音楽ナタリー PowerPush - ★STAR GUiTAR
「ダンスミュージック×ピアノ」という実験
★STAR GUiTAR
H ZETT M
MELTEN(JABBERLOOP、fox capture plan)
この先どうなるのか僕にもわかってません
──曲作りはどのように進めたのでしょうか?
★STAR 僕がまずデモを作ってお渡しして。今までの作品のデモではミックスや微調整を残すだけの状態まで作りこんだんですが、今回はワンコーラスだけだったりリズムとコード程度の状態でわざと止めたりして。音を入れすぎない、方向性を示すだけの状態からやりとりをして完成に持っていきたかったんです。引っ張ってもらうには、僕が作りすぎてしまったらどうしようもなくなってしまう。未完成のものから完成させていきたいなと。
MELTEN 「Rise in revolt」のフル尺って5分半くらいやっけ。送られてきたデモは3分の1もない、1分半くらいのものでしたね。
★STAR この先どうなるのか僕にもわかってません、っていう状態で。
MELTEN ただ★STAR GUiTARから事前にイメージはもらってました。それは「EDMにピアノの要素を織り交ぜた楽曲を作りたい」ってもので。そのイメージをもとに、もらったデモどおりに弾いたやつや「俺が弾いたらこういうやつやな」っていうやつと2通り作ったりとか。今の“ピアノのEDM”みたいなのと、普段僕らがやってるfox capture planとかがリンクするんじゃないかなって相談しながら作りこんでいきました。
H ZETT M 僕のときはそうですね……打ち合わせのときに楽しい感じ、キラキラした感じって言ってましたっけ。そういった言葉を持ち帰って、あとは自分と音とのやりとりに。話した内容を頭に置きつつ、でも忘れつつ……音に集中して作らせてもらったっていう感じですね。
──H ZETT Mさんが参加した「echoes」は中盤に向かうにつれて鍵盤の動きがどんどん自由になっていきますね。
★STAR H ZETT Mさんの曲は、そもそもデモの時点でどんどん転調していて(笑)。それを聴いて「そう来るんだ!」って面白かったですね。あと曲の途中でトラックをレゲエみたいにしてる部分があるんですけど、あれこそH ZETT Mさんに引っ張ってもらったというか。作ってもらったものを「ああ、これレゲエにしたい」って思い付くことができて。ほかにもグリースを逆回転させたら面白かったとかどんどんアイデアが湧いてきたんです。
──そして弾いてもらったピアノの音をさらにご自身の作品に仕上げていったと。
★STAR 最初に皆さんに聞いたんです、「もらった音を切り刻んでいいんですか」って。それが自分の強みだと思っていて。そしたら誰も嫌がらなかった、どころかむしろやってください、なんでやんないのくらいな感じで(笑)。MELTENくんからは「もうちょっとやっていいんじゃないの」ってダメ出しも受けて。
MELTEN そうやったっけ(笑)。
★STAR H ZETT Mさんをフィーチャーした「echoes」も実はすごく切り刻んだんですけど、でも人に聴かせたらH ZETT Mさんは普通にこれ弾きそうだなって言われて(笑)。超絶技巧をさらに超えられるのかっていう自分との戦いでした。
──それで、実際に完成した曲を初めて聴いたときにお2人はどういった印象を持ちましたか?
MELTEN リズムがあったところで弾いてたメロディがブレイクっぽいところで使われたりして。コード進行も違うところのが使われてたりして「でもこれはこれでカッコいいな」って思いましたね。面白かった。
──ある程度形になるまで知らないままでいたんですね。
MELTEN はい。弾いたのをデータで送ってそれ以降は「ここをこうしてほしい」とか細かい指定をしてなくて。だから面白かった。
H ZETT M できあがったものを聴いて「さすが」の一言です。僕のスタンスとして楽しくやりたいというかありたいというのがありまして、楽曲の打ち合わせのときもそういうワードとかがリンクしてたんで、ちゃんとカッコよく形になったなあ、僕の好きな曲だなあと思いました。
──普通に弾けそう、って思いましたか?
H ZETT M 一応言っときますけども弾けないですからね(笑)。
全員 (笑)。
──ほかのアーティストからのリアクションはいかがでした?
★STAR 同じように「おっ!」っていう感じで、その反応が見れると僕もうれしかった。単に僕のバックトラックの上に乗っかってもらうだけじゃ楽しくないから、お互いがお互いのよさを出し合って曲を作れたと思いました。
──参加したお2人に聞きたいのですが、バンドやご自身のプロジェクトと今回の制作とを比較して、違うと感じた部分はありましたか?
MELTEN いつもと違うこと……人が違うくらいですかね(笑)。fox capture planやJABERLOOPの演奏なり曲なりを買って誘ってくれたと思うので、自分らしさをむしろ出していこうかなと思ったんです。オーダーに応えるのも大事だと思うんですけど、自分の色を出さないとやる意味がないのでそういうスタンスで。自分の曲作りでよく使うコード進行などを入れ込んでますね。
H ZETT M 「こっち行ったら面白いんじゃないか」って音の可能性をいろいろ探りながら作っていくという意味では一緒ですね。それが楽しい作業でありまして。まあ絶対カッコよくなるだろうなと思っていたので、難しいことは考えずにいけました。
五線譜の上で行われた「シュレーディンガーの猫」実験
──本作のタイトル「Schrödinger's Scale」(シュレーディンガーズ・スケール)は「シュレーディンガーの猫」からインスピレーションを?
★STAR はい。「シュレーディンガーの猫」は哲学っぽいというか思考実験みたいなもので、箱の中に猫と、作動したらその猫が死んじゃうような猛毒が発生する装置があり、閉じこめて何時間か置いたあとで猫は死んでいるでしょうかっていうもので。フタを開けるまではどちらとも言えない、開けて結果がわかった瞬間にすべてが収束するっていう。その状況をスケール、五線譜として考えたら自分の言いたいことに近いんじゃないかなって思って。僕が五線譜で、お2人のようなフィーチャリングアーティストがそこに音符を乗せるというか。
──今回の共作の仕上がりは“フタを開ける”まで未知数だったと。
★STAR それにしてもタイトル読みづらいですよね(笑)。Schroeder-Headzさんとつづりが似てるから、ある意味一番ご迷惑をおかけしたかもしれない。
──(笑)。名前はともかくSchroeder-Headzさんとの楽曲も彼の個性を存分に生かして楽曲が編まれている印象を受けましたし、相乗効果をきちんと体感できるものになっていると感じました。
★STAR こういうのって、ともすればコンピみたいになってしまう危険性もあったと思うんです。でも各アーティストに引っ張られすぎず、いいバランスで皆さんとやれたと思う。うまく1つの作品として楽しめるものになったなと。
──サウンドも四つ打ちに限らず、ブレイクビーツやベースミュージックを取り入れて、多ジャンルを幅広く昇華した内容になっていますね。
★STAR はい。自分の中では全部テクノだと思っています。自分の言葉で表現すると。ドラムンベースやレイヴ的なもの、EDM的なものも含めて自分ではテクノだと思っていて。テクノという幹があって、いろんなことをして枝葉を広げたと思っています。
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- ★STAR GUiTAR ニューアルバム「Schrödinger's Scale」/ 2014年9月10日発売 / CLUSTER SOUNDS / CSMC-022
- [CD] 2160円 / CSMC-022
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収録曲
- echoes feat. H ZETT M
- Rise in revolt feat. MELTEN (JABBERLOOP, fox capture plan)
- Butterfly Effect feat. Hidetake Takayama -Schrodinger's Edit-
- Calling feat. Hiroko Sebu
- Special Ordinary
- elements feat. Shoji Kawadai (16-BIT Generator)
- Solitude Gravity feat. Hidetake Takayama
- Nothing Gonna Change My World feat. Schroeder-Headz -Schrodinger's Edit-
- Will feat. Chieko Kikuchi (KAGERO) -Schrodinger's Edit-
- fib
- Live feat. Hidetake Takayama -Schrodinger's Edit-
- back to the basics.
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★STAR GUiTAR(スターギター)
プロデューサー / アレンジャーのSiZKによるソロプロジェクト。2010年8月にデジタルシングル「Brain Function feat. Azumi from yolica」でデビューし、2011年1月には1stアルバム「Carbon Copy」でiTunes Storeダンスチャート1位を記録。テクノを基軸にハウス、エレクトロ、ドラムンベースやエレクトロニカなどの多彩なダンスミュージックを昇華したサウンドを展開する。そして2014年9月10日に「ダンスミュージック×ピアノ」をテーマにしたコンセプトアルバム「Schrödinger's Scale」をリリース。H ZETT M、MELTEN(JABBER LOOP、fox capture plan)、Schroeder-Headzなど幅広いキーボーディストとの共作でアルバムを完成させた。
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H ZETT M(エイチゼットエム)
生年月日不詳、青鼻が特徴のピアノマジシャン。2004、05年にH是都Mの名前で第1期東京事変に参加。2007年、アルバム 「5+2=11」(ゴッタニ)でソロデビューを果たし、以来精力的にオリジナルアルバムやアニメソングのカバー集などのコンセプトアルバムをリリースする。2011年には台湾でワンマンライブを行うなど、その高い技巧とオリジナリティあふれるパフォーマンスによって国内外で大きな注目を集める。2013年にはドラムにH ZETT KOU、ウッドベースにH ZETT NIREを迎えたH ZETTRIO名義でアルバム「★★★」(三ツ星)を発表。
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MELTEN(メルテン)
1983年生まれ、本名は岸本亮。2005年3月にクラブジャズバンドJABBERLOOPに加入し、躍動感のある鍵盤さばきでオーディエンスを魅了する。2011年にはカワイヒデヒロ(B / Immigrant's Bossa Band)、井上司(Dr / nhhmbase)とともにfox capture planを結成。“現代版ジャズロック”をコンセプトとした情熱的かつクールで新感覚なサウンドを展開する。