ミオヤマザキ×「明日、私は誰かのカノジョ」をのひなお|“生きづらい”女の子たちのリアリティ

ミオヤマザキの新曲「アスカノ」が、9月26日に新デジタル音源流通サービス・SOUNDALLYから配信リリースされた。

今作は、スマ―トフォン向けマンガアプリ「サイコミ」で連載中の人気マンガ「明日カノ」こと「明日、私は誰かのカノジョ」とのコラボソング。「明日カノ」は、レンタル彼女、パパ活、水商売など、さまざまな境遇に身を置きながら幸せを探し求める“生きづらい女性たち”を描いたオムニバス形式のマンガで、同作品と連動したタイトルを冠した「アスカノ」は、マンガのストーリーとシンクロしながら、恋愛の“陰”を歌い続けるミオヤマザキらしさを存分に表現した疾走系のロックナンバーに仕上がっている。

音楽ナタリーではミオヤマザキからmio(Vo)とtaka(G)、「明日カノ」の作者・をのひなおの3名に集まってもらいインタビューを実施。今回のコラボレーションについてのみならず、表現において共通項を多く持つ両者が、互いをどのように見ているのか語り合ってもらった。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 岩澤高雄

いつだって愛されたい

──ミオヤマザキのお二人とをの先生は、今回のコラボ以前からお互いのことをご存じだったんですか?

taka(G) 俺は最初知らなかったんですけど、周りはみんな「明日カノ」を知っていて。

mio(Vo) うちの友達も、みんな読んでるって言ってました。

をのひなお「明日、私は誰かのカノジョ」第1巻表紙 ©︎ Hinao Wono / Cygames, Inc.

をのひなお 私は、読者さんが「『明日カノ』とミオヤマザキは合う」みたいなことをツイートしているのをよく見かけていました。

──確かに、ミオヤマザキと「明日カノ」は、作品を通して強烈かつリアルな恋愛観や人生観を表現しているという点で、“近しい”を通り越して“ほぼ同じ”なんじゃないかというくらいですもんね。これだけ近いと、お互いの作品に対して「これ、自分で作ったんじゃ?」みたいに感じたりもするのでは?

mio 感じます! 「明日カノ」に出てくるセリフとか、私自身が言いそうなことだなって。「自分の言葉がこのマンガに書いてあった」という感じなんですよね。

──「なんで知ってんの?」みたいな。

mio そうそう、「私のこと詳しいね!」って(笑)。

をの 私も、mioさんの書かれる歌詞を見ると「そうそう、私もこういうことを伝えたかったんだよな」と思いますね。表現の仕方は違うんですけど、伝えたいことや考えていることの本質はたぶん同じなのかなと感じています。

mio うれしい。「明日カノ」は章ごとに主人公がどんどん変わっていく作品ですけど、愛がテーマになっているというところは共通していて、主人公はみんなそれぞれ違う形で病んでいて。それがこれまで私の書いてきた歌詞ともシンクロしていたから、ここまで近いものがあるって面白いなと思っていました。

左からtaka(ミオヤマザキ)、をのひなお、mio(ミオヤマザキ)。

taka 「明日カノ」は登場人物たちの心理描写がすごくリアルなので、物語の結末が気になって一気読みしたくなるタイプのマンガですよね。男性目線で読んでいると主人公の女の子たちに対して心が痛くなるシーンが多々あるし、あまりにも赤裸々なので「このマンガ、あまり広まってほしくないな」と思ってしまう自分もいるんですけど、すでにめちゃくちゃ広まっているという(笑)。

をの あははは。

──そもそも今回はどういった経緯でコラボ曲「アスカノ」を制作することになったんですか?

taka 先生とは共通の知人の紹介で交流を始めて。俺が最初にお会いしていろいろ世間話をしてたんですが、そのあとmioが先生とお会いして、その中でコラボしたいという話になったんだよね?

mio そう。先生とお話しながら、「絶対、うちの曲合う」って思ってしまったので(笑)。それでご一緒させていただく流れになりました。

──なるほど。今回の楽曲もmioさんが作詞、takaさんが作曲を担当されましたが、制作はスムーズに進みましたか?

taka そうですね。マンガのストーリーをなぞったときに、どんなサウンドを鳴らすべきかというのが自然と浮かんできたので。最終的にどんな形に落とし込むかは、めちゃくちゃ考えましたけど。

mio 歌詞の面で言うと、「明日カノ」の主人公が共通して抱えている「愛されたい」「うまく生きられない」という思いを一番表現したいと思いました。それで、どのキャラクターにフィーチャーして書くか一瞬迷ったんですが、マンガを読み進める中で、お金欲しさにパパ活をしたり、自分の寂しさをお金や男性との関係の中で埋めようと苦しんでいる女子大生のリナちゃんにすごく共感して。「私はリナちゃんだ」と思って書き上げて、レコーディングのときも過去の自分自身を思い出しながら感情を込めて歌いました。

「明日、私は誰かのカノジョ」を読むtaka(左)、mio(右)と、その様子を見つめるをのひなお(中央)。

をの ちょっと意外です。リナは、自分の存在価値を自分で決められない子というか、男の人に愛されることで初めて自分に価値を感じられるようなキャラとして描いたので……。

mio 私、それです。

一同 あははは。

mio 隠してるだけで、実際はそうなんです。

──mioさんは、あまりリナのように取り繕うタイプには見えないですけども……。

taka ううん、そんなこともないですよ。

──takaさんから見ても、mioさんはリナですか?

taka 確かにこの主人公たちの中で言ったら、そうかもしれないですね。

mio いつだって愛されたいんです(笑)。

名言集を読んでるような感覚

──曲作りはどんなふうに進めていったんですか?

taka 今回はmioが歌詞を書いているときに俺のほうでもデモを作っていたので、ほぼ同時進行でしたね。それを「せーの」で出し合ってみたら、お互いにすんなり「これだね」と納得できたというか。

──別々のところでそれぞれ書いたものが、示し合わさずともぴったり合致したと。

taka そうです。

をの その楽曲が完成するまでのスピード感がすごくて。「アーティストの方ってこんなにすぐ曲を作れちゃうの?」とびっくりしました。

──をの先生とは楽曲のイメージなどについてやり取りされていたんですか?

mio 特になかったですよね。

をの はい。歌詞についてもmioさんの世界観でやっていただければと思っていたので、私から要望などはまったく出さず。

──それは、「mioさんは“ミュージシャン版をのひなお”だ」くらいの感覚で信頼があったからですか?

をの そう言い切ってしまうとおこがましいですが(笑)、確かにそういう感覚はどこかにあって。曲の冒頭の「幸せと不幸せ 天秤にかけても 人それぞれ 意味なんてない」という部分の歌詞なんかは、私自身が「明日カノ」で描きたいと思っていたことだったので感動しました。あと、「幸せは麻薬だね」というフレーズにもハッとしました。

taka(左)、mio(右)。

mio はい、それは作中の雪ちゃんのセリフからいただきました(笑)。コンプレックスを抱えながらもレンタル彼女のバイトをしている雪ちゃんが、自分のお客さんに対して思った言葉なんですが、マンガを読みながら「この言葉はすごいな」と思ったのでメモっておいたんですよ。「明日カノ」は名言が多いので、本当は自分の中で引っかかったセリフは歌詞に全部入れたかったんですけど、さすがにそれはやりすぎだなと思って。

──なるほど。普段マンガなどを読むときに、「これ使おう」とメモすることはよくあるんですか?

mio 普段は全然ないです。でも、「明日カノ」には「これ使いたい」というフレーズがすごく多くて、まるで名言集を読んでるような感覚でした。

をの そんな。ありがとうございます。

mio ほかにも、整形依存の彩ちゃんというキャラがいるんですが、その子が彼氏と歩いていて顔の状態が気になり始めたときの「今すぐ美容外科予約したい」というセリフも大好きです。その気持ちもすごくわかるし、客観的に考えてもヤバいフレーズだなと思って。残念ながらそれは歌詞に盛り込めなかったんですけど。

をの 言葉のプロであるmioさんにそう言っていただけるとは……。恐れ多いです。