曲名に込めた思い
──「はるどなり」という曲名も印象的でした。「春隣」という日本語は実際に存在していて「春がそこまで来ていること」という意味だとか。
冬の季語ですね。ドラマで描かれていることを見据えたときに「春がすぐそこまで来ていること」という言葉がすごく合うなと思って。確かに救いはあるけど、まだ救われたわけではない、ちょうど中間のもどかしい状況というか。
──情緒のある言葉ですよね。歌詞にも日本語の美しさがしっかり反映されていますが、作詞家としてはどんなアーティストに影響を受けているんですか?
1つあるとしたら読んでいた小説の影響はあるかもしれないです。小学校のとき朝のホームルームの前に読書の時間があって、無理やり読まされているうちにだんだん小説を読むことが好きになっていったんですよね。印象に残ってるのは乙一さんの「ZOO」。短編集なんですが繰り返し何回も読みました。ストーリーも面白いし、担任の先生が「わからない言葉は辞書で調べなさい」という人だったので、そのおかげで言葉にも興味を持つようになって。それが歌詞を書くことにもつながっているかもしれないです。
──力強さを増したボーカルも「はるどなり」の魅力だと思います。サウンドやアレンジと同様、歌の表現も広がっているのでは?
最近少しずつ広がってきているかなと感じています。ずっと歌ってきましたが、これまではあまり歌自体に向き合ってはいなかった気がしていて。「はるどなり」もそうだし、最近作っている曲に関しては「どう歌うべきか」を以前より考えるようになってますね。ただ、今も自分のことをシンガーソングライターだと言い切れないところもあるんです。シンガーソングライターというと、“作詞作曲をして歌う人”というのが広い認識だと思いますが、今の時代はそれだけじゃなくて、アレンジやプログラミングだったり、もっと幅広い活動をしている方が多いので。自分の場合は“ベッドルームミュージシャン”のほうが近いのかなと。
──プライベートスタジオですべてを完結できるミュージシャンということですよね。ドラマの中で「はるどなり」が流れたとき、どう感じましたか?
ずっとリアルタイムで観ているんですが、まず、ドラマが素晴らしいんですよ。感情移入しながら観ていて最後に曲が流れたときに現実に引き戻される(笑)。曲を大事に扱っていただいているのもありがたいですね。1話、2話では1番が使われていたんですが、3話では2番のサビになっていて。主人公の心先生(松下奈緒)が泣いていて、薫先生(木村佳乃)が寄り添ってるシーンで、「あなたの背が垂れる」という歌詞が重なっていたんです。あと心先生が「傷付けてしまった」と言う場面で「誰も傷付けない事を望んで」という歌詞が流れたり。
──素晴らしい。意義深いコラボレーションになりましたね。
自分は第1話の脚本を読んで想像を膨らませながら曲を書いたので、やっぱり価値観が近かったのではないかと思っています。何よりもプロデューサーの太田大さんが「いい曲をありがとう」と言ってくださったことがうれしくて。安心しましたね。
全国7カ所で“一緒に遊ぶ”ライブを
──2月29日の東京・Zepp DiverCity TOKYO公演を皮切りに全国ツアー「須田景凪 TOUR 2020 はるどなり」がスタートします。
公演情報
- 須田景凪 TOUR 2020 はるどなり
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- 2020年2月29日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
- 2020年3月7日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- 2020年3月8日(日)大阪府 なんばHatch
- 2020年3月14日(土)北海道 cube garden
- 2020年3月20日(金・祝)宮城県 Rensa
- 2020年3月28日(土)広島県 LIVE VANQUISH
- 2020年3月29日(日)福岡県 イムズホール
去年の「須田景凪 TOUR 2019 “teeter”」は東名阪の3カ所でした。今までにワンマンライブは8回しかやったことがないし、7カ所を回るツアーは正直どうなるか想像できない部分が多いですね。まだ模索中ですけど、去年のツアーと中野サンプラザホール公演で少しずつ「こういう楽しみ方があるんだな」というところも見えてきたし、同時に反省点も生まれて。今回のツアーでは去年の経験を生かしつつ「須田景凪 TOUR 2019 “teeter”」のビルドアップ版でなく、また別の表現をしたいですね。
──なるほど。今の須田さんにとって、ライブの楽しさや醍醐味とは?
実際にやってみて実感したことなんですが、ライブは音源を聴きに来るというよりも、その場の熱だったり空気感みたいなものを感じる場所なのかなと。オーディエンスと一緒に生の音楽を楽しんでその場を共有するというか。簡単な言葉で言えば、“一緒に遊ぶ”という感覚が一番近いと思います。
──昨年の中野サンプラザホール公演では、MCで「直接反応を感じられるのがうれしい」という話をしてましたね。
はい。今もそうですけど、曲をリリースしたときにその反応をSNSなどを通して文章でもらうことが多くて。もちろんそれもうれしいんですが、ライブには別の楽しさがあるので。「目の前にいる人たちに何を返せるだろう?」と考えるし、自分にとっても大事な場所になっています。もともと自分は「こういうライブがやってみたい」とか「あの会場でライブをやりたい」という目標みたいなものがあまりなかったんです。ずっと音源を作っていただけだったし、今も音楽を作るのが好きなので。最初のワンマンライブをやったのは約2年前なんですが、僕はそこで初めてライブをするのも、観に行くのも好きになったんですよ。
──10代の頃も積極的にライブを観に行くタイプではなかった?
楽しいが半分、疲れちゃうが半分、みたいな(笑)。最近はかなり観に行ってますね。去年の夏、初めて自分でチケットを買ってサマソニに行きました。ゼッドやThe Chainsmokersを観たくて。実際にライブを観て印象が変わることもありましたね。「アラン・ウォーカーって、こんなに踊らせる感じなんだ?」とか。1月にもマックスというアメリカのシンガーソングライターのライブに行ったり。少しでも観たいと思ったら、できるだけ行くようにしてますね。
今は新しい音楽のチャンネルを試してみたい
──「はるどなり」のあとも、制作は続いているんですか?
バチバチに続いています(笑)。世に出すつもりで制作している曲もあるし、世に出すかどうかもわからず、実験的なことを試している曲もあって。これまでのスタイルの延長線上で作っている曲、まったく違うチャンネルで制作した曲も含めて「自分の得意なこと、苦手なことは何なのか?」を見極めようとしているところもあって。自分が好きなもの、やりたいことを言語化するのは難しいですけど、そういう根本の部分と向き合っている感覚もありますね。
──須田景凪としての音楽性をしっかり認識したい、と?
そうですね。自分が好きなアーティストや好きな映画などを挙げることはできますが、それだけでは説明しきれないじゃないですか。それを認識する必要があるような気がして、ひたすら探っているというか。
──今、気になってるジャンルやサウンドはありますか?
いっぱいあります。「はるどなり」ではR&Bやチルの要素にストリングスのアレンジも取り入れていて。それとは別の軸としてはエレクトロももっと追求したいし、ブラスアレンジ、オーケストレーションにも興味があります。
──「teeter」以前はギターロックが軸になっていましたが、その頃とは音楽的モードが変化しているんですね。
そうですね。バンドサウンドというか、ギターロックは今もカッコいいと思っているし、その魅力は無限にあると思うんですが、自分の中のギターロックは、ある程度やり尽くしてしまった気がしていて。今は新しい音楽のチャンネルを試してみたいし、それを経て自分のギターロックに反映させたらまた面白いものや違ったものができるんじゃないかなと。いずれにしても1つの枠に捉われたくないという思いはずっとありますね。