Spotify「My トップソング 2018」特集 曽我部恵一|音楽ストリーミングサービスが作り手とリスナーにもたらす価値

音楽ストリーミングサービス・Spotifyにて、2018年によく聴いた楽曲をまとめたプレイリスト「My トップソング 2018」が各ユーザーに向けて公開された。これを受け、音楽ナタリーでは曽我部恵一にインタビューを実施。サニーデイ・サービスとして昨年6月にアルバム「Popcorn Ballads」を配信のみでリリースし、今年にはバンドの最新作「the CITY」全曲をSpotifyのプレイリスト上で解体、再構築するプロジェクト「the SEA」を展開した曽我部に、今年1年間に頻繁に聴いた楽曲を振り返ってもらいつつ、音楽ストリーミングサービスに対する考えを聞いた。

取材・文 / 近藤隼人 撮影 / 佐藤類

ストリーミングサービスでしか聴けないUSヒップホップがメイン

──曽我部さんは普段、ユーザーとしてSpotifyなどの音楽ストリーミングサービスを使いますか?

使いますよ。Spotify、Apple Music、Amazon Musicの3つかな。お金を払って。

──そのうちのSpotifyでは12月の初めに、今年1年間でよく聴いた楽曲をまとめたプレイリスト「My トップソング 2018」が各ユーザーに配信されました。

(スマートフォンでSpotifyのアプリを開きながら)僕のプレイリストの一番上にはNasの曲がありますね。やっぱりよく聴いたなと感じる曲が入っています。

曽我部恵一

──ほかにはどんなアーティストの曲がありますか?

ストリーミングでしか聴けないUSヒップホップがメインですね。J・コール、Kids See Ghosts、プシャ・T、Nas、MFドゥーム、ブラック・ソート、ジョージ、ポスト・マローンとか、ほとんどヒップホップですね。

──その中で、今年特に聴いたアーティストは?

一番フィットしたのはポスト・マローンでしたね。ジョージもよかったけど。とにかく音楽がゴージャスなんですよ。子供を連れてユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行ってアトラクションを待っているときとか、いろんなタイミングで聴いてハマりました。

──いつからヒップホップをメインで聴くようになったんですか?

ここ数年ですね。いや、もっと前かな。バンドの曲を最後にしっかり聴き込んだのはいつだろうと思うくらい。だからフジロック(「FUJI ROCK FESTIVAL」)に行ってみんなが「あれ観よう」とか「あのバンドよかったね」と話してるのを聞いても、全然わからないんです。The Flaming Lipsの最近の作品とかは聴いたけど、それも数年前かな。好きになって夢中で聴いたのはThe Strokesが最後かもしれない。15年前くらい?

──ガレージロックリバイバルが起きた2000年代初めですね。

そうそう! あの頃はロックバンドを夢中で聴いてたし、自分でもそういう音楽をやろうとしてた。でもそれ以降はフランク・オーシャンとか、もうちょっとパーソナルなソウルミュージックのほうが自分にフィットするようになってきたんです。フランク・オーシャンやチャンス・ザ・ラッパーはPC to PCみたいな感覚で活動していて、ライブを積極的にやるでもなく、CDショップで音源を売るのでもなく、友達が友達にメールを送るように音を届けていくやり方というか。だから、僕が聴いているUSのシンガーやラッパーはほぼフィジカルで作品を出してないんですよね。

軽い気持ちで聴いてもらえるのがいい

──プレイリストには邦楽のアーティストは入ってないんですか?

友達や知り合いの新作はちゃんと聴くようにしてるから入ってきますね。あと仙人掌はよく聴いたね。

──それ以外で特にハマって聴いたという邦楽アーティストはいないんですか?

そうですね。例えばONE OK ROCKとか、ラジオで流れてくる曲を聴いていいなと思うことはあるけど、CDを買いに行くことはほとんどないかな。腰が重いというか。昔だったら買いに行ってたけど、今はストリーミングで聴きますね。

──なるほど。リスナー側の視点に立つと、音楽ストリーミングサービスを使うメリットはなんだと思いますか?

曽我部恵一

やっぱり、お金をいちいち払わなくても曲を聴けるということに尽きるんじゃないかな。試聴機が大量にあるようなもので、聴きたい曲をひと通り聴けるのは最高だと思います。僕は子供の頃、ラジオで聴いた知らない曲を全部チェックして、録音して繰り返し聴いてたんですが、ストリーミングはそういうことの現代版のような気がしていて。ユーザーが宣伝や売上枚数に惑わされず、自分の好きな音楽を見つけて聴けるのはいいことですよね。

──ストリーミングの登場によって、それまで知らなかったアーティストの曲に触れる機会が増えましたよね。

「Daily Mix」(音楽のジャンルやタイプ別に、普段よく聴いている曲におすすめの曲をミックスしたプレイリストを届けるSpotify独自の機能)とか、アルゴリズムで個人の好みを勝手に解析してプレイリストを届けてくれるのは面白いですね。

──逆にアーティスト側の視点から考えると、音楽ストリーミングサービスで楽曲を配信するメリットはなんでしょう?

ユーザーの話と同じですよ。軽い気持ちで曲を聴いてもらえるから、2000円、3000円でCDを買ってまで聴こうと思っていない人にも届けられる。僕が今月出したソロアルバム「ヘブン」は全曲ラップの作品なんですけど、ストリーミングでたまたま聴いたらよかったという声もあって。世の中には3000円を払わずに軽い気持ちで曲を聴くことに対する議論がいまだにあるんだけど、それはステレオタイプな考え方でまったく意味がないと思うんです。曲を聴いてもらえること自体がありがたいし、そこからフィジカルを買ってくれても買わなくてもどっちでもいいし。フィジカルを買う人だけが曲を一生懸命音楽を聴いてるというわけでもないですから。間に企業を挟まずにいろいろやれるのは最高でしかなくて、ストリーミングにはメリットしかないです。

──昨年、Spotify上では覆面のクリエイティブユニット・AmPmのデビュー曲「Best Part of Us」がリリースされて半年で1000万回以上の再生回数を記録するなど、ストリーミングならではの音楽の広がり方が見られました。

あれはバイラルを戦略的に分析するというやり方の雛形で。ジョージも急に出てきてビルボードで初登場1位になったし、そういうことが頻繁に起こり得るようになってきているんじゃないかな。正直、日本では、こういうシステムができあがるのが遅すぎたと思っています。

──もっと早くできあがるべきだったと。

2000年くらいにこういう状態になっていたらよかったなと思いますね。僕も2000代の始めには作り手と聴き手の間のタイムラグをなくしたくていろんな実験をしてました。あと、ストリーミングはお金の計算もすごくクリアで。1再生ごとに換算されるし、とても明快ですね。

Spotify
Spotify

2008年にヨーロッパでスタートした、スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。2011年にアメリカに進出し、日本では2016年11月に本格的にスタートした。国内外4000万曲以上の楽曲をラインナップし、2018年12月時点で世界でのユーザー数が1億9100万人超を記録。世界各国のキュレーターやアーティスト、音楽ファンが作成した膨大なプレイリストや、アルゴリズムに基づく独自のレコメンド機能を持つ。

曽我部恵一
「There is no place like Tokyo today!」
2018年12月21日配信開始 / ROSE Records
曽我部恵一「There is no place like Tokyo today!」
収録曲
  1. There is no place like Tokyo today!
  2. 暴動
  3. チャイ
  4. ヘブン
  5. ビデオテープ
  6. 心でサウスマリンドライヴ
  7. bitter sweets for midnight life
  8. 真珠
曽我部恵一(ソカベケイイチ)
曽我部恵一
1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、再結成したサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムを発表。2018年12月7日にラップアルバム「ヘブン」を、2週間後の12月21日にニューアルバム「There is no place like Tokyo today!」を立て続けにリリースした。