音楽を仕事にするということ
──「カポック」は2023年に関西テレビで放送されたドラマ「3年VR組」の主題歌でキャッチーさに振り切った楽曲ですが、ドラマに曲を書き下ろすということをやってみてどうでしたか?
初めて書き下ろしのお話をいただいてめちゃくちゃうれしかったのと同時に、曲を提出する締め切りが設けられていたので、「これが音楽を仕事にするということか」と思って気が引き締まりました。必要以上に迷っても仕方ないと思ったので、頭からあふれ出すイメージを一筆書きしたような曲で、初期衝動みたいなものが出せたと思っています。ただ、時間が限られていたことで、明るく元気な曲にできたという実感があって。もしもっと時間があったらひねくれたことをしていたかもしれない。
──基本的には日常的に感じていることを曲にすることが多いんでしょうか?
そうですね。僕自身、思っていてもその場では言えないことがたくさんあって。それを友人に話してみると「俺もそういうことあるわ」という反応が返ってくるので、みんなも同じようなことで悩んでいるんだなと。友達とは電話すれば話せますが、そういう思いをステージで歌うことで、同じような気持ちの人たちに届いたらいいなと思っています。
──「エスケープコール」は「誰がいくら頑張っていても 僕は今日逃げたくなる」という歌詞が印象的でした。
「エスケープコール」はなかなかいい曲が作れなかったタイミングでできた曲で。あの、僕、友達に電話するのが好きで、何かあるとすぐにかけちゃうんです。
──だから「エスケープコール」なんですね。
そうなんです。自分の悩みを話したり、友達の悩みを聞くと気持ちがすっとするので電話が好きで。その頃はしょっちゅう電話で「曲が書けない」ということを話してました。それである友達に「大輔、エスケープコールはダメだよ」って言われたんです。それで、その友達も曲を作れるので、「明日の何時までに『エスケープコール』というタイトルの曲をお互い作ってどっちの曲がいいか対決しよう」と。その電話がきっかけでできた曲です。離れて暮らす友人や家族とひさびさに連絡を取ると「最近どう?」という話になることが多いと思うんですが、特に報告できることがない時期は連絡を取ることを躊躇したりするなと思って。それでも僕には、「最近連絡ないけど大丈夫?」と心配してくれる友人や家族がいるので、「逃げちゃいけないよな」と思いました。そういう気持ちを書いた曲で、アルバムの中でも特に曲に込めたメッセージが届いてほしいのが「エスケープコール」。この曲を聴いて何かを感じてくれる人は、だいぶしんどさを感じてると思うんです。そういう人にこそ、寄り添える曲でありたいと思っています。
──ほかの曲も含めて、嫌なことはあるのが当たり前の日常だけど、楽観的に生きていこうよというメッセージも感じました。それは荒川さんのどういうところから生まれるんだと思いますか?
人の曲を歌うだけじゃ満足できず、自分で曲を作ってステージに立ちたいと思った根底には、自分の行動によって誰かに何かを与えられないかというお節介精神があると思うんです。困ってる人がいたら手を差し伸べたいというのが本音なんですが、その手をまっすぐに差し出すのが恥ずかしいので、それを隠してのほほんとした感じの曲にしている。それによって楽観的に聞こえるんだと思います。
──のほほんとしたムードというと、「雨降り休日」はカントリー風の曲調でいろいろな楽器が入っていますよね。
そうですね。もともと3ピースのアレンジで作った曲ですが、ソロプロジェクトになったことで改めて録り直しました。バンドのときはトライできなかったウクレレやカズーを入れたアレンジを手探りでやってみて、レコーディング現場はすごく楽しかったですね。ほかの曲はけっこう気合いが必要なレコーディングだったんですが、この曲は気の抜けたよさがあるので、一番のほほんと楽しくRECできました。
自分と向き合って、思ったことを歌に
──既存の曲も収録されているミニアルバムですが、曲作りの楽しさと難しさ、どちらをより実感しましたか?
楽しさは皆様の手に届いて、喜んでもらえたときに実感できると思っているので、発売前の今は難しさのほうが大きいですね。今やりたいこと、やれることは出し切れたと思うんですが、だからこそ今後やりたいことも見えてきました。
──活動をスタートさせてから6年が経っていますが、SPRINGMANに対するリスナーの反響をどう受け止めているんでしょう?
曲を作っている最中は、自分は好きだけど、果たしていい曲なのかどうかはわからないんですよね。ちゃんと伝わっているのか不安になる。でも、聴いてくれた人がSNSとかで感想を書き込んでくれていると「ちゃんと届いてるんだ」と思ってうれしくなります。響くとは想定していなかった年代の方にも届いていたりして、日によっては泣きそうになりますね。あと、皆さんの反応を見ることで自分の弱いところと強いところに気付きます。
──弱いところと強いところって、具体的にどんなところでしょう?
弱いところは、コミュニケーション能力が足りないところだと改めて実感してます(笑)。強みは、曲も含めて「素直だね」と言われることが多いんですよね。前はそれがいいことなのかどうかわからなかったんですが、今はいいことだと思えるようになりました。
──ちなみに、民生さん以外にシンパシーを感じるアーティストはいるんですか?
同じ栃木県壬生町出身の斉藤和義さん。昔からよく聴いていたので、ギターの影響とか受けていると思います。あと、髪型のパーマも影響を受けてるかもしれない(笑)。
──確かに(笑)。今後どんなアーティストになっていきたいか、ビジョンはありますか?
カッコいいバンドもおしゃれなバンドも、世の中にはいろいろなアーティストがいます。そんな中で、僕の音楽はありふれたものだと思っていて。僕ができることは素直に正直に今の自分と向き合って、思ったことを歌にすること。憧れの対象にはなれなくても、曲を聴いてくれた人に寄り添うことはできると思うんです。だから、とにかく愚直に生きていきたい。それでいつか大きなステージに立って、スタッフやバンドメンバーとともに「ここまで来れた」という喜びを分かち合って、みんなに感謝の気持ちを伝えたいです。
ツアー情報
SPRINGMAN 1st mini album「SCREW」release tour
- 2024年6月8日(土)栃木県 宇都宮HELLO DOLLY
- 2024年6月14日(金)大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
- 2024年6月15日(土)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
- 2024年6月28日(金)東京都 下北沢Daisy Bar
プロフィール
SPRINGMAN(スプリングマン)
2018年12月にバンドとして結成され、現在は荒川大輔(Vo, G)のソロプロジェクトとして東京を拠点に活動している。2022年にmurffin discsが主催するオーディション「murffin AUDITION 2021-2022」のグランプリを受賞。2024年4月に1stミニアルバム「SCREW」をリリースした。同年6月にツアー「SPRINGMAN 1st mini album『SCREW』release tour」を開催する。