ナタリー PowerPush - 中田ヤスタカ(CAPSULE)×J.J.エイブラムス

映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」公開記念 日米マエストロ対談

いよいよ公開を迎えた、映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」。日本の音楽ファンの間では、本作の挿入歌「Into Darkness」をJ.J.エイブラムス監督と中田ヤスタカ(CAPSULE)が共同プロデュースし、きゃりーぱみゅぱみゅがゲストボーカルとして参加したことでも公開前から話題を集めていた(参照:中田ヤスタカ「スター・トレック」挿入曲にきゃりーも参加)。そしてこのたび、プロモーションのため来日したJ.J.と中田の対談が実現。音楽制作に造詣の深いJ.J.と、監督の作品のファンでもある中田による貴重な対話を楽しんでほしい。

取材・文 / 宇野維正 撮影 / 上山陽介

あの曲はただのリミックスというより完全なコラボレーション作品

左からJ.J.エイブラムス、中田ヤスタカ(CAPSULE)。

──まずは中田さんが今回の映画を観た感想から教えてください。

中田ヤスタカ J.J.エイブラムス監督の過去の作品はほとんど観ていて、どれも大好きなんですけど、今回の「スター・トレック イントゥ・ダークネス」はとにかく映像がすごくて。これまで観てきた3D映画では感じたことがなかったけど、高いところのシーンでは本当に高さを感じて怖いんですよ。まずはそこに興奮しましたね。あと、今回は特にスポックがカッコよかった(笑)。

J.J.エイブラムス 中田さんの音楽のおかげで、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」はより素晴らしい作品になったと感じているよ。中田さんは僕が作ったベースとなる曲をリミックスしてくれたわけだけど、あの曲はただのリミックスというより、完全なコラボレーション作品だね。ベーシックなトラックから、中田さんは素晴らしい「歌」を生み出してくれた。本当に感謝してるよ。

──それまでSF映画において、劇中の状況音としてポピュラーミュージックを使用するのは禁じ手だったと思うのですが、J.J.さんは「スター・トレック」の前作でいきなりBEASTIE BOYS「Sabotage」を大音量で鳴らして観客を驚かせ、今作でも前作に続いてBEASTIE BOYSの「Body Movin'」を使い、さらに物語上の重要なシーンで中田さんの音楽を使用しています。そこには、どんな意図があるのでしょうか?

J.J. 「スター・トレック」の世界は架空の世界ではなく、僕らの未来の世界なんだ。現存する音楽を使うことは、「スター・トレック」の世界が、今、僕らが生きている世界と地続きであることを示してもいるんだ。僕はBEASTIE BOYSの大ファンで、マイクDとも交流があるから、彼らの音楽を使うシーンには、300年後の世界でも彼らの音楽がクラシックになっているといいなという僕の思いも込められている。そして、僕だけじゃなくて、カークもまたBEASTIE BOYSのファンという設定なんだ(笑)。だから、今作の女の子たちとのお楽しみのシーンでも、きっと彼はBEASTIE BOYSの音楽をかけてるんじゃないかなって考えたんだ。中田さんの音楽が流れるクラブのシーンでは、より未来的でありながら、タイムレスな音楽を求めていた。思わずダンスをしたくなる、フィジカルに作用するリズムというのは、どんなに時代が経ってもそれほど変わらないものだと思うんだ。中田さんはそんな希望にピッタリと合う最高の曲を作ってくれたよ。

中田ヤスタカ(CAPSULE)

中田 1人の映画ファンとして、大好きな「スター・トレック」のために音楽を作ることができたのは本当に光栄でした。また、2259年という未来の世界を想像しながら音楽を作るのも、とても楽しかったですね。今回は、J.J.からベーシックとなるトラックをもらったので、最終的にはそれをいかにさらにカッコいいものにするかに専念しましたけど。もしかしたら2259年の人類は、今はみんなが気持ちいいと思わないような音楽を気持ちいいと思ってるのかもしれないとか、今作を作る過程で、いろんな可能性を考えたりもしました。

J.J. 中田さんが言う通り、現在の欧米の音楽の音階であったり、120から140くらいのBPMの音楽っていうのは、他の文化圏の音楽とも影響し合って、たぶんこの先少しずつ変わっていくと思うんだ。それを想像しながら音楽を作るというのは、とても面白いことだと思う。だけど、今作で中田さんの音楽が流れるシーンは、非常に緊迫した状況にあるエンタープライズ号の船内と、平穏な日常が流れている地上との対比、そこで物語に流れる空気をいったんリセットするという点で、とても重要な役割があったんだ。そういう意味でも、あのシーンの音楽には新しさだけでなく、今の時代に生きている観客にとって聴き慣れた要素もある程度必要だったし、そのバランスの中で中田さんは見事な仕事をやり遂げてくれたと思うよ。

映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」8月23日(金)よりTOHO シネマズ日劇ほかで全国ロードショー
映画「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(c) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

監督:J.J.エイブラムス

出演:クリス・パイン / ザッカリー・クイント / ゾーイ・サルダナ / ベネディクト・カンバーバッチ / サイモン・ペッグ / ほか

配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

J.J.エイブラムス、チャールズ・スコット、中田ヤスタカ(capsule)「Into Darkness(Digital Edit)」2013年7月10日発売 / 250円 / iTunes Storeにて配信中
J.J.エイブラムス、チャールズ・スコット、中田ヤスタカ(capsule)「Into Darkness(Digital Edit)」
中田ヤスタカ(なかたやすたか)
中田ヤスタカ

2001年に自身のユニットであるCAPSULEにてCDデビュー。以降、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、アニメ映画「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ曲や「LIAR GAME」シリーズのサウンドトラック、テレビ・ラジオ番組のテーマ曲制作など多方面にてに活躍中。昨今は日本人初のカイリー・ミノーグへのリミックス提供をはじめ、映画 「スター・トレック イントゥ・ダークネス」の挿入楽曲に携わるなどグローバルな活動が目覚ましい。その自由奔放かつ刺激的な楽曲群は音楽界のみならず、服飾や美容、映像などクリエイティビティを共有するシーンからも熱い支持を得ている。また自身のレギュラーパーティの主宰・メインアクトを務め、大型フェスやファッションショーイベントなどにも出演している。

J.J.エイブラムス
J.J.エイブラムス

1966年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。1990年「ファイロファックス / トラブル手帳で大逆転」で脚本家としてデビュー。その後も1991年公開の「心の旅」、1998年公開の「アルマゲドン」の脚本などを手がけ、2006年に「M:i:III」で映画監督デビュー。これが全世界で大ヒットを記録し、2009年に監督2作目となる「スター・トレック」を製作してヒットメーカーの地位を不動のものとした。さらに2015年公開予定の「スター・ウォーズ」新シリーズの監督に就任。また、音楽の才能にもあふれ、「エイリアス / 2重スパイの女」「FRINGE / フリンジ」「LOST」「PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット」「レボリューション」のテーマ音楽を作曲し、「フェリシティの青春」のテーマソングも共同で書いている。