、山崎まさよしと共に「福耳」を結成。ソロとはひと味違う魅力を見せている。2007年にはデビュー10周年を迎え、初のシングルコレクション「ALL SINGLES BEST」リリースや武道館ライブなど、精力的な活動を展開している。