SPYAIR|4人の個性を“UNITE”メンバー全員作曲で新たなフェーズへ

俺じゃ絶対に作れない曲を待ってた

──そういう状況をIKEさんはどんなふうに見てたんですか?

IKE 温かい目で見てました(笑)。途中経過のデモを随時送ってもらって、「すごい、曲になってる。ヤバい!」って。俺も「1曲頼むね」と言われてたんだけど、全然できなかったから「すごいな、こいつら。曲とか作れるんだ?」と思ってました。

UZ (笑)。今の時代は誰でも曲は作れるからね。ジャンルは違うけど、例えば動画編集もそうだと思うんですよ。前は「そんなの宇宙人の仕事だろう」と思うくらいわからなかったけど、機材や技術が発達したことで、やってみたらできるようになってきて。楽曲も同じで、ある程度勉強して、機材をそろえればやれるので。やるかやらないかの違いだけで、作曲家は魔法使いみたいな仕事ではないです。

KENTA 確かに、手法はいくらでもあるからね。

IKE そうなの? 俺は「曲が作れるなんて魔法使いだな」と思ってるけどね(笑)。

──昔に比べて作曲のハードルが下がっているのは事実ですけど、作り手のセンスや技術はもちろん大切ですからね。実際、MOMIKENさんが作った「One Day」、KENTAさんが作曲した「轍〜Wadachi〜」も、ほかの人では作れないと思うし。しかも大型タイアップが付いていて。

IKE どれだけ恵まれてるんだって思いますね。アニメのタイアップ曲としてもいい感じでハマっていて、ホントにありがたいなと。

MOMIKEN(B)

──ちなみにUZさんは「One Day」「轍〜Wadachi〜」を最初に聴いたとき、どんな印象を持ちましたか?

UZ え、どうだったかな……。

MOMIKEN 「One Day」のデモは、UZがロスにいるときに送ったんですよ。4曲くらいまとめて送ったんだけど、「SPYAIRっぽいね。でも、最初からこれだけ作れるのはすごいよ」って返信が来て。「One Day」のリフはメジャーコードのバッキングだったんだけど、「初めて曲を作った高校生みたいだから、マイナーコードのほうがいいよ」とアドバイスもいただいて。

UZ いただいて(笑)。でもせっかくMOMIKENが作曲したのに、俺が口を出すとまったくその通りにしちゃうんですよ。

KENTA そりゃそうだよ(笑)。

UZ なんで、そのあとは口を出さないようにしたんです。

──UZさんが意見を出すことで、自分の色が入るのを避けたかった?

UZ そうですね。俺じゃ絶対に作れない曲を待ってたので。曲を聴いたときに「このメロディは〇〇〇が作ったっぽいな」ってわかるくらいじゃないと、作曲者が増えたことの意味がないなと。とはいえ、いきなり求めすぎちゃったかなとは思ったんですけど。

IKE そうだよ(笑)。

UZのメロディを誰よりも聴いてるのはMOMIKEN

──MOMIKENさんもKENTAさんも、15年以上UZさんの曲を聴き続けて演奏してきたので、UZさんのメロディやサウンドは沁みついているだろうし。

UZ そうなんでしょうね。俺が曲を作るときは、鍵盤で弾いたメロディをまずMOMIKENに送るんですよ。歌詞を書く時間をできるだけ長く取ってもらうために。なので、俺のメロディを誰よりも聴いてるのはMOMIKENなんですよね。

MOMIKEN 確かに。「One Day」を作るときもまず、UZが普段歌メロを弾いてる鍵盤の音色をソフトの中で探したからね。

KENTA 俺も探した(笑)。

UZ そこはなんでもいいんだよ(笑)。

IKE いや、それは同じじゃないと俺が困る(笑)。だって同じメロディを何百回も聴くんだよ? 慣れ親しんだ音色じゃないとイヤでしょ。

──(笑)。誰が作ったメロディであっても、歌うのはIKEさんですからね。もちろん、IKEさんの歌声がSPYAIRに直結しているところもあるし。

IKE 作曲者による違いも感じてたんですけどね、俺は。わずかな違いで、聴いている人にはわからないかもしれないけど、確かに何かが違っていて。そこに面白味を感じてたいし、その楽しさはアルバムに滲み出てるんじゃないかな。

──メンバー全員のセンスと技術が結合して、新しい表現につながって。「UNITE」というタイトル、まさにぴったりですね。

UZ 2018年のワールドツアーのときから、この言葉がなんとなくあったんですよ。「『KINGDOM』の次が『UNITE』だったら『UNITED KINGDOM』だね」って話してたから(笑)。そのときはそこまで深く考えてなかったんですけど、いつの間にか具現化していたというか。そのままアルバムのタイトルになりました。

SPYAIR

それぞれに委ねられるからバンドをやれる

──アルバムの新曲にも、メンバーそれぞれの個性がしっかり出ていると思います。まずはKENTAさんが作詞作曲を手がけた「STORY」。曲だけじゃなく、歌詞も自分で書いたのはどうしてですか?

KENTA それも「曲を作ってほしい」という話の延長というか。

UZ 俺が提案したんですよ。「曲を作った人間が歌詞も書いたほうがいい。これから俺もそうするから」って。曲と同じように、歌詞にもその人のカラーが出たほうがいいと思ったんですよね。今までは基本的に俺が曲を作って、MOMIKENが歌詞を書いてたんだけど、全員が作詞作曲に関わることで武器が増える。もちろんIKEの声がど真ん中にあるんだけど、メロディや歌詞の幅が広がったほうが、長いスパンで見れば絶対にいいので。

MOMIKEN しかも、「4人が作詞作曲した曲が入ったアルバムは、すごくいいと思う」って最初に言い出したのはKENTAなんですよ。

KENTA そうだね(笑)。ただ、俺の認識は「作曲をやる」ということで、歌詞のことはまったく考えてなくて。でも、ミーティングの場でUZが「歌詞も書こう」って言い出して、スタッフも「そうだね」という空気になって。これはもう「イヤです」とは言えないなと。

IKE ハハハハ(笑)。

KENTA MOMIKEN以外のメンバーが歌詞を書くこと自体はすごくポジティブなことだしね。ただ、もともと言葉を紡ぐとか、歌詞を書けるような性格じゃないんですよ(笑)。作詞は自分の考えを掘っていくことだし……恥ずかしいじゃないですか、それは。

MOMIKEN できるかできないかじゃなくて“恥ずかしい”(笑)。

──確かにKENTAさんは、自分と向き合って、言葉を紡ぐタイプではないような気もしますね……。

KENTA(Dr)

UZ いや、それはKENTAの能天気キャラにダマされてます(笑)。KENTAは瞬時に人の心を読む力を持ってるし、感情に対して繊細で。だから絶対に向いてるんですよ。自分の感情を素直に書けば、いい作詞家になれるはずだし、俺は書くべきだと思ってましたね。

KENTA MOMIKENにアドバイスをもらったんですけどね、「STORY」の歌詞は。まず自分で書いてみて、それをMOMIKENに見せて。「何を書きたいと思ってる?」と聞かれたから説明したら「今言ったことをそのまま書けばいいじゃん。今の歌詞だと真逆に読み取れるよ」と言われたんですよ。

MOMIKEN 真逆というか、恥ずかしさが強すぎて、全部がフワッとしてたんですよ。

IKE オブラートに包みすぎたんだ?

MOMIKEN そう。結果として、何も言ってないような歌詞だったから「書きたいことをそのまま書いてみたら」と。

KENTA で、全部書き直しました。

──その結果、「描ければいいさ 君だけのSTORY」というストレートな言葉になったと。

KENTA ……マジで恥ずかしいですね、そう言われると(笑)。

IKE でも、わかるよ。それぞれに委ねられるから、バンドをやれるんだと思うんですよね。作曲を担う人間、歌詞を担う人間がそれぞれいて、それを俺が歌うっていう。

UZ そうだね。もし作詞作曲と歌を1人でやってたら曲に対する愛情が強くなりすぎて、バンドとしてやりづらくなるかもしれない。SPYAIRはそうじゃなくて、ほかのメンバーに委ねられるんですよね。自分のことで言えば、「曲は作ったから、あとはよろしく」って安心して任せられる。それがこのバンドのいいところなのかなと。

KENTA そういう絶妙なバランスの中で10年間やってきて。それをもっと伸ばそうとしたのが、このアルバムだと思うんですよ。

IKE そんな気持ちの集大成がアルバムのジャケットなんですよね。4人の顔を合成してるんですけど、まさに「UNITE」というアルバムを象徴しているなと思います。