それにしても「とげまる」とはいったい何なのだろう? トゲ+丸? あるいは「とげ丸」という架空のキャラクターか何かの名前? 曲単位でも、そして毎回のアルバムでもさまざまな想像を刺激してくれるスピッツだが、今作の題名はいつも以上に不思議なイメージや異物感をもたらしてくれる。
今回もここ数作続いている亀田誠治との共同プロデュースで、前作「さざなみCD」をリリースした以降の3年の間で、楽曲を少しずつ録りためながら作り進められてきたものだ(なにしろ「若葉」は一昨年秋のシングル曲である)。それもあってか、アップテンポからミディアム、バラードまで、幅広いタイプの楽曲があり、全体の構成力の高さにはベテランバンドらしい堅牢さが感じられる。
彼らの最大の魅力はマサムネの歌と声とメロディであり、ここでもその世界からハミ出すようなムチャは見られない。カントリータッチの「花の写真」やマサムネがのびやかなボーカルを聴かせる「聞かせてよ」などは、バンドのスタイルをきっちり遵守したものである。
しかしそうした安定感の一方で、ところどころにフレッシュなテンションが見え隠れするのがこのアルバム最大のポイントだ。まるでサーフロックな「恋する凡人」、アイドルポップのようなメロディが爆発する「幻のドラゴン」、ストレンジなビートが続いていく「どんどどん」。全14曲のうちのいくつかは今年春以降に行われた「SPITZ JAMBOREE TOUR 2010」などのライブの場ですでに披露されており、そこでは草野マサムネ自らがエレキギターを弾くなどしてバンド全体で突き進むような感覚が印象的だった。ここに来てバンド全体に改めて勢いが出てきているのは明白であり、例えば目立ちすぎないレベルの細やかなリズムアレンジによって演奏に高いテンションを加えていく4人の雰囲気は、いわゆるベテランバンドらしい落ち着きとは傾向を異にしている。
そうした力強いトーンは各曲の歌詞においても通じるところがあり、「霞む視界に目を凝らせ」(「ビギナー」)、「果ての果てを目ざせ」(「探検隊」)、「今走るんだどしゃ降りの中を 明日が見えなくなっても」(「恋する凡人」)、「まだ前書きの物語 崩れそうな背景を染めていけ」(「TRABANT」)など、いつもよりも前を向こうとしている表現が際立っている。本作でのスピッツは、どこか勇猛なのだ。
こんなにもフレッシュさを覚える内容なだけに、幕開けが「ビギナー」というタイトルの曲であることは、つくづくこのアルバムを象徴していると思う次第だ。そして各曲を聴きながら、脳ミソは再びアルバムタイトルの謎を追ってしまう……。来年でデビュー20周年を迎えるバンドのみずみずしさと頼もしさ、そしてやんちゃさまでが同居した充実作である。
(文/青木優)
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