SPYAIR|デビューからの紆余曲折の10年間、そして11年目以降の未来を4人が語る

2020年に結成15周年、メジャーデビュー10周年を迎えたSPYAIR。新型コロナウイルス感染拡大の影響によりアニバーサリーイヤーにちなんだ活動が絶たれた昨年を経て、“RE:10th Anniversary”を掲げた今年は恒例の単独野外ライブ「JUST LIKE THIS」の開催、さらにベストアルバム「BEST OF THE BEST」、ミュージックビデオ集「BEST OF THE BEST CLIPS」のリリースなど、精力的な活動を継続している。

メンバーの脱退、活動休止などを経験しながらも、ロックバンドとして確固たる存在感を発揮し続けている彼ら。音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューを行い、デビュー以降の10年の軌跡、印象に残っているライブ、バンドの現状や今後のビジョンなどについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

「SPYAIRの野外ライブは楽しい」と改めて感じた

──まずは7月17日に開催された野外ライブ「JUST LIKE THIS 2021」について聞かせてください。昨年のコロナ禍による中止を経て2年ぶりの開催となった今年は、実に5年ぶりの快晴に恵まれました。

IKE(Vo) 晴れましたね、ついに(笑)。毎年のように雨だったので、お客さんも「やっと晴れた」と歓喜してくれて。

KENTA(Dr) ファンも俺たちも雨に慣れすぎてたからね(笑)。

2021年7月に開催された「JUST LIKE THIS 2021」の様子。

UZ(G) すごく楽しかったですね。2年ぶりというのもあったし、富士急ハイランドという会場のあるべき姿を見せられたというか。富士山が見えて、きれいな空気の中で乾いた音を届けられて。「SPYAIRの野外ライブは楽しい」と改めて感じたし、声が出せない状況ではあったものの、お客さんも楽しそうだったんですよ。

IKE 開放感があるからね。みんなも歌ってる気がしてくるというか(笑)。

MOMIKEN(B) とにかくライブをやれたこと自体が奇跡だし、ステージに立って「やってよかった」と思いましたね。みんなが喜んでくれてるのがわかったし、「ライブを生き甲斐にしている人たちがいるんだ」って確認できて。止めるべきじゃないなと、改めて感じましたね。

IKE 奇跡だよ、ホントに。

UZ 開催できてよかったよね。

IKE うん。僕らとファンだけじゃなくて、これからライブをやろうとしている人たちにとっても、1つのサンプルになったんじゃないかな。

「LIAR」がオリコン1位だったら10年続いてない

──「JUST LIKE THIS」の成功が、1つのモデルになったと。そして8月11日にはベストアルバム「BEST OF THE BEST」がリリースされました。デビューからの軌跡が刻まれた作品だと思いますが、10周年を迎えた心境はいかがですか?

KENTA 10年間、この場所に立っていられるのはすごいですよね。だいぶ長いですよ、10年って。

MOMIKEN 10年って中堅かな?

KENTA 新人ではないよね。

──新人ではないですけど“まだ10年”じゃないですか?

UZ まだフレッシュだ(笑)。

IKE (笑)。でも、10年は長いよ。(リリースしてきた作品のリストを見ながら)「いろいろやってきたな」って思うもん。

UZ 普段、過去を振り返ることはないですからね。こういうタイミングで「いつの間にか、こんなにやってたんだな」と気付くというか。

MOMIKEN 振り返ってみると長いし、いろんなことがあったけど「気付いたらもう10年」という感じもあって。

──メジャー1stシングル「LIAR」は2010年8月にリリースされました。当時、どんなビジョンを掲げていたか覚えてますか?

2010年8月リリースのシングル「LIAR」ジャケット。

IKE でっかくなるぞ!と漠然と思ってました(笑)。若かったし、何も見えてないんですけど、憧れていた海外のバンドを思い浮かべて「ビッグになりたい」って。

KENTA デビューして1年くらいでタワマンに住んでると思ってたよね(笑)。

UZ 思ってた(笑)。

IKE 「こんなオンボロのアパート、速攻で出てってやる」みたいな(笑)。全然ダメでしたけど。

MOMIKEN (笑)。1stシングルはすごくお膳立てしてもらってたんですけどね。

──ドラマのタイアップもありましたからね。

MOMIKEN そう。「売れたらいろんな人が寄ってくるから気を付けてね」という話だけを聞いてて……。

KENTA 誰も寄ってこなかった(笑)。

MOMIKEN 都市伝説だったのかも。

──(笑)。いきなり売れるのも善し悪しですけど。

IKE そうですよね。1つひとつ、少しずつ上がってきたバンドだし、それはよかったのかな。

UZ うん。もし「LIAR」がオリコン1位だったら、10年続いてなかったかもしれないし。「LIAR」、55位ですからね(笑)。

KENTA やっぱり覚えてるよね、55位(笑)。

IKE そりゃそうだよ(笑)。「えええ? 55位?」って思ったから。

UZ だよね。少なくともトップ10には入ると思ってたんですよ。

IKE ショックだったよね。レコード会社の担当の人もかなりショックだったみたいですよ。

MOMIKEN うん。「LIAR」の発売日、IKEとUZはキャンペーンで地方に行ってたんだけど、担当の方が俺とKENTAが住んでた街に来て「焼肉行こう」って連れて行ってくれて。その間、ずっと「大丈夫、大丈夫だから」って言われました(笑)。

IKE 相当焦ってたんだろうね。10年前って、メジャーデビューというマジックが今よりも大きかったと思うんですよ。俺らも「よっしゃ、ここから行くぞ」と思ったんだけど、結果が伴わなくて「世の中、厳しいな」と(笑)。「LIAR」、カッコいいんですけどね。

「サムライハート(Some Like It Hot!!)」で
初めて起きたコラボの化学反応

──自信を持ってリリースしたからこそ、結果が伴わなかったショックが余計に大きかったのかも。

IKE そうですね。さらに2枚目(2010年12月発売の「Last Moment」)、3枚目(2011年3月発売の「ジャパニケーション」)とシングルを切ったんですけど、なかなか成果が上がらず。肩にのしかかる重みがどんどん増えて、「バンド、本当に続けられる? 大丈夫?」という不穏な空気が漂ってきて……。「ジャパニケーション」には多大なる自信を持ってたんですけど、リリース直前に東日本大震災が起きて、世の中が音楽云々っていうムードではなかったんですよね。

KENTA そうだね。

2011年6月リリースのシングル「サムライハート(Some Like It Hot!!)」ジャケット。

IKE 状況が変わったのは、やっぱり4枚目の「サムライハート(Some Like It Hot!!)」ですね。アニメ「銀魂」との“はじめまして”になる作品だったんですけど、そこで初めてコラボレーションの化学反応が起きて。そこからですね、回り始めたというか、うまくいき始めたのは。

UZ うん。「ジャパニケーション」の頃は「そろそろ愛知に帰ることになるかも」って言ってたしね。

KENTA 本当にそういう話してたよね。

UZ 実際、震災のときに一時期だけ帰っていたんですよ。「俺ら、このまま愛知にいるの?」という不安もあったんだけど、それを救ってくれたのが「サムライハート(Some Like It Hot!!)」だったんです。

──UZさんは作曲家として、「早く結果を出さないと」というプレッシャーもあったのでは?

IKE 覚えてる?

UZ うーん……。その前の「Last Moment」「ジャパニケーション」も「これはイケる」と思って力んでたし、自信があったんです。それに対して「サムライハート(Some Like It Hot!!)」、わりと肩の力を抜いて作った曲なんですよね。ここまでハマるとは思ってもなかった。

IKE そうだったかも。

UZ 当時は「とにかく力んだものがいい」という感じだったので、「サムライハート(Some Like It Hot!!)」は「ちょっと軽くないかな?」と思ってて。今では受け入れられた理由が理解できるし、力を入れればいいってものじゃないのもわかるんですけど。

──その後は曲作りのコツをつかんだ?

UZ いや、そんなこともなくて。そのあとの「BEAUTIFUL DAYS」も「My World」も思ったほどではなかったし。

KENTA そんなことないよ(笑)。

UZ 「My World」は自分の中で、SPYAIR史上一番と言っていいくらい好きな曲なんですよ。「この熱量はSPYAIRにしか出せないだろう」という自負があったんだけど、思ったほどの結果が伴わなくて。

MOMIKEN 「My World」をリリースしたとき、UZの心がバキバキに折れる瞬間を見たんですよ。ツアーの合間にCDショップに挨拶に行って、そこでオリコンの順位を聞いたんですけど、その瞬間にUZの気持ちが明らかに折れて。

KENTA その場面、俺も覚えてる(笑)。

UZ (笑)。そのとき初めて、「熱量が高ければいいってもんじゃないな」って思い知らされました。

IKE 血気盛んでしたからね。ちょっとポップなデコレーションはしてたけど、中身は超絶ハードロックだったから。