ミオヤマザキ×「明日、私は誰かのカノジョ」をのひなお|“生きづらい”女の子たちのリアリティ

メンヘラと言われるけど、普通に描いているだけ

──ミオヤマザキとをの先生の共通点としては、世の中に対する違和感や怒りを強い表現で作品にしている点が挙げられると思うんですが、お二方はそもそもなぜそういった表現をしようと思ったんですか?

をのひなお

をの 私の場合、実は特に意識して強い表現にしようと思っているわけじゃなくて。普通に「こういう子がいたらこんな行動を取るよね」と素直に描いたものが、読者さんにはすごく強いインパクトで刺さってるという。

──なるほど。ご自身としては劇薬みたいな作品として描いている意識はないんですね。

をの ないですね。最初の頃は特に、本当に描きたいものを描いていただけなんです。「刺激強いでしょ」と思って描いたつもりはまったくなくて、「こういうことを思う子って絶対いるよね」「それに共感してくれる人もいるよね」という気持ちでした。

──そうでしたか。読ませていただいた限りでは、世の中への怒りに打ち震えていらっしゃるのかなと感じたもので……不思議ですね。

をの あははは。

mio 私も、「明日カノ」に怒りは感じないかも。

taka 俺もまったくないですね。

──皆さんにとっては共通して“普通のこと”なんですね。

mio そうですね。私もバンドを始めた当時、「自分が思ったことを普通に書いてみたら?」と言われて、いざ歌詞を完成させたらメンヘラと言われたので、そういう部分も一緒だなと思いました。

をの 受け取る方の感覚次第な気がしていて。mioさんもごく普通の感覚で歌詞を書かれていると思いますし、私も自分が見ていることや考えていることをそのまま描いたら、「このキャラはメンヘラだ」「なんて強い表現のマンガなんだ」と言われたりするので、人によって“普通”の感覚は違うんでしょうね。

──takaさんも、音作りの際に「強い表現をしよう」と意識することはあまりないですか?

taka そうですね。mioの書いた歌詞を読んで「これは強い感情だ」と感じたとしても、じゃあバンドでめちゃくちゃ激しい音で表現するのかというと、そこはイコールにはならないですね。逆にバラードにすることもあるし。結局、うちのバンドは「mioがやりたいことをやる」が最大のテーマなので、何か狙って曲を作るというよりは、そのときmioが表現したいことをバンドとして追求し続けているだけなんですよね。

mio 自分で書いた歌詞の中で、「このワードをもっと際立たせたい」というときは、デモの段階でそこに楽器隊のカッコいいフレーズがあったとしても、全部カットしてブレイクにしてもらうこともあります。

taka(左)とmio(右)。

taka あくまでも歌詞が最優先なので。最初の頃、mioに「好きなように書いて」と伝えたら、その後送られてきた歌詞がA4用紙4枚分くらいの量だったんですよ。そのまま全部をメロディに乗せたら曲の長さが10分超えちゃうなと思ったんですけど、mioの言葉は削っちゃいけないし、俺も削りたくなかったので、そのままどう生かすかを考えた結果、「もう、しゃべれ!」と。それでミオヤマザキの特徴の1つである、語り口調のスタイルが生まれたんです。

──「こういう路線をやったら面白かろう」ではなく、やるべきことをやった結果、たまたまほかのバンドとは違う表現になっていったと。

taka そうです。

mio ライブのときとかは、その分たくさん歌詞を覚えなきゃいけないから大変なんですけど(笑)。

──ミオヤマザキの音楽も「明日カノ」も、どちらかというと作品で描かれるディテールの部分が評価される傾向にあると思うんですけど、核にあるのはあくまでも人の気持ちの揺れ動きですよね。人の心を打っているのは、そういった人の感情の機微をまっすぐに捉えている部分であって、ディテールはそれをより強固に表現するための手段に過ぎないというか。

をの そうですね。先ほどおっしゃっていた“強い表現”というような、それぞれの作品の派手な部分が注目されがちだと思うんですが、人の気持ちを普通に表現しているという核の部分は一緒なのかなって。だから、みんながミオヤマザキさんの曲をメンヘラと言ってるのが私にはちょっとわからなくて、普通に「めっちゃいい曲だなー」「わかるー」という気持ちでしか聴けないんですよね。

──なるほど。先生は核の部分で共鳴してるから、そもそもミオヤマザキの音楽を聴いてもまったく違和感を感じないわけですね。

をの そうですね。変わっているなと感じたことはないです。

──ミオヤマザキの一番正しい聴き方という感じがしますね。

mio ね。すごくうれしいです。

パパ側の人たちにも広まってほしい

──今回の新曲「アスカノ」は、LINEのデジタル音源流通サービス・SOUNDALLYを通して配信リリースされます。「この曲がこんなふうに聴かれたらいいな」というイメージはあったりしますか?

taka(ミオヤマザキ)

taka  SOUNDALLYからのリリースだとLINE MUSICでも曲が聴けるんですよね。で、LINE MUSICのアプリをダウンロードしている人は、配信楽曲をLINEのプロフィールのBGMに設定することができるじゃないですか。だから、例えばですけど、パパ活をしている子たちにこの曲をBGM設定してもらって、その子のアカウントを見たパパ側の人たちにも、マンガと一緒にバーッと広まってくれたらいいなと思いますね。

──パパ側の人がこの作品を読んだら、けっこうダメージを食らいそうな気がしますけども(笑)。

taka それを狙ってね。「こんな気持ちでいるんですよ」というのが伝わればいいなと。

をの 実はマンガのほうはすでに、パパ側の方々にもけっこう読まれているようで。

mio えー! そうなんだ。マンガを読んで、女の子側の気持ちを勉強してるのかもしれないですね。

taka ミオヤマザキにキャバ嬢目線で歌った「水商売」(2015年発表)という曲があるんですが、それもけっこう歌舞伎町界隈で聴かれているんですよね。それと似たような広がり方をしたら面白いんじゃないかなと思います。

──ちなみにSOUNDALLYはLINE MUSICのみならず、Apple MusicやSpotifyといった各種配信ストアへの流通を手数料なしで一括代行してくれる、アーティストにとってフレンドリーなサービスで。ライブが実施しづらいご時世でもありますし、これから世に出て行こうという若手アーティストにも非常に有用なのではないかと感じます。

taka そうですね。音楽だけじゃなくマンガも同じだと思うんですけど、今はスマホで簡単にアクセスできるじゃないですか。よくも悪くも手軽になっているというか。でもその分、ミュージシャンにせよマンガ家にせよ、まずはたくさんの人に知られることが大事だから、俺らの立場からしたらそういったサービスはめちゃくちゃありがたいですね。

をの マンガの場合も、今はやる気さえあれば誰でも気軽にマンガを描けるし、商業化のハードルも下がってきているのかなと思いますね。その半面、誰でも描けちゃうからこそ飽和状態というか、何か光るものがないとこの世界で残っていくのは難しい。「明日カノ」もそうですけど、やろうと思えば全部無料で読めてしまうので、誰かの心にしっかりと響くものを描いていかないと、それだけで終わっちゃうと思うんです。

──読者にとって、何かしら特別なものにならないといけないわけですよね。

をの そうです。それはもしかしたら音楽も同じなのかなと、takaさんの話を聞いて思いました。ちなみに「明日カノ」は章ごとに主人公や物語そのものが変わっていくので、面白いことに読者さんがけっこう入れ替わるんですよ。もちろん作品を通して読んでくれている方もいるんですが、「私はホストにハマっているから、ホストの章が好き」とか「私は整形してるから整形の章だけ好き」とか、いろいろな方がいて。皆さんが飽きないように、試行錯誤しながら描いています。

あいつはヤバいですよ

mio 今さらですけど、このマンガって、をの先生の実体験ではないんですよね?

をの それ、けっこう読者さんにも聞かれるんですけど……言っちゃえば、すべて実体験であり、すべて実体験ではないとも言えます。私がいろんな場面で実際に感じた気持ちや、人から聞いた話だけど誰かが抱いた感情を抜き取って、架空のストーリーに当てはめて描いているので、出来事としては実体験ではないんですけど、そこにある感情は実際に感じたものなんです。

taka 近しい友人とかの体験を描いているパターンもありますか?

をの ありますね。友達の話を聞いて「それ描いていい?」とか。もちろんそのまま描くんじゃなくて、物語の流れに沿って脚色することもあるんですけど。

taka レンタル彼女を派遣する事務所にしても、ホストクラブの店内にしてもそうなんですけど、先生の作品はそういう普段は見られない世界の描写がちゃんとリアルだなと思うんですよ。

mio(ミオヤマザキ)

mio 私もそう思う。

をの そういう“ガワ”の部分に関しては、実際にそういう現場で取材をさせてもらったうえで描くようにしています。takaさんにも先日、飲みの席でミュージシャンの身の回りに関するお話を伺ったので、それもしっかり作品に生かしていければと思っています。

mio え、次の話にtakaが出てくる?(笑)

をの takaさんは出てこないですけど(笑)、今描いている話にミュージシャンの男の子たちが出てくるので、「この描き方でおかしくないですか?」ということをtakaさんに伺いました。これは余談なんですけど、私としてはその話でミュージシャンの男の子を普通に描いてるつもりなのに、なぜか読者の方々からは「あいつはクズだ」と言われていて……。

mio ミュージシャンの男なんて、クズしかいないですもん。

をの そんな(笑)。私はあくまで“いい男の子”として描いたのに、読者さんの目にはそう映っていないんだなと。これで本当のクズを登場させようとしたら、どうなっちゃうんだろう。今までだって、そんなにクズな男性を描いたつもりはないんですけど……。

mio いや、整形依存の彩の彼氏は最悪ですよ! 友達の奥さんと比べて、「彩にはあんなふうになってほしい」と言い出したときは、ホントあり得ないって思った。アッタマくる!

taka 確かにあれはヤバい(笑)。

──ちゃんと自分の頭で物事を考えて判断したいタイプの人は、もれなく彼のことが嫌いだと思います(笑)。彼は自分で考えることを放棄していたキャラクターですから。

をの あははは。でも、彼は普通にお金もあるし、顔も悪くないし、ほかの夫婦と比べたりはするかもしれないけど、べつにDVもしないし……。彼を「優良物件だ」と思って付き合う人も絶対いると思うし、一般的には“いい彼氏”と捉えられるキャラとして描いたつもりだったんですけど、皆さんの感覚は意外と違うんですね。

mio  「DVもしないし」って、“いい彼氏”のハードルが低い(笑)。

をの あははは。でも、同じ男性のtakaさんから見てもそう思うということは、相当ダメな男だったんですね?

taka あいつはヤバいですよ。彩の気持ちをわかっていなさすぎる!

をの そうなんだ……。気付きがありました。教えていただきありがとうございます(笑)。

左からtaka(ミオヤマザキ)、をのひなお、mio(ミオヤマザキ)。
ミオヤマザキ
ミオヤマザキ
2013年に東京で結成されたmio(Vo)、taka(G)、Shunkichi(B)、Hang-Chang(Dr)からなる4人組ロックバンド。2014年にシングル「民法第709条」でメジャーデビューを果たし、2016年に1stフルアルバム「anti-these」をリリースした。以降もコンスタントに楽曲を発表しながら、ライブ活動を積極的に行う。2019年に東京・日比谷野外大音楽堂、大阪・大阪城音楽堂での単独公演および47都道府県ツアー、Zeppツアーを行い、2020年には自身最大規模となるワンマンライブ「私を愛してくれないなら死んで」を神奈川・横浜アリーナで開催した。2021年9月にをのひなおによるマンガ「明日、私は誰かのカノジョ」とのコラボソング「アスカノ」を配信リリース。
をのひなお
をのひなお
マンガ家。2019年よりスマートフォン向けマンガアプリ「サイコミ」にて、幸せを探し求める“生きづらい女性たち”を描いたオムニバス形式の作品「明日、私は誰かのカノジョ」を連載中。2021年9月に同作の8巻が小学館から発売された。