オクシモロンな歌詞に落とし込まれた2つの視点
──志磨さんは、菅田さんのニューアルバム「LOVE」に「りびんぐでっど」を提供しましたが、この曲はどういう経緯で制作された楽曲なんですか?
志磨 映画の撮影で出会ってから、音楽の話をいっぱいしている中で、「一緒に曲を作ってみようか」ということになりまして。あのとき菅田くんはすでに自分で曲を作ってると言ってたよね?
菅田 友達と遊びでやってただけですけどね。その頃は音楽活動も全然やってなかったし。
志磨 で、僕とも一緒にスタジオに入って、ギターを弾いたりドラムを叩いたりして、遊びながら曲を作って。それが去年かな。
菅田 そうですね。
志磨 それからしばらく経って、僕がアルバム(ドレスコーズのニューアルバム「ジャズ」)の制作の準備をしているときに「りびんぐでっど」の原型の曲ができて。僕は短期集中でバーッと一気に何曲も書くんですが、その中で「このメロディすごくいいけど、菅田くんのほうが似合うかも」という気がしたので、「いい曲ができたから、あげるよ」って菅田くんに送ったら、「めっちゃいいじゃないですか」「じゃあ、ちゃんと録りましょう」という話になり。
菅田 そうそう、そうだった。
志磨 それで、歌詞も菅田くんに似合うように考えて。
菅田 そのときのリサーチの時間が面白かったんですよ。僕の「この前、こんなことがあって、こんなふうに思ったんですよね」という話から、それを分解して、実際にその物事が起きた時間とか、童謡の歌詞とか、ほかのものとすり合わせて。制作しているというより、好奇心で動いている感じがすごくよかったんです。
志磨 面白かったよね。
菅田 できあがった歌詞ももちろんすごくて。「りびんぐでっど」の歌詞は、完全に僕のことを捉えているんですよ。
志磨 あ、本当? よかった。
菅田 人生の至るところに出てくるテーマが自分の中にあって。自分の視点が2つあるんです。役者の仕事がまさにそうなんですが、演技しているときは、菅田将暉という人と、そのときに演じている役という2つの視点が常にあるんです。どんな演技をしているときも、それを見ている自分がいるっていうのかな。例えば人を殺すシーンでも、それを冷静に見ている自分がいる。本当に殺してしまわないようにコントロールしなくちゃいけないですからね、お芝居は。そういう感覚も入っているんですよね、「りびんぐでっど」の歌詞には。
志磨 2つの視点とか二面性って、役者じゃない人にもあるじゃないですか。建前と本音もそうだし。そんな話をしている中で、パッと浮かんだのが、The Beatlesがカバーした「Act Naturally」だったんです。
菅田 そうだ、The Beatlesの話もしてた。
志磨 「Act Naturally」は直訳すると“自然な演技”という意味だと思うんですけど、それって言葉として矛盾してるじゃないですか。そういう言葉の修辞法を“オクシモロン”(“oxymoron” / 意味が矛盾している語句を並べる修辞法。“無慈悲な親切”、“近くて遠い”など)というらしくて。で、歌詞をすべてオクシモロンだけで書いてみたらどうだろう、と。
菅田 「静寂がうるさすぎる」とか。
志磨 「憎らしいほど大好きだよ」「天使の顔した 悪魔のようさ」もそう。
菅田 「りびんぐでっど」の歌詞は全部がそうなっているんですよ、最初から最後まで。
──“2つの視点”ですね、確かに。相反する感情が共存しているというか。
菅田 そうですね。でも、普段からそうだと思うんですよ。こうやってしゃべっている自分を見ている自分もいるし、悲しくて泣いているときも、そういう自分のことをわかっているので。それは人間の不思議さだし、「りびんぐでっど」の歌詞にもそれが出ているんだと思います。そもそもタイトルが「りびんぐでっど」ですからね。
志磨 生きながら死んでいるっていう。ミステリアスというか、浮世離れしているような。もともと菅田くんにはそういう魅力があるんじゃないかなと。ちょっと“怖さ”がある。
──演技なのか本性なのか……。
志磨 それが菅田くんの一番の魅力であり、怖さでもあるのかなと。その感じを歌にしてみたかったんですよね。
菅田 すごいなあ。そういうことを考える志磨さんが一番怖い(笑)。やっぱり似ているんでしょうね。この曲の歌詞もすごく理解できるし、共鳴しているので。
菅田くんには敵わないなと思います
──「りびんぐでっど」を歌ったときの手応えはどうでした?
菅田 すごく楽しかったです。
志磨 難しいアレンジにしちゃったんですよね。基本的にベースとドラムだけで、リズムも途切れ途切れなので、歌が崩れると成立しないっていう。
──歌がグルーヴを作るというか。最近のR&Bのテイストにも近いですね。
菅田 そうなんですよね。
志磨 なので菅田くんには「がんばって歌ってー」とお願いして(笑)。
菅田 チャレンジでしたね、自分にとっても。志磨さんにレコーディングにも立ち会ってもらったんですけど、ディレクションが演出みたいだったんですよ。
志磨 人の歌のディレクションは初めてだったんですけど、普段自分がやってることを伝えるのって難しくて。「怒ってるんだけど、あえて感情を抑えて」とか「ここは感情がポロっと漏れてる感じで」みたいな言い方をしてたんですけど、菅田くんは「あ、了解です」ってすぐにやってくれて。
菅田 僕、口調フェチなんですよ。デモ音源の志磨さんの歌の中に、そのニュアンスが全部入っていたので、それを参考にして。ディレクションの中で「このフレーズは音階からハミ出して」と言われたのも面白かったです。今までは「この音程を正確に出して」ということが多かったから、「あえて音を外す表現もあるんだな」って。
志磨 それができるのも、菅田くんが音楽的な素養、素質を持っているからですよね。発音、ニュアンス、息を吸う場所もそうですけど、敵わないなと思います。
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