フルート奏者・SUAIインタビュー|ファンクを味方に付けた1stアルバム「Funky Kitty Cat」を語る (2/2)

“グルーヴ”ってこういうことか!

──ここからはアルバムの収録曲について伺えればと思います。表題曲となる「Funky Kitty Cat」は、90年代のジャズファンクを彷彿とさせる、タイトなビートと迫力のあるホーンアンサンブルが特徴的ですね。

SUAI 私自身、バンドと一緒にレコーディングをしたのがこの曲が初めてでした。これがもう! なんというか……語彙力なさすぎですけど、すっごく楽しかった!(笑) これまで、私が経験してきたレコーディングはオケに合わせて演奏するスタイルだったので、初めて生音でミュージシャンの方々と一緒に曲を作り上げていったのがとても刺激的な経験でした。

──ホーンセクションでは、TRI4THのメンバーであり、数々のセッションで活躍しているトランペット奏者の織田祐亮さんと、サックス奏者の藤田淳之介さんが参加されていますね。

SUAI 大先輩で、いろいろと教えてくださって。優しくて素敵なお兄さん方でした。

SUAI

──これまで経験してきたレコーディングと違って、バンドのメンバーと生音でイチから音楽を作り上げていくというのは、演奏家としてこれまでと違った部分が出てきたりするものですか?

SUAI そうなんですよ。えーと、あれ、なんて言うんでしたっけ……急に言葉が出てこなくなっちゃった(笑)。ほら、心を通わせるみたいな。

──「グルーヴ」ですか?

SUAI そう、それ!(笑) そういう感覚もそうですし、グルーヴという言葉自体を私は知らないぐらいだったんです。でも今回のレコーディングを経験して「グルーヴってこういうことか!」と、身をもって知ったところはありました。

──SUAIさん自身としては、“グルーヴ”をどういうものだと解釈されたんですか?

SUAI 例えば「私がここをこう吹いているから、相手はこう吹くんだ」とか、「私の演奏を聴いて、メンバーがこういうふうに合わせてくれるんだ」みたいな瞬間がいくつもあって。ミュージシャン同士で思いが通じ合って、演奏がさらによくなっていく……それがグルーヴということか!と。今度リリース記念のライブがあるんですけど、そのときも織田さんや藤田さんをはじめ、レコーディングに参加してくださったミュージシャンの方々に出ていただきます。ライブのリハーサルでも「生の演奏っていいな」と思い、すごく刺激的でした!

──この曲の派手で分厚いサウンドは、サックス奏者のキャンディ・ダルファーを彷彿とさせますね。

SUAI 私もキャンディ・ダルファーさんは作品も聴いたし、映像も観ていますが、すごくカッコいいですよね! 9月の来日ツアーも観に行きます!(※取材は8月末に実施)

SUAI

曲によって楽器を吹き分けているんです

──2曲目の「NINE LIVES」は疾走感のあるアレンジの楽曲で、3曲目の「ESCAPE」は少しテンポを落としたソウルジャズ的なナンバーになっています。

SUAI 私のイメージでは「ピンクパンサー」とか「ミッション・インポッシブル」みたいな、ちょっとミステリアスなイメージで吹いてます。そうそう、今回フルートを製造するメーカーさんにご協力いただいて、楽器をいくつかお借りしたんです。ムラマツフルートさんとパールフルートさん、もともと両方のメーカーともに私がメインで使っているのですが、さらに別のフルートをお借りして、曲によって楽器を吹き分けているんです。例えば「Funky Kitty Cat」だったら、パンと明るく華やかな音色のものを選んだり、音に深みを出したいときは、低音がバリバリに出るフルートを選んだり。楽器の個体によって如実に違いが出るので、マイクを通して吹き比べてみるのも楽しかったですね。

──4曲目の「SWEET」はガラリとイメージが変わって、キュートなナンバーですね。

SUAI 曲自体がとてもかわいらしい感じなので、かわいい女の子が吹いてるぞ、というイメージでレコーディングに挑んでいます。あとはコーラスで私がちょっと歌っているんですけど、その声もちょっとかわいらしくしています。けっこう何度も録り直したので、ちゃんとできてるかわからないですけど(笑)。

──次の「Danse et chat noir」は、一転してパッションあふれるラテンサウンドになっていますね。

SUAI 私はラテンもすごく好きで。普段からよく聴いているということをシライシさんにお伝えしたら、じゃあラテンやってみようかということになって、この曲ができあがりました。ライブでは踊りながら演奏して、情熱的な部分を見せられたらいいなと思います。

──SUAIさんは情熱的な性格なんですか?

SUAI 情熱的だと思います。自分ではけっこう熱い女だと(笑)。

──そうですか(笑)。ただ、フルートという楽器自体は、踊りながら吹くのにはものすごく向いていない楽器だと思うんですが。

SUAI 本当にそうなんですよ。やっぱり唇全体で支えてるわけではなく、唇の下にあてて楽器を支えているので、動かないように固定することが大切ですね。ここが動いちゃうと音程も変わりやすくなってしまうので。自分でもよくがんばってるなと思いますね(笑)。最初の頃は自分が吹いているフレーズとダンスのステップを合わせるのがすごく難しくて。頭がこんがらがったときは、すごくゆっくりしたテンポで練習したりもしました。場数を踏んでいくうちに、次第にできるようになりましたけど。

SUAI

──6曲目には2023年11月に配信リリースされた「CIRCUS」が、リアレンジバージョン「CIRCUS -FKC edition-」として収録されています。

SUAI はい。「CIRCUS」は初めてのオリジナルソロ曲として発表されたものなんですが、今回のアルバムで参加してくださったホーンセクションの演奏を加えてリニューアルしています。

──SUAIさんが本来持っているクラシック音楽の要素が色濃く出ていて、1曲の中でドラマチックな展開がある、聴き応えのある楽曲に仕上がっています。

SUAI やっぱり根はクラシックなので、クラシック要素が強い「CIRCUS」は、私自身にとっても大切な曲なんです。今回ホーンセクションが加わったことによって、音圧もグンと増して、重厚な感じになってますよね。これもSUAIなんだよって、みんなに聴いてもらいたいです。

──ダンストラックス的な「SHAKE!!」を挟んで、アルバムのラストを飾るのが「Tabby Boogie」。この曲もホーンの厚みと迫力があるナンバーになっています。

SUAI これもライブでものすごく盛り上がる曲だと思っています。表題曲は「Funky Kitty Cat」なんですけど、個人的には「Tabby Boogie」を“裏”表題曲として捉えているぐらい好きです。

独自の表現で唯一無二の演奏家に

──シライシさんはアルバムを作り終えてみて、どんな感想をお持ちでしょうか?

シライシ このアルバムを作ってみて、彼女のことはクラシックの人だと思わないようにしようと改めて思いましたね。そのフィルターを取り払ったほうが、SUAIというミュージシャンの本質が浮かび上がってくる気がして。制作中も、僕が投げかけたアイデアを彼女がスポンジのように吸収していくのがすごく面白いんです。例えばこちらから基礎となるメロディを投げると、それをフルート奏者として気持ちいいメロディに変えてきたりする。実際にフルートで吹いてもらうとこうなるのか、ということに気付けて、一緒に音楽を作る面白さがありますね。

──シライシさんが思う、SUAIさんのフルート奏者としての魅力はどんなところですか?

シライシ いろいろな吹き方に対して抵抗がないんですよ。クラシック音楽には禁則が多いから、表現によっては提案するのをためらうときがあるのですが、彼女は「こんなこともできるよ」「こんなふうにも吹けるよ」と言ってくれるから、こちらとしてもいろいろなアプローチにチャレンジしやすいんです。

──それはSUAIさん自身としても、楽しく、面白く演奏できたらという感じで、どんどんトライしちゃうタイプということですか?

SUAI そうですね。今までの私では絶対こういうふうには吹かないな、という吹き方だったり、もうちょっと汚く……じゃないけど、ワイルドに吹きたいということも伝えて、レコーディングしました。

シライシ 「尺八みたいな音にもなります!」と言ったり、フラッター(巻き舌)奏法で吹いてみてくれたり。僕が80年代後半から90年代にかけて聴いていたアシッドジャズで流行ったスタイルを、そういうバックグラウンドのない彼女が、無意識のうちに似たような奏法で吹いたりする。それが面白いですよね。こっちからすれば懐かしいアプローチだけど、彼女にとっては新鮮なものであって。

──シライシさんから具体的にリファレンスを出したわけでもないのに、SUAIさんがエモーショナルに吹いているうちに、自然とそういう表現になっていると。

SUAI それは初めて聞きました(笑)。でも私だからできる演奏というのは、いつも心がけています。SUAIはこういうふうに吹くよね、という認知がどんどん広がっていったらいいなと思いますね。もちろん譜面に忠実な演奏も好きなので、そういうクラシック要素が強いものは「CIRCUS」のような曲で表現していければ。「Funky Kitty Cat」のような曲では、ほかの演奏者にはできない表現をやっていきたいです。

──1stアルバムができあがってみて、SUAIさんご自身はどんな思いでいらっしゃいますか?

SUAI ソロアルバムを出すことも、バンドと一緒にレコーディングすることも、すべてが初めてのことだらけだったので、完成した音源を聴いたとき、ものすごくワクワクしました! 早くライブがしたいですね。ほとんどの方はフルートの曲をあまり聴く機会がないと思いますが、今後は道端を歩いていても流れてくるような曲を作っていきたいと思っています。そして「フルート奏者といえばSUAIだよね」と皆さんに言ってもらえるような、唯一無二の演奏家になりたいです!

SUAI

ライブ情報

SUAI 1st Album "Funky Kitty Cat" Release Live

2024年10月2日(水)東京都 THE GAME

プロフィール

SUAI(スアイ)

父が中国人、母が日本人という家庭に育つ。東京音楽大学器楽科フルート専攻を卒業後、2018年から台湾台南市親善大使に就任するなど多彩な活動を経て、2023年11月に初のオリジナル楽曲「CIRCUS」をリリースした。2024年9月に1stアルバム「Funky Kitty Cat」を発表。