菅田将暉が2枚目のオリジナルアルバム「LOVE」を完成させた。「ロングホープ・フィリア」(映画「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄~」主題歌)、「まちがいさがし」(ドラマ「パーフェクトワールド」主題歌)を含む本作には、秋田ひろむ(amazarashi)、石崎ひゅーい、あいみょん、柴田隆浩(忘れらんねえよ)、志磨遼平(ドレスコーズ)、米津玄師などが作家として参加。菅田自身が作詞・作曲を手がけた楽曲も収録され、アーティストとしてのさらなる飛躍が実感できる作品となった。
音楽ナタリーでは、菅田と収録曲「りびんぐでっど」を手がけた志磨の対談をセッティング。両者の交流、楽曲の制作プロセス、ライブに対する考え方などについて語り合ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 草場雄介
志磨さんって、もしかして……?
──菅田さんが初めて志磨さんの音楽を聴いたのは、いつ頃ですか?
菅田将暉 10代後半ですね。友達の家で毛皮のマリーズのミュージックビデオを観て知りました。自分にとっては初めて聴くジャンルの音楽で衝撃を受けて、その後もずっと口ずさんでいたんですよ。カラオケでも「ビューティフル」とかよく歌っていました。
志磨遼平(ドレスコーズ) 初めて会ったとき、「ボニクラ」(「ボニーとクライドは今夜も夢中」)を歌ってくれたんだよね。
菅田 あ、そうですね。「溺れるナイフ」(菅田と志磨が初共演を果たした2016年公開の映画)の撮影で志磨さんと初めて会って。最初、志磨さんが毛皮のマリーズの志磨さんだと気付かなかったんです(笑)。
志磨 (役のために)髭がボーボーだったし。「溺れるナイフ」は山奥で撮影してたんですけど、山道に座り込んで2人で話したよね。
菅田 そうそう(笑)。しゃべった瞬間に「あれ? この声、知ってるな」と思って。志磨さんの声は1回聞いたら忘れない声だし、ミュージシャンだっていうから、「志磨さんって、もしかしてあの志磨さんですか?」って。
志磨 (笑)。菅田くん、撮影現場にギターを持ってきてたんですよ。さだまさしさん原作のドラマ(ドラマ「ちゃんぽん食べたか」)のためにギターを練習したって言ってたよね。
菅田 撮影の頃は、ちょうどギターを弾き始めた頃ですね。僕、カラオケが好きなんですけど、地方のロケだと行けないじゃないですか。なのでギターを持っていって、好きな曲のコードを覚えて、カラオケの代わりに弾き語りしてたんです。
志磨 撮影で会った日の夜中に菅田くんが「ボニクラ」の弾き語りを録音して、僕に送ってくれて。そんな出会いでしたね。
俳優って普段は普通の人なんですよ
──初対面のときの印象はどうでした?
志磨 菅田くんが出ている映画をたくさん観ていたわけではなかったから、ぼんやりとしたパブリックイメージしかなかったんですけど、(実際に会った印象は)それとはだいぶ違ってましたね。僕は俳優の友達がそんなに多いわけじゃないんだけど、菅田くんとは昔から知ってる友達みたいな感じで話せたんです、最初から。言葉を選んだりせずに、いろんな話ができて。
菅田 志磨さん、演劇も好きなんですよね。僕もミュージシャンの方とちゃんと話すのはそのときが初めてだったんですけど、志磨さんと話しているときに「あ、そうなんだ」と気付いたことがあって。俳優って、普段は普通の人なんですよ。脚本があって、衣装を着て、演出してもらうことで初めて何かになれる。ミュージシャンはそうじゃなくて、“その人そのもの”というイメージがあったんですけど、志磨さんと話していたら「そういう世界だけじゃないんだな」と思って。
──特に毛皮のマリーズのときは、ロックンロールスターという役割を演じている部分もありましたからね。
志磨 ロックンロールスターという職業があると思ってましたから(笑)。
菅田 それもやろうと思ってできることじゃないですけどね。ステージに立って歌うときにギアが入って、何者かになろうとするっていう。“嘘から出たまこと”じゃないけど、いつの間にか本物になってる感じがあるんですよね。そこには演劇的な美しさがあるし、僕の好きなミュージシャンはそういうタイプが多いのかもしれないなって、志磨さんと話していて気付いたんです。
志磨 映画の撮影のときも、そういう話をしてたんですよね。菅田くんとは使う言葉が似ているし、「そういう感覚、わかるな」ということが多くて。つまりシンパシーを感じているということですね。
菅田 前髪の話もしてましたよね。20代はずっと前髪が長くて、髪を切ったら世界が明るくなったっていう(笑)。
志磨 20代の頃は鼻まで前髪があったからね。そのせいかその頃の記憶がほとんどないんです(笑)。マグロって釣り上げたあと、目を隠すと暴れなくなるらしいんですけど、それと同じでずっとおとなしかったんですよ。
菅田 (笑)。その感じもよくわかります。静かな性格の役をやるときは前髪を長くしたり、自信のある人の役のときは眉毛を出したりするので。自然の摂理ですね。
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オクシモロンな歌詞に落とし込まれた2つの視点