プロデューサーの「足りない」のひと言から

──そんなツアーを経てリリースされる「Inside Your Head」ですが、作品のテーマやコンセプトはあったのでしょうか？

Yosh　読んでいた本に“Atlas of Emotions”という言葉が出てきて。それは“人間には重要な5つの感情があって、何かアクションを起こすとその5つの感情が引き出される”という考え方なんです。これをテーマにしたら面白そうだなと思って、最初はその5つの感情をもとに作品を作っていました。

──“5つの感情”というのは具体的にはどういったものなんですか？

Yosh　Anger（怒り）、Disgust（嫌悪）、Fear（恐れ）、Happiness（幸せ）、Sadness（悲しみ）です……だったんですけど、制作中にIvanと話してるうちに「その感情って、すべては全部自分の頭の中にあるんだよね」という考えにたどり着いて。

Ivan　「感情も、その感情について考えている今の気持ちも全部、自分の頭の中なんだよね……つまり考えすぎじゃないか？」っていう。

Yosh　よくある「すべては夢だった……」みたいな。5つの感情をもとに作っていたこと、それがすべて「自分の頭の中だった」っていうオチまでを形にしたのがこのアルバムです。作っている途中に考え方やタイトルが変わっていくという、面白い経験でしたね。

Tatsuya　最初は頭の2曲「Inside」「Your Head」もなかったですからね。この2曲ができてアルバムのタイトルも雰囲気も大きく変わりました。

──冒頭の「Inside」「Your Head」の2曲、最近のSurvive Said The Prophetには珍しく歌詞が内向的だなという印象を受けました。

Yosh　実はこの2曲がない状態でプロデューサーにアルバムを聴かせたら「このままの内容で日本では通用するの？ アメリカだったら難しいかもしれない」と遠回しに言われたんです。自分たちとしては満足していた作品だったからすごくショックで。ツアー中だったんですけど、みんなが機材車で帰る中、「俺、先に帰るわ」って1人で帰らせてもらって、その移動中にこの2曲を書き上げたんです。

──「Inside」の歌詞（和訳）の「“足りない”の一言」というのはそのプロデューサーの言葉から連想されたものなんですね。

Yosh　今回は愛のある“足りない”だったからありがたいと思ったけど、“足りない”って、愛がなかったらめちゃくちゃ痛い言葉だなと思って。周りから「サバプロっていい感じに有名になったよね」と言われるようになったけど、プロデューサーの言葉を思い出して「これじゃダメなのかな」ってどんどん孤独になっていったというか。自分たちで「よっしゃ、俺たちイケてるぜ」と手放しには思えないんですよね。

──まさにバンドの状況がいいからこそ、このタイミングで出したアルバムの冒頭2曲が内向的な歌詞だったのが意外で。

Ivan　あー、なるほど。

Yosh　でも2曲目の「Your Head」は僕の中ではポジティブな曲で。「Fake a dream to make believe in. / Love before you find a meaning」という歌詞が自分でも気に入ってるんですけど、ここでは“純粋な心を失ってしまったように見える”という現状を書いていて。「でもこういう状況を乗り越えて強くなっていくんだよ」というメッセージを曲全体で歌ってるんです。「成功するまでは誰もお前のことを認めてくれない。なんなら指を指して笑うやつもいる。だけどそういうヘイトも跳ね返して強くなっていかないといけない。そのためには本物かわからない夢や愛を信じるしかないんだよ」って。自分に向けてもだし、どんな世代にも通じるメッセージなんじゃないかなと思ってます。

壮大になった「3 A.M.」

──今作では「3 A.M.」が新たなアレンジで収録されたのも大きなトピックですね。

Yosh　はい。僕たちとしてはまず、この曲のフルバンドバージョンができたというのが大きいです。もともとアコースティックバージョンしかなかったので。今回はさらに澤野弘之さんのアレンジでストリングスも入れてもらいました。

──これまで澤野さんのプロジェクトにYoshさんがボーカリストとして参加していましたが、Survive Said The Prophetの曲に澤野さんが参加されるのは初めてですね。

Yosh　澤野さんは昔からずっと「一緒にやりたいですね」と言ってくれていたんですけど、僕らが澤野さんに“助けてもらう”という形にはしたくなくて。澤野さんとお仕事をさせてもらっているうちに、サバプロのスタイルと澤野さんの音楽が共通する部分を感じることができて、関係性もより密になってきたので、このタイミングでお願いしました。ストリングスが入って、すごく壮大になりましたね。ものすごく満足しています。

Ivan　この曲はもともと、昔一緒にバンドをやってたメンバーが辞めるときに、そいつに向けて書いた曲で。当時はお金もなかったので、友達にアコギとカメラを借りて、Yoshと2人で代々木公園に行って、映像を撮ったんです。そんな曲が、今回は、「何人いるんだ」っていうくらいの人の手によって壮大な曲になって。

Yosh　しかも「3 A.M.」のあとに入ってる「03:01」では、スタッフや仲間たちが一緒に歌ってくれてるんです。昔からは想像もできないくらいの多くの人たちが集まってくれて。

Tatsuya　「03:01」は代々木公園で録ったんです。「3 A.M.」のアコースティックバージョンのPVを撮った場所とまったく同じところで。

Yosh　「来れる人は代々木公園に来て歌ってくれない？」って連絡したらほとんどの人が集まってくれて。僕、感動して号泣しました。歌も間違えまくったし（笑）。「3 A.M.」で「3時になっても寝るなよ」って歌った、その1分後には多くの人たちに囲まれて歌ってる。すごく温かいストーリーが生まれました。

全国ツアー「Inside Your Head Tour」の先には

──そして2月からはアルバムを携えた全国ツアー「Inside Your Head Tour」が始まります。バンドにとってキャリア最大規模のツアーですね。

Yosh　セットリストを考えるのはYudaiなので、アルバムの曲がどう組み込まれるのか僕も楽しみです。会場も大きくなっているし、壮大さをより伝えられたらと思います。

Yudai　今回は47都道府県ツアーでチケットが売り切れなかった都市を中心に回るんです。あとは今後のツアーも見据えていて。

Yosh　我々はホールでもライブハウスでも、いろいろなスタイルでライブができるバンドだと思っているので、そういう点も考えながらツアーをやれたらなと。あといずれ澤野さんにライブにも参加してもらいたいな。僕は澤野さんにはピアノを弾いてもらうんじゃなくて、上から吊って飛んでもらおうかなと思ってるんですけど（笑）。そうなると僕らの入り時間よりも2時間くらい早く会場に入って1人で飛ぶリハをしないといけないらしく、「その絵面シュールだよ？」って言われてます（笑）。

──それは楽しみです（笑）。「s p a c e [ s ]」のツアーでは「日本武道館でライブをやる」と宣言されていましたね（参照：サバプロ、満員のLIQUIDROOMで「武道館に立つことを決めました」）。

Yosh　 5枚目のアルバムを出して、バンドにとってはある種の区切りでもあるので、このタイミングで、日本を代表する会場でライブの最高傑作を見せたいなと。そのためにもこれからももっと大きなステージを目指して、ガンガンライブをしていくしかないなと思ってます。

Yudai　大きなステージもあくまで通過点で、もちろん世界制覇という最終目標は変わってないですけどね。

──では今後の目標は変わらず世界制覇で？

Yosh　それは変わらないんですけど、メンバーの健康や、プライベートの時間も大切にしていかないといけないと思っているのも事実で。バンドマンとかエンターテイナーってつい忘れがちなんですけど、僕らはまず人間なんですよね。5人それぞれが生きていればそれだけでSurvive Said The Prophetっていうものは続いていくので。世界制覇をするには、健康でないといけないよねってことに気付いちゃったんですよね。バンドは俺らのライフワークだから。それを守る方法を考えること＝僕らが健康でいないといけないと。まあその前にまずはアルバムのこと、ツアーのことを考えないといけないんですけどね（笑）。すべては“Inside "My" Head”です！