SPYAIR「青」インタビュー|新体制始動、「オレンジ」の大ヒット──駆け抜けた日々と現在の充実感を語る

オリジナルメンバーIKE(Vo)の脱退を経て、2023年4月に新ボーカリストのYOSUKEを迎えた新体制で再スタートを切ったSPYAIR。ライブや音源制作を経て結束を高め、バンドとして新たなグルーヴを地道に作り上げてきた4人は、今年2月に発表した新曲「オレンジ」の爆発的な大ヒットでその名を改めて世に知らしめることとなった。数多くの音楽番組や夏フェスへの出演を果たすなど快進撃を続けた4人は、9月にその総括とも言える野外ワンマンライブ「Just Like This 2024」を東京・日比谷野外音楽堂(日比谷野音)で開催。現在の充実ぶりを感じさせる圧倒的なパフォーマンスでオーディエンスを魅了した。

このライブのアンコールで初披露されたのが、10月30日にリリースされた最新シングル「青」だ。この曲はテレビアニメ「青のミブロ」のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲で、主人公の成長譚に重ね合わせたようなエモーショナルな歌詞とサウンドが印象的なナンバーに仕上がっている。音楽ナタリーではニューシングルのリリースを記念し、メンバー4人にインタビュー。新体制始動から「オレンジ」の大ヒットについて、ニューシングルについて、そしてバンドの今後について、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 梁瀬玉実

「この4人で音楽を鳴らしている」という実感

──音楽ナタリーでインタビューさせていただくのは2022年12月以来です。当時は新ボーカリストのオーディションの真っ最中でした(参照:SPYAIR、ボーカリスト脱退を経て走り出した2023年富士急ライブへの道)。

KENTA(Dr) そうか。ちょうど2年くらい前ですね。

MOMIKEN(B) 早いね。

UZ(G) なんとか生き延びてます(笑)。

SPYAIR

SPYAIR

──当時は「ボーカルが見つかるかどうか、やってみないとわからない」という感じでしたが、YOSUKEさんが加入し、そこから快進撃が始まって。“キャリアのあるロックバンドのボーカルが代わって、さらにピークに向かって進む”というケースは日本ではほとんど例がないと思います。今年の野外ライブ「Just Like This 2024」も大盛況でしたが、手応えはどうでしたか?

MOMIKEN ライブ自体はすごくよかったと思ってます。何ひとつ背伸びすることもなく、冷静に全部を見渡しながら、いい熱量でやれたというのかな。13年前に野音に初めて立ったときとはまったく違っていたし、自分たちが見せたかったものを100%届けられたライブだったのかなと。

──YOSUKEさんが加入し、新たな体制になったことを含めて、完璧な状態で今のSPYAIRを体現できたということでしょうか。

MOMIKEN そうですね。体制に関しては、「オレンジ」ツアー(今年の4月から5月にかけて行われたEP「オレンジ」のリリースツアー「SPYAIR TOUR 2024 -ORANGE-」)のときに腑に落ちてましたね。

UZ 確かに。バンドとしての違和感みたいなものは、あのツアーの中でどんどん薄れていって。野音のときは「ボーカルが代わってどうこう」みたいなことはまったく意識してなかったですね。「時間が解決するってこういうことなんだな」という感じもありました。「オレンジ」がヒットしたとか、そういうことではなくて、時間をかけてしっかり前を向けるようになったというか。

KENTA YOSUKEが入ったばかりのときはどうしても気にかかってたんですよ。ライブ中も「大丈夫かな」みたいな。

YOSUKE(Vo) 「3人(UZ、MOMIKEN、KENTA)の中に1人」みたいな感じだったので。

KENTA うん。それが「オレンジ」ツアーのときにだんだん薄れてきて、野音は「この4人で音楽を鳴らしている」という実感がありました。変に何かを意識することもなく、1つのバンドとしてステージに立てた。もちろんライブの回数や新体制になってからの期間、4人で過ごしてきた時間も大きいと思います。

YOSUKE 「オレンジ」ツアーで既存の曲もさらに噛み砕くことができましたからね。ツアーから野音の間に海外でのライブがあったり、フェスにもたくさん出て。いろんな状況の中で音を出す、歌を歌うという経験もできたし、その期間の総括が野音のライブだったのかなと。わりとリラックスしてたんですよ。準備期間や始まる前はいろんなことを考えたり、緊張したりすることもあったけど、いざ始まってお客さんの前に立って音を出したら「好きなようにやれている」という感じがあって。メンバーとひとつになれた感覚があったし、しかもそれがちゃんと届いている手応えもありました。

YOSUKE(Vo)

YOSUKE(Vo)

胸を張って「SPYAIRのボーカルです」と言える

──YOSUKEさんはボーカリストとしてのポテンシャルの高さやハートの強さも長所ですが、適応力や成長の速度も速いんでしょうね。

UZ 確かにすごいスピードで成長していると思うけど、環境がそうさせているところもあるんじゃないかな。

KENTA あるね。

UZ SPYAIRのボーカルとしていろんなシーンを経験する中で、そこにしっかり対応してるんだろうなと。さっき言っていただいたように、日本ではあまり前例がないし、こういう体験をできる人は少ないと思う。

UZ(G, Programming)

UZ(G, Programming)

KENTA だから相談できる人もいないんですよ。

YOSUKE (笑)。

UZ 海外のバンドだとけっこうあるんですけどね、ボーカルが代わるって。

──Linkin Parkも新ボーカルが入って再始動しましたよね。

KENTA その点でいうと、YOSUKEのほうがLinkin Parkのボーカリストより先輩ですけどね(笑)。

KENTA(Dr)

KENTA(Dr)

──(笑)。YOSUKEさんはどうですか? 加入後の活動について。

YOSUKE 楽しいです。ツアーもそうだし、憧れていたフェスに出ることもできたし。もちろん責任も感じてますし、いろんな考えが巡ることもあるんですけど、それも「今、生きてんだな」というか。あと、いい具合に一喜一憂していられない感じがあるんですよ。技術的にだったりパフォーマンス的な部分で「ここは改善しないと」ということもあるんだけど、引きずる暇もなく、すぐに次の活動があるので。常にやるべきことがあるのはすごくありがたいし、もうやるしかないんで。

──あとYOSUKEさん加入後のSPYAIRにとっては「オレンジ」(映画「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」主題歌)のヒットも大きかったですよね。

UZ もちろん。ボーカルを代えてまでバンドを続けるからには、今のSPYAIRが広まって、もっと知ってもらわないと意味がないと思っていて。「オレンジ」がヒットしたことで、「これでまた続けられるな」という感じがあったかな。「オレンジ」がなければ野音の成功も、その先のバンドの未来も見えなかったかもしれないので。救われました。

──地上波の音楽番組にもかなり出演して。

MOMIKEN 確変みたいな感じですね(笑)。ストリーミングの再生数のスピードだったり、ライブでもお客さんの“「オレンジ」待ち”を感じることがあって(笑)。

MOMIKEN(B)

MOMIKEN(B)

KENTA フェスは特にそうだよね。

UZ ただ、今の時代、曲のヒットとバンドのヒットは違いますからね。俺らがデビューした頃は、曲が売れ始めるとバンド自体も上に行けたんだけど、今はそうじゃなくて。「オレンジ」が好きという人にいかにSPYAIRを好きになってもらうかが、今後の活動に関わってくると思ってます。

──YOSUKEさんとしても、加入後のヒット曲は大きな意味がありますよね。

YOSUKE うれしいですね。胸を張って「SPYAIRのボーカルです」と言えるターニングポイントだったし、「ハイキュー!!」のおかげです。

──曲の力だと思いますよ。もちろん「ハイキュー!!」も素晴らしいですが。

YOSUKE 「ハイキュー!!」との親和性が曲をさらによくしてくれてると思います。僕も映画館で3回くらい観たんですけど、何度見てもグッと来ますね。