チャレンジばかりの1年だった
──曽我部さんは今年サニーデイ・サービスとしてもソロとしてもアルバムをリリースしました。振り返ってみて2018年はどんな1年でしたか?
メンバーが亡くなって、いろんなことがあったなという感じですね。作品もたくさん出したし、音楽的なチャレンジも含めてできることはすべてやり切りました。チャレンジばっかりだったかな、今年は。来年はのんびりしたいかも。
──昨年の話になってしまいますが、サニーデイ・サービスのアルバム「Popcorn Ballads」はリリース後にフィジカル化されたものの、最初は配信のみで発表されました。改めて配信だけでアルバムをリリースした理由や思いを聞かせてください。
配信のみでリリースするのは世界的には当たり前でも、日本ではまだメジャーなアーティストはやらない方法なんですよね。僕は以前から、みんなアーティストなのに固いなと思ってたんです。いろんな可能性を探っている人もいるだろうけど、一歩踏み出すにもメーカーのお伺いを立てないと動けなかったり、Mr.Childrenのような大物アーティストがストリーミングで曲を解禁するのを見てから自分たちも解禁したり。僕はミーハーで新しいもの好きなので、先にやっちゃおうと思ったんです。
──日本では、曲はCDでリリースするものという固定概念がいまだに根強いかもしれません。
ミュージシャンとメーカーサイドの経済的なことが原因なんですけどね。でも、それはリスナーには一切関係ないことですから。
CDを売るんだったらその意味をちゃんと持っていたい
──今年はサニーデイ・サービスのアルバム「the CITY」が3月に配信、4月に2枚組のアナログ盤という形態で発売されました。アナログはアナログでここ数年市場全体が盛り上がっていますが、リスナーの聴き方が両極化してCDというメディアが抜け落ちてきているんでしょうか。
僕もだけど、曲は配信で聴いて、アナログはものとして持っておきたいということなんじゃないかな。CDはデジタルアナログみたいなもので一旦切り捨てられてしまったけど、今後CDがかわいく思えてくる時期が来るかもしれない。僕らも考えてますもん。CDをどうしていくか。今までだったらこれだけあれば10年間は大丈夫なんじゃないかという在庫の量でCDを作って、なくなったら追加してたんだけど、例えばMinor Threatだとかハードコアパンクの人たちは1stプレス、2ndプレスでジャケットの色を変えたりしてたなと思って。だから「ヘブン」は千枚単位とかでプレスを区切っていこうと考えているんです。そのほうが売れた数を実感できるし、CDがあまりにも貴重なものじゃなくなってしまったのも寂しい話だなと思っていて。せっかくこっちも一生懸命作って売って、リスナーも身銭を切って買ってくれているわけだし、CDをもっと貴重なものにしたいんですよね。そうしてCDを売る意味を探っていったら、CDが本当に必要なものなのか、それともいらないのかをちゃんと考えられるかなって。CDを売るんだったら、その意味をちゃんと持っていたい。
──「the CITY」のリリース後には、本作の全収録曲をさまざまなアーティストがSpotifyのプレイリスト上で解体、再構築するプロジェクト「the SEA」が展開されました。これはどういった思いやきっかけがあって始動したプロジェクトなんですか?
アルバムを作っている段階で、曲を全部人に預けてぐちゃぐちゃにしてもらって発表しようというアイデアが出てきて。でもそれをやるには時間がかかりそうだったから、まずは普通にオリジナル版をリリースして、そのあとにリミックスを出そうという話になったんです。しかも、すぐにリミックスを仕上げてくれる人もいれば、そうじゃない人もいるだろうから、できあがった音源からSpotifyで順番に出したら面白いんじゃないかって。
──ストリーミングだからこそできることですよね。
そうそう。せっかく配信リリースするなら、そういうやり方もいいんじゃないかなと。
──やってみての感触はいかがでしたか?
できあがった作品はもちろんすごく気に入ってるんですけど、この方法論について何か特別な収穫があったというわけではないかな。方法論が奇抜だからといって作品自体に何か深く影響があるわけではなく、結局はできあがったもの自体が評価されるわけだから。それはレコードでもCDでも配信でも同じだと思います。
──届ける方法と作品の中身は別だと。
別のものとして評価されるべきですね。出し方の奇抜さが話題になるのは、もって2週間くらいで、その作品が聴いた人にどういう影響を与えたかということが大事なんじゃないかな。
1日1曲発表するのが当たり前でもいい
──今月リリースされた「ヘブン」についてもう少し話を聞かせてください。ここ数年ヒップホップばかり聴いているとのことでしたが、曽我部さんにとってラップアルバムを作るのは自然な流れだったのでしょうか?
どうだろう……自分の中では自然ではなかったかもしれない。何をもって自然というかは難しいですけどね。「Popcorn Ballads」にも「the CITY」にもラッパーの方をフィーチャーする形でラップを入れたんだけど、自分でやってみないとダメだという思いがどこかにあって……まあ、やりたかったというひと言に尽きますね。
──アルバム丸ごと1枚、自分でラップをやってみていかがでしたか?
自分に合っているフロウってなんだろうと模索して、作り始めが大変だったんですけど、1つのスタイルを見つけたらどんどんできていって。完成したアルバムはすごく気に入っていて、自分でも聴いてます。
──「ヘブン」の発表からわずか2週間後の12月21日には、ニューアルバム「There is no place like Tokyo today!」が配信リリースされました。「ヘブン」の完成後、休みなくすぐに制作を始めたんですか?
ヘブンと連なって作っていました。
──カーティス・メイフィールドのアルバム「There's No Place Like America Today」にオマージュを捧げた作品とのことですが、どういうきっかけでこのコンセプトが湧いてきたのでしょう?
カーティスのアルバムのタイトルを拝借しただけではあるんですが、スマホやSNS、今の我々の生活を浮き彫りにするような音楽にしたかったんです。
──曽我部さんはサニーデイ・サービスとソロを合わせると作品をリリースするペースが相当早いですよね。
これも配信の話とつながるんですけど、僕はこのペースが当たり前だと思ってるんですよ。画家が毎日絵を描いているのと同じように、音楽家はいつも音楽のことを考えて、自分の中に芽生えたものが何か歌にならないかと思いながら暮らしていて。それが曲になって週に1曲とか、1日に1曲発表しても当たり前のことだと思うし、そろそろ普通になってもいいんじゃないかな。CDやレコードを作るのは大変なことだからそうはいかないんだろうけど、その工程を省いた自分なりのペースで曲を発表できる場があるべきだと思うんです。逆に10年に1曲のペースでリリースする人がいてもいいし。その人は今のレコード会社のシステムの中ではやっていけないけど、配信だったら活動していけるわけで。もうちょっと自由に考えていいのかなと思います。
──今後、シングルやアルバムという形態を考えなくてよくなるかもしれませんね。
僕は変わっていくことが好きだから、旧態然としたものはすぐになくなったらいいと思ってるんだけど、もう時間の問題でしょうね。ユーザーサイドは自分たちに合った楽しみ方をチョイスしていくので、業界側がどんなにコントロールしても無理だと思います。
──日本でも今以上にストリーミングが浸透していくと。
いくし、ほぼそれだけになるんじゃないかな。
- Spotify
2008年にヨーロッパでスタートした、スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。2011年にアメリカに進出し、日本では2016年11月に本格的にスタートした。国内外4000万曲以上の楽曲をラインナップし、2018年12月時点で世界でのユーザー数が1億9100万人超を記録。世界各国のキュレーターやアーティスト、音楽ファンが作成した膨大なプレイリストや、アルゴリズムに基づく独自のレコメンド機能を持つ。
- 曽我部恵一
「There is no place like Tokyo today!」 - 2018年12月21日配信開始 / ROSE Records
- 収録曲
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- There is no place like Tokyo today!
- 暴動
- チャイ
- ヘブン
- ビデオテープ
- 心でサウスマリンドライヴ
- bitter sweets for midnight life
- 真珠
- 曽我部恵一(ソカベケイイチ)
- 1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、再結成したサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムを発表。2018年12月7日にラップアルバム「ヘブン」を、2週間後の12月21日にニューアルバム「There is no place like Tokyo today!」を立て続けにリリースした。