音楽ナタリー Power Push - シュガー・ベイブ
山下達郎が語る「SONGS」40周年と大瀧詠一
ハイレゾと圧縮音源
──ところで、先ほど48kHz/24bitでハイレゾにも対応できるという話がありましたが、達郎さんはハイレゾについてはどういう印象を持っていますか?
96kHz以上はあんまり好きじゃない。ロックは48kHz/24bitで十分です。今回96kHzも試してみたんだけど、なんだか気持ち悪くてね。人間の聴覚は20kHzからちょっと上ぐらいで終わるんだからそれで十分なんだよ。そういう部分より、ロックンロールは“つぶれ”と“ひずみ”の音楽だから。
──つぶれとひずみ?
音のつぶれと音のひずみが根性を生む。それがロックンロール。デジタルっていうのはノイズがない。ひずまないの。アナログはレベルをぶっ込むとひずむ。そのひずみがロックなの。
──解像度が高ければいいというものではない?
ない。昔のアナログの音はフェードアウトするとき、ちゃんと音が遠ざかるんです。でも今のデジタルだと遠ざからないで、同じ場所でそのまま小さくなる。そういうのもアナログとデジタルの違いなんです。だから2000年過ぎた頃からポップミュージックにフェードアウトが激減したでしょ。それはデジタル化と無関係じゃないと思う。デジタルのフェードアウトはなんだか違和感があるんだよね。
──今は配信やストリーミングで音楽を聴く機会も増えましたが、そうした状況については達郎さんはどう捉えていますか?
いや、まあ今や趨勢としては不可避でしょ。だからそれしか方法がなくなったらやるよ。それまでは粘る(笑)。
──達郎さん自身、リスナーとして圧縮音源を聴くこともありますか?
はっきり言ってありません。iPod ClassicにCDを取り込んで聴いてるけど、MP3とかAACといった圧縮音源には一切してなくて、非圧縮のWAVで取り込んでる。まあ、CDも広義の圧縮音源ではあるんだけどね。
──スマートフォンは使いますか?
音楽をスマホで聴くかって意味? ロスとかニューヨークのラジオを聴くときはiPhoneで聴いてます。それは昔のトランジスタラジオと同じ感覚です。オーディオ的なシビアさを求めるには従来のガラパゴスな機器のほうがはるかに質は高いから、それで困らない。iPod Classicは携帯系の中では一番音がよかったのに、なくなっちゃったし。すぐ壊れるから10台くらい買いだめしてある。
──Apple Storeでの公式販売は終了してますもんね。
アナログ盤のカートリッジも相当買いだめしてあって、一応生きてるあいだは間に合うかなって。仕事場のステレオはアナログ盤聴取専用で、CDはプレーヤーのヘッドフォンアウトから直接、スタジオ作業の音はProToolで、寝る前に新譜を聴くときはiPod Classicのドック経由でヘッドフォンです。
大瀧さんと自分はよく似ている
──大瀧詠一さんが亡くなってから早いもので1年半が経ちます。改めて伺いたいんですが、達郎さんと大瀧さんはどんな関係だったんでしょうか?
どんな関係? うーん、僕にとっては兄貴みたいなもんかな。
──兄貴ですか。
僕の5歳年上なんです。大瀧さんは岩手の生まれでね。僕は母親が仙台で、岩手に親戚もいるから、ひょっとしてどっかで血縁だったんじゃないかと思うことがよくある。よく似てるから。声も若い頃はどっちがどっちだかわかんないときがあった。顔つきもそんなに違わない。僕も大瀧さんもひとりっ子だし。おそらくミュージシャンでは僕が大瀧さんと一番長い時間しゃべってる。
──2人でどんな話をしていたんですか?
いやもうありとあらゆる話ですよ。音楽に限らず。途中で話がどんどん飛んでって、夕方から朝まで12時間以上話してたり。
──じゃあミュージシャン仲間というよりは友達という感覚のほうが近い?
友達というより先輩だね。音楽を実際に利害を持って一緒にやってた期間はそんなに長くないから。
──「SONGS」は達郎さんと大瀧さんの共同プロデュースですよね。意見がぶつかることはなかったですか?
それはもちろんたくさんありましたよ。言い合いとかもしたし。だけどそんなの物作りの現場ならどこでもある。大瀧さんのベストアルバム(2014年12月発売「Best Always」)に僕が書いたコメント読みました?
──はい。大瀧さんがどんな人だったか、知らない人にどんなに丁寧に説明しても信じてもらえないだろう、といった内容ですよね。
あの文についていろいろグズグズ言ってる部外者もいるらしいんだけど、てんで余計なお世話でね。だって本当のことなんだもの。「お世話になってありがとう」とか、そんな薄っぺらな社交辞令じゃ説明できないもの。
──もっと深い関係性があったんですね。
なんというか喜怒哀楽が全部あるんです。大瀧さんは僕にとってはすごく博覧強記な先輩で、とりわけ自分が捨てかけていた価値観をもう一度復活させてくれたというのが、とても大きい。1970年前後ってカルチャーのスピードがすごく早くて、例えば「クレージーキャッツはもういらない」とか「ベンチャーズはもう古い」とか、そうやっていろんなものが捨て去られて、新しいものが常に正しいっていう順進史観の時代だった。でも73年の夏に大瀧さんちへ行ったら、そんなこたあ知るかとばかりクレージーのレコードとかかけまくってて。こっちがそれに感動してると、あの人も「なんでコイツはそんなもんに感動してんだろ」って。映画や本についても同じ。そういう意味では音楽の師匠というよりも、そういう多方面な価値観の共有のほうが大きかったんですよね。
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- アルバム「SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-」 / 2015年8月5日発売 / [CD2枚組] 3024円 / Warner Music Japan / WPCL-12160~1
- アルバム「SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-」
- アナログ盤 [アナログ2枚組] 4320円 / NIAGARA / SRJL-1090~1
CD DISC 1(2015 Remaster)収録曲
- SHOW
- DOWN TOWN
- 蜃気楼の街
- 風の世界
- ためいきばかり
- いつも通り
- すてきなメロディー
- 今日はなんだか
- 雨は手のひらにいっぱい
- 過ぎ去りし日々“60’s Dream”
- SUGAR
- パレード(Live)(Bonus Track)
- こぬか雨(Live)(Bonus Track)
- 雨は手のひらにいっぱい(Live)(Bonus Track)
- WINDY LADY(Live)(Bonus Track)
- DOWN TOWN(Live)(Bonus Track)
- 愛は幻(Live)(Bonus Track)
- 今日はなんだか(Live)(Bonus Track)
CD DISC 2(2015 Remix)収録曲
- SHOW
- DOWN TOWN
- 蜃気楼の街
- 風の世界
- ためいきばかり
- いつも通り
- すてきなメロディー
- 今日はなんだか
- 雨は手のひらにいっぱい
- 過ぎ去りし日々“60’s Dream”
- SUGAR
- 今日はなんだか(Original Piano Version)(Bonus Track)
- DOWN TOWN(Live)(Bonus Track)
- 風の世界(Live)(Bonus Track)
- SHOW(Karaoke)(Bonus Track)
- DOWN TOWN(Karaoke)(Bonus Track)
- 蜃気楼の街(Karaoke)(Bonus Track)
- いつも通り(Karaoke)(Bonus Track)
- 雨は手のひらにいっぱい(Karaoke)(Bonus Track)
シュガー・ベイブ
山下達郎(Vo, G)を中心に1973年に結成されたロックバンド。1976年解散。解散時のメンバーは山下達郎、大貫妙子(Vo, Key)、村松邦男(G, Vo)、寺尾次郎(B)、上原裕(Dr)の5名。メジャー7thを多用したコード展開や美しいコーラスワークなど、当時としては珍しい音楽性でその後の日本のロック史に大きな影響を与えた。1975年4月に発表したアルバム「SONGS」は、現在に至るまで名盤として多くのファンに支持されており、2015年8月には多くのボーナストラックを加えた「SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-」としてリイシューされた。
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
1953年東京出身の男性シンガーソングライター。1975年にシュガー・ベイブの中心人物として、シングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がけている。また、代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から四半世紀にわたってオリコン年間チャート100位以内を記録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市64公演のホールツアーを実施する。