ナタリー PowerPush - THE STARBEMS

震災+ウルトラセブン+面白おじさん! 日高央のラウドロックバンドの作り方

「このバンドってこんな面白い人たちが集まったバンドなんだ」

──高地さんと後藤さんにとってのTHE STARBEMS観とは?

高地広明(Dr)

高地 個人的にはもうちょっとテクニック的な部分にこだわれるバンドという印象というか。参加する段階で日高さんから「キックドラムの多いサウンドにしたい」と言われていて。ちょうど僕もSHENKY GUNSっていうバンドをやっていたときにcoldrainと対バンして、キックドラムの多いサウンドがカッコいいと思っていたこともあって、THE STARBEMSはそのツーバスドラムのセットで叩いてみることに挑戦するバンドだなって感じたんですよ。今までの自分のスタイルとは異なるものなので、なかなか難しかったりもするんですけど、このアルバムも「これをものにしてやろう!」と思ってキックドラムをテーマに自分のできる限りのスキルを動員してみました。

後藤 確かにそうやって個人個人が変化していくのもTHE STARBEMSなのかなって思いますね。さっき西さんが言ったように「自分の個性を出そうよ」という話し合い以降、ちょっとずつメンバーのプレイや音に変化が起きていて。そのあと篤さんがバンドに加わったことで、パズルのピースがビシッとハマったような感触があったんですね。そこから面白いくらいに個々のカラーが見えてきて「あ、このバンドって、こんな面白い人たちが集まったバンドなんだな」って思ったんです。そして今回アルバムが完成したことで、バンドが活動する上での土台みたいなものができたわけで。ここからどうやって変化していくのか、参加している自分としてもその点がすごい楽しみですね。

なんだかよくわからない音のほうが新しく響く

──今回のアルバムに収録されているのは、ヒダカトオル(BAND SET)の活動を行いながら、徐々に増やしていったオリジナル曲ということになるんですよね?

日高 4月に出したシングル(「FUTURE PRIMITIVE e.p.」)に収録されている曲はバンド最初期に作った曲なんですけど、アルバム収録曲についてはレコーディングの段階でできていたのは半分くらいだけですね。ただアイデアの断片はたくさんストックされていたので、それを急ピッチで自分なりにまとめて曲を仕上げていきました。そして、メンバーにいないにもかかわらずデモに入れたキーボードの音をどう変換するかということも含めて、西くんにアレンジャーとして料理してもらって。

──「こういう音にしよう」みたいなビジョンはあったんですか?

日高 ある程度の方向は見えてはいたものの、実際の作業を進めるまで自分たち自身にもわかっていなかった部分もあって。そういう中で作ったアルバムだから、聴いていただくと「これはポップだね」とか「ハードコアだね」とか、人それぞれいろんな感想を持たれるのかもしれないんですけど、そういうバラつきがあっていいというか。ある意味、印象がバラつくようなアルバムを作ろうっていうイメージが自分の中にもあったと思いますし。自分がリスナーとして音楽を聴いているときのことを考えても、聴いたときになんだかよくわからない作品のほうが結果的に新しく響くことが多かったりするんですね。例えば、初めてSONIC YOUTHを聴いたときもラウドでもパンクでもない、耳なじみのないノイジーなサウンドって感じだったんですけど、それが聴き続けるうちに定着するというか、だんだんポップに聞こえるようになったんですよ。そういう過去のリスニング体験があるからこそ、守るところは守りつつではあるんですけど、今までの自分が持っていたポップのルールとか方程式を思い切って捨てることができた。感想がバラつくかもしれない、でも新しい。そういう音を作ることができた自信はありますね。

「それ、俺の実の姉なんです」

──あと、メンバー6人でのレコーディングというだけでも大変な作業だったと思うんですけど、このアルバムではそれに加えてゲストをフィーチャーしていますよね。

日高 作曲の段階から今回のアルバムに優しげな曲、静かで癒される曲が収録されることが想像できなかったので、その逆の「ガサガサ声サミット」と題しまして、皆さんには、ガサガサした声を持つゲストとの 対決に癒やされていただこうかな、と(笑)。そこで「WISE BLOOD」でフィーチャーしたWAGDUG FUTURISTIC UNITYのKYONOくんをはじめ、GOOFY'S HOLIDAYのENDY、それからNorthern19の(笠原)健太郎という、知りうる限りガサガサな声のボーカリストに参加してもらいました(笑)。

──それからアメリカのサウスヒップホップシーンで名を馳せている女性DJのPRINCESS CUTがターンテーブルで3曲に参加しているのが意外でした。

越川 それ、俺の実の姉なんです(笑)。もともとビートルズオタクで、その後ハードロックとかパンクを好きになった、ちょっと変わった姉だったんですけど、勉強のためにアメリカへ留学したら、向こうでグラフィティにハマったのをきっかけにヒップホップ姉ちゃんになっちゃって。現地の人からしてみたら、アジアの女の子でヒップホップDJっていうのが喜ばしいことというか、新鮮だったんでしょうね。それでどんどんどんどん注目されるようになっていったんですけど、俺としても「一緒に音楽で何かできひんかな」と昔から思っていたところに、日高さんから「スクラッチを使いたい」ってアイデアが出てきて。「それならいいのいまっせ!!」ってことで姉ちゃんを引っ張り出した次第です。まあ、このアルバムは自分の家族写真みたいなものですよ(笑)。

──ターンテーブルが入るとミクスチャーロック感が一気に増しますよね。

日高 俺は80年代後半以降のラウド、ミクスチャー世代なので、サウンドはもちろんアップトゥデートなものでいいんですけど、全体像を俯瞰したときにいい感じなオールドスクール感も出したいなと思ったんですよね。だから、PRINCESS CUTにお願いしたスクラッチもそうですし、バンドの服装もFRED PERRYのポロシャツで統一したんです。

ニューアルバム「SAD MARATHON WITH VOMITING BLOOD」 / 2013年6月5日発売 / DefSTAR Records
初回限定盤 [CD+DVD] / 3200円 / DFCL-2008~9
通常盤 [CD] / 2800円 / DFCL-2010
CD収録曲
  1. DESTINY
  2. The Crackin'
  3. MAXIMUM ROCK'N'ROLL
  4. WISE BLOOD
  5. ARE U SURE?
  6. INSIDE OUT
  7. No Reaction
  8. FUCKIN' IN THE AIR
  9. HIGH RISK
  10. FORGIVENESS
  11. HUMAN RIGHTS
  12. DREADRONE
  13. GOOD-BYE LOVE
初回限定盤DVD収録内容
  • THE SEARCH FOR ANIMAL CHIN~東北ライブハウス大作戦ツアー“PLACE TO PLAY 2013”
THE STARBEMS(ざ・すたーべむず)

THE STARBEMS

2010年のBEAT CRUSADERS“散開”後、日高央(Vo)が展開していたソロユニット「ヒダカトオル(BAND SET)」がその前身。ヒダカトオル(BAND SET)のサポートメンバーとして寺尾順平(B / ex. ワイルドマイルド)、後藤裕亮(G / LOCAL SOUND STYLE)、高地広明(Dr / SHENKY GUNS)、越川和磨(G / ex. 毛皮のマリーズ)、菊池篤(G / Fed MUSIC)が続々と集結し、2012年9月よりTHE STARBEMSとして活動を開始する。2013年3月、ユニコーンのトリビュートアルバム「ユニコーン・カバーズ」に提供した「I’m a loser」のカバーがTHE STARBEMS名義での初音源となり、翌4月に1stシングル「FUTURE PRIMITIVE e.p.」を4444枚限定でリリース。そして6月、1stアルバム「SAD MARATHON WITH VOMITING BLOOD」をリリースする。