打ち合わせした上で勝手に曲を作ってくる人

──その頼んでもないのに来ちゃった方っていうのは？

渡辺　まず☆Taku Takahashiさん。どこかで自分が新作を作るって噂を聞きつけたらしくて。ある日突然スタッフから「デモテープが送られてきました」って渡されて「どこの新人だよ」と思ったら「m-floの人です」と（笑）。

KenKen　Takuちゃんアニメ大好きだからね（笑）。監督の大ファンなんですよ。

渡辺　あと川辺（ヒロシ）さんとかLAMAの牛尾（憲輔）くんも以前から「一緒にやりたいね」と話してた相手ですね。あとクラムボンのミトさんとかSLY MONGOOSEの笹沼（位吉）さんは、たまたまライブとかで人を介して会ったら、サントラとかやりたいという話になり、ぜひにとお願いしたり。向井（秀徳）さんやモカキリは僕がお願いに行ったんですけど、モカキリのメンバーには「ビバップ」を観ていてくれた人もいるみたいで快諾してもらえて。そしたら、だんだんオッサンばっかりになっちゃったから、やくしまるさんと菅野さんにもやってもらおうと。そういう感じで揃えたメンバーなんです。ただですね、これだけのメンツを揃えたら、今度は「じゃあ主題歌は誰にするんだ!?」っていう問題が持ち上がりまして……。

──「スペース☆ダンディ」フェスのヘッドライナーは誰なんだと（笑）。

渡辺　なので、これだけのメンツの中にあっても一番濃い、「あっ、この人ならしょうがない」ってみんなが納得する人ということで……。

KenKen　そこはもう岡村ちゃんでしょ（笑）。実際あの曲（「ビバナミダ」）ってOL Killerっぽいスペーシーな感じもあるし、ホントさすがって感じだよね。

──お話をうかがってると、なんでこんなにハイクオリティな劇伴とアニメができあがるんだろう？って……。

渡辺　ノリで人選したくせに、みたいな？（笑） でもきっかけこそノリですけど、作る過程はけっこう地道で。当然なんですけど集まってきた曲を全部ちゃんとエディットして、うまくハマるようにはしてるんで。みんなが好き勝手に作った曲たちを（笑）。

KenKen　オレがチャイナシンバルをガシャポンしまくった曲を（笑）。

──フェスの座組を考えるプロデューサーというよりはDJ的な作業に近い？

渡辺　そういう感じはあると思いますよ。楽曲とアニメーションをいかにキレイにつなぐかっていうことは常に考えるようにしてますから。というのも「どういう曲を作りましょうか？」って打ち合わせをした人もいれば、勝手に曲を作ってくる人もいるし、打ち合わせした上で勝手に作ってくる人もいるので（笑）。

とりあえずヤバいヤツは呼んだし、ステージに楽器は置いた

KenKen　今までそうやって音楽ありきでアニメを作ったことってあるんですか？

渡辺　実は僕が初めて1人で監督した「カウボーイビバップ」の劇伴を作った菅野よう子という人がそういう人で……。

──そういう人でしたか（笑）。

渡辺　「ビバップ」では全編通して歌モノは1曲だけ使うつもりだったから「こういうシーンがあるので、そのシーンのために1曲だけ歌モノを」ってオファーしたらなぜか10曲くらいの歌モノが届き……。で、頭抱えちゃったんですよ。「どうすんだ、これ」と（笑）。歌モノはセリフと音がカブるから使いどころが限られるんだけど、どれも素晴らしくいい曲なので、なんとか使いたいなと。それで曲を生かすためのシーンを作ったりしました。「ビバップ」にせよ「スペース☆ダンディ」にせよ、なぜか頼んでもない曲が届けられたことによってできたシーンは意外とありますね。

──なんで渡辺信一郎という人は菅野さんに10曲もの歌モノを書かせ、KenKenさんに12年間あっためてきた曲をお蔵出ししようと思わせることができるんでしょう？

KenKen　なんでなんでしょうね。ただ今回ご一緒させていただいて気付いたのが「あっ、どう考えてもあの人が一番宇宙人だった！」ってことで。監督は「宇宙感を出したい」とか言ってるけど、オレらは最初から監督っていう宇宙人に宇宙に引きずり込まれてたんだよね。完璧に宇宙に巻き込まれてた（笑）。

──「菅野さんが勝手に作ってきた」って言ってるけど、実はみんな知らず知らずのうちに監督に作らされていた、と。

KenKen　断る理由がないっスからね。あの素晴らしい作品の数々を観せられれば、みんな一緒に仕事したいと思うと思うし。それが一番デカいんじゃないですか。だからこんなフェスみたいなサントラができる。それもステージが1つだけしかないフェス。ウッドストック（・ミュージック・アンド・アート・フェスティバル）みたいなアルバムというか、とりあえずヤバいヤツは呼んだし、とりあえずステージに楽器も置いといたから、みんな集まれ！って感じのアルバムが（笑）。

渡辺　ボーッと待ってたらいきなりジミヘンが出てきてウォー！みたいな、ね（笑）。

KenKen　そうそうそう。ホントにこのサントラってそういうものだと思ってて。今、アニメを観ている若い子にとってはこういう70's、80'sっぽい曲を聴くことって最先端の体験というか、ものすごく新鮮な体験になると思うんですよ。しかもこのサントラの場合、いくつもステージがあるフェスみたいに、音やジャンルごとに盤を分けたりしてないし。1枚あれば難波さんや芳野さんみたいなレジェンドの音を聴くこともできるわけだから。ウッドストックに突然ジミヘンが出てきてみんながビックリしたように、レジェンドの曲に突然出会うこともできる。だからステージが1つしかない、なのに宇宙的スケールのフェスみたいなアルバムな気がするんですよ（笑）。