音楽ナタリー Power Push - 武瑠(SuG)×増田セバスチャン
アートと音楽 2つのクリエイティブが交錯した「KILL KILL」
Jリーグじゃなくて、ワールドカップを生で見た感じ
──増田さんはSuGの新曲「KILL KILL」のMVの監督を務めています。このタッグが実現した経緯を教えてもらえますか?
武瑠 「このタイミングしかない!」と思って連絡させてもらったんです。セバスチャンさんのスケジュール的にはかなり厳しかったんですけど、そこをなんとか調整してもらって。
増田 3日間寝てない中で撮影の日を迎えたんですよ。そんなことは初めてだったんだけど、15分くらい気を失って、また撮影に戻ったり。撮影現場は工場みたいなところで空気も悪かったし、大変でしたね。武瑠くんも撮影のあと体調を崩してしまったし。
武瑠 (笑)。でもセバスチャンさんのほうが大変ですよ。撮影現場に24時間くらいいましたよね?
増田 そうだね。でもそのギリギリな感じが映像に出てるから、逆によかったんじゃないかな。
──「KILL KILL」のMVを撮ってほしいというオファーがあったときは、どう思いました?
増田 武瑠くんが書いたMVのラフと一緒に曲を送ってもらったんですけど、とにかく曲がよくて。これまでなかなか一緒に仕事ができてなかったんだけど、「KILL KILL」を聴いたときに「この曲は一緒にやらなきゃ」と思って。若いときにしか出せないエネルギーを曲から感じたし、90年代の自分の中にあった剥き出しの気持ちをそのまま表現すれば、ちゃんと接点が生まれると思ったんですよね。
──今回のMVに関して増田さんは「今回はSuGを通して自分が20代の頃にやり残したことの1つをやれた気がしています」というコメントを出してますね。
増田 90年代をリスペクトしている若い人が増えている中で、自分が実際にやっていたことと武瑠くんがやろうとしていること、SuGのイメージをミックスしてみようと思ったんです。20代の頃は現代美術家のお手伝いをやっていて、廃工場で鉄を切ったりしてたんですよ。今回のMVは、その頃を思い出しながら作りました。
武瑠 撮影はすごかったですね、ホントに。最近は自分でMVの絵コンテを描くことが多かったんですけど、ひさしぶりに自分の想像を超えるようなクリエーションを経験できたなって。細かい部分で感じたこともたくさんあるんですけど、総括すると「遊び感覚、楽しいという感覚のままモノ作りをやってるんだな」ということですね。聴き手やセールスを気にしたり、時代に寄っていたり、メッセージ性を軸にしたり、作品の作り方っていろんなやり方があると思うんです。セバスチャンさんはまず、自分がいいと思うことをやって、楽しみながら作ってる印象があるんですよ。もともと自分も「音楽が好き」とか「歌いたい」ということではなくて、「とにかく何かが作りたい」という原始的な欲求から始まってるんですけど、まさにそういう作り方だなって。
増田 自分としては武瑠くんを後方から援護射撃しているような感覚だったんです。武瑠くんのメッセージをビジュアル化することを意識していたし、武瑠くんからヒアリングしたうえで進めていったので。
武瑠 その場でアイデアを出しながら遊んでるようなイメージもありましたね。確かに撮影は大変だったけど、セバスチャンさんはそれさえも遊びとして捉えているというか。見失いがちですからね、そういう感覚って。
増田 現場では武瑠くんがこっちの言ったことをストレートに受け入れてくれて。さらにアレンジしてくれるのでやりやすかったですね。ほかのメンバーの演技もうまかったんですよ。MVで演技するのは初めてだって言ってたけど。
武瑠 インディーズの頃にやったことがあるんですけど、今回のようなクオリティではまったくなかったので(笑)。もう1つ感じたのは、セバスチャンさんの熱量の高さですね。さっきセバスチャンさんは「(武瑠と)同世代みたいな感じ」って言ってくれましたけど、僭越ながら実は僕もそれを感じていて。セバスチャンさんのキャリアと年齢で、これほどの衝動を継続し続けるエネルギーは本当にすごいと思うんですよ。世界で活躍する人って、こういうことなんだなって思いましたね。サッカーで言うと、Jリーグじゃなくて、ワールドカップの試合を生で観た感じというか。
増田 ハハハハハ(笑)。
武瑠 若いときに一発だけ面白いことをやるっていうのは、できると思うんです。それまでの人生の蓄積もあるから。でもそれをずっと続けているのはすごいですよ。
──増田さんは、あるインタビューで「40代になって初めてやりたいことができるようになった」という趣旨のコメントをしていました。そういう意味では、近年やっと自分がやりたいクリエーションが始まったばかりという感覚なんでしょうか?
増田 まさにそうですね。20代のときも、たぶん今と同じことはできたんですよ。でも当時は「こんなのはファッションじゃない」「こんなのアートじゃない」って否定され続けてた。自分の精神力も強くはなかったから、ヘコたれることも多かったんです。今は実力も付いてきたし時代も変わってきて、自分が作るものを受け入れてもらえるようになりましたからね。だったら「今やるしかない」って。今、ものすごい数の作品を作ってるんですよ。「来年はやれないかもしれない」と思ったら、全部やるしかないから。
武瑠 規模は違いますけど、僕も同じですね。ずっと「そんなのヴィジュアル系じゃない」「ロックじゃない」「世界観ばかり気にしてるのはおかしい」みたいなことを言われてきたので。今のシーンって、僕から見ると「音楽1本で活動する」というバンドが多いように思うんですよ。それを否定するわけでないけど、自分のよさはそこじゃないなって。自分がいいと思うファッションや映像だったり、やりたいクリエーションを続けて、それをバンドの表現として昇華させたいと思ってるので。そういう意味でもセバスチャンさんの活動はすごく指針になるし、勇気をもらえますね。
みんな“KILLしたいやつ”が多い
──ミニアルバム「SHUDUP」のコンセプトついても聞かせてください。非常にアグレッシブな楽曲が並んでいますが、これは前作のミニアルバム「VIRGIN」と対になる作品なんですよね?
武瑠 はい。以前は3年くらい先を考えながらリリースを組み立てていたんですけど、2015年に扁桃炎で入院してから作り方が変わってきたんです。先のことばかり考えていると、今、自分がやりたいことがわからなくなると思って。退院して最初に作ったのが「teenAge dream」だったんですが、その曲をもとにして衝動だけで作ったのが前回の「VIRGIN」。その後、11月から「VersuS」というツアーをやることが決まったから、「“S”を頭文字にしたミニアルバムを作ろう」と思って。アグレッシブなアルバムになりましたけど“ツアーありき”というところが大きいですね。
──「KILL KILL」は、TwitCastingで視聴者から歌詞のアイデアとして“KILLしたいやつ”を募集したことでも話題を集めました。
武瑠 スレスレの企画だと思ったんですけど(笑)、めっちゃ応募があったんですよ。普段「どんな企画をやってほしいですか?」と聞いてもそれほど反応がないんだけど、今回はすごく反応がよかった。みんな“KILLしたいやつ”が多いみたいですね。
──負の感情を攻撃的なロックに変換する、すごくポジティブな試みだと思います。歌詞は「すぐに不謹慎とか言うやつ」とか「自分だけ加工アプリするやつ」など、SNS社会ならではのフレーズも印象的でした。すぐに叩かれるのがわかってるから、やりたいことに突き進めない若い人も多いと思うし。
増田 そうかもしれないですね。特にオリジナルなものを持っている人は、叩かれやすいんですよ。その理由は簡単で、周りの人に理解されないから。自分も若いときは「理解できない」と言われましたけど、「人と同じことをやっても意味がない」とずっと思ってたんですよね。
武瑠 そうですよね。
増田 でも今はみんながわかるような要素も入れるようにしているんです。本当にブッ飛んだものはどうしても理解されないので。あと言葉をビジュアル化しているような感覚もあるんですよ。音楽に例えると、歌詞から書くタイプ。そこからビジュアルを作っていくようにしています。
武瑠 僕も最初に言葉、テーマを作るタイプです。「KILL KILL」も完全に歌詞が先だし。
増田 言葉が先にあると、そこからどんなに飛んで行ったとしても、戻れるところがあるんです。最初に伝えたいことがないと、どうしてもわかりづらいものになってしまうので。自分の場合はビジュアルを作っているので、言語の壁をすぐに越えられるのもいいところだと思います。
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- SuG ミニアルバム「SHUDDUP」/ 2016年11月2日発売 / ポニーキャニオン
- LIMITED EDITION / [CD+DVD] 3000円 / PCCA-04440
- STANDARD EDITION /[CD] 2000円 / PCCA-04441
CD収録曲
- ANARCHY IN THE REAL
- KILL KILL
- FLY WYVERNS
- WORLD FAMOUS
- BLOODY MARY
- ZIG ZAG
- SCREAM IT LOUDER
LIMITED EDITION DVD収録内容
- 「KILL KILL」Music Video
- 「KILL KILL」Music Video -Band Ver.-
- 「KILL KILL」Music Video -Shooting OFFSHOT-
- 「絶対にビビってはいけない心霊ビルディング」
SuG「VersuS 2016 EXTRA」
- 2016年11月12日(土)
- 大阪府 松下IMPホール ※極悪SuG
- 2016年11月13日(日)
- 大阪府 松下IMPホール ※極彩SuG
- 2016年11月19日(土)
- 福岡県 DRUM SON ※極悪SuG
- 2016年11月20日(日)
- 熊本県 熊本B.9 V2 ※極彩SuG
- 2016年11月22日(火)
- 愛知県 ElectricLadyLand ※極悪SuG
- 2016年11月23日(水・祝)
- 愛知県 ElectricLadyLand ※極彩SuG
- 2016年11月26日(土)
- 東京都 品川インターシティホール ※極悪SuG
- 2016年11月27日(日)
- 東京都 品川インターシティホール ※極彩SuG
- 2016年12月3日(土)
- 宮城県 仙台MACANA ※極悪SuG
- 2016年12月4日(日)
- 山形県 山形ミュージック昭和Session ※極彩SuG
- 2016年12月16日(金)
- 広島県 CAVE-BE ※極悪SuG
- 2016年12月17日(土)
- 岡山県 IMAGE ※極彩SuG
- 2016年12月22日(木)
- 新潟県 CLUB RIVERST ※極悪SuG
- 2016年12月23日(金・祝)
- 長野県 ALECX ※極彩SuG
- 2016年12月26日(月)
- 京都府 京都MOJO ※極悪SuG
- 2016年12月27日(火)
- 兵庫県 神戸VARIT. ※極彩SuG
SuG VersuS 2016 EXTRA FINAL
「COUNTDOWN」
- 2016年12月30日(金)
- 東京都 豊洲PIT
※極彩SuGと極悪SuGによるツーマンライブ
SuG(サグ)
2006年に結成された5人組ロックバンド。現在のメンバーは武瑠(Vo)、masato(G)、yuji(G)、Chiyu(B)、shinpei(Dr)。バンド名はスラング「Thug」に由来し、「周りの意見を気にせずに自分たちの思った通りに進む人たち」や「悪友」という意味を持つ。結成当初より「HEAVY POSITIVE ROCK」というコンセプトを掲げ、前向きなメッセージを乗せたキャッチーな楽曲で人気を博す。2010年1月、シングル「gr8 story」でメジャーデビュー。メンバー全員が作曲を行い、作詞とそれに基づいたミュージックビデオ、衣装などのアートワーク全般を武瑠が手がける。2012年10月に突然の活動休止を発表し、同年12月29日の東京・国立代々木競技場第二体育館でのライブをもってバンド活動を休止。その後はメンバーそれぞれ独自の音楽活動を続けていたが、2013年12月に国立代々木競技場第二体育館で復活ライブを開催した。2015年3月にはアルバム「BLACK」をリリース。さらに2016年3月に1stミニアルバム「VIRGIN」を、11月に2ndミニアルバム「SHUDDUP」を発表した。