Sou×武市和希(mol-74)インタビュー|「ことばのこり」に込められた思いを昇華する表情豊かな歌声 (3/3)

仮歌の踏襲と自分の歌い方のバランス

──Souさんはレコーディングでどんなことを意識されたのでしょうか。

Sou 自分で楽曲を作るときは「ここはこういうふうに歌おう」というイメージが頭の中にあることが多いですし、いただく仮歌にも作った方の「こうしてほしい」という希望が詰まっていると思うんです。なので今回も武市さんの仮歌を聴いて、細かなニュアンスや息継ぎのタイミング、少ししゃくりあげる感じを汲み取りつつ、モノマネみたいになるのは絶対に違うので、ちゃんと自分の歌い方にするバランスをすごく意識しました。その両方の要素が混ざり合うことを目標にレコーディングしました。

武市 確かにそう言われてみると、歌のしゃくり方とかは仮歌を踏襲してくれていますね。でも、それに加えて僕には絶対にできない声色がたくさん使われていて。Souくんは声の表情が豊かなので、それによって「ことばのこり」という楽曲の深みが増したように感じました。

Sou 声の表情や感情の作り方に関しては、やりすぎてしまうこともよくあります。僕は歌い方のアプローチとして、ちょっとセリフ寄りというか、フレーズごとでセリフのように歌うことが多いのですが、色を付けすぎて自分で冷めることもあるんですよ。僕は自分の家で歌を録っているので、何回も繰り返し歌ってバランスを調整したり、通しで歌ったあとに聴き直して、感情を乗せすぎたなと思って直すことも多いです。

Sou「ことばのこり」ミュージックビデオより。

Sou「ことばのこり」ミュージックビデオより。

武市 そこまで細かく考えて歌ってるんだ。すごい。そういえばアルバムの11曲目の「バブル」にもセリフっぽいところがありましたけど、あれもフックになっていて、すごく耳に残っていますね。

Sou ポエトリーっぽい部分ですよね。ありがとうございます。

──「ことばのこり」の話で言うと、歌詞の中に「もう、行かなきゃ」というフレーズが何度か登場しますが、冒頭とラストでニュアンスの付け方を変えていますよね。

Sou ああ、気付いてもらえてうれしいです。そこはめっちゃ意識していました。

武市 めちゃくちゃいい「もう、行かなきゃ」でした。自分がデモで歌ったときは、最後の「もう、行かなきゃ」が全然うまくいかなかったんですよ。「どう歌ったらいいんだろう?」と悩んで。でも、Souくんならうまく歌ってくれるだろうと思って、「あとは頼んだ!」という感じでデモを送りました(笑)。

Sou そうだったんですね(笑)。「もう、行かなきゃ」のニュアンスを変えることで、楽曲を通して気持ちが立ち直っていくイメージを強調したくて。

武市 まさに。終盤のほうが、力強くて前向きな感じがしました。

Sou そうですね。終盤の「もう、行かなきゃ」は、まだ胸につっかえるものはあるけど、それでも最初よりは……というような塩梅を探って録りました。その中でも、最後の「もう、行かなきゃ」だけは1テイクで決めました。

武市 えーっ! 僕、10テイクくらい録ったけどわからなくなってしまって。お任せしてよかったです。

Sou 武市さんの「もう、行かなきゃ」も素敵でしたよ。

武市 いやいや、僕のは全然“行けて”ないです。そこまでこだわって歌ってもらえてうれしいですね。

mol-74の音楽は僕の中にDNAレベルで溶け込んでいる

──武市さんはSouさんのアルバムを聴いてどんなことを感じましたか?

武市 楽曲の雰囲気や世界観はそれぞれいろいろなものがあって、例えば「ことばのこり」はほかの楽曲とはキャラクターが違う気がするんですけど、そういったいろんな12曲がSouくんの歌でつながっているので、ボーカリストとして本当に素晴らしいなと思いました。中でもSouくんが作詞作曲している「センス・オブ・ワンダー」がすごく好きで。アルバムの1曲目から6曲目まで、激しいギターロックやBPMが速い曲が続いてきた中で、この7曲目の「センス・オブ・ワンダー」で世界観がガラッと変わってエモい雰囲気になるのがいいですね。

Sou ありがとうございます! 僕のアルバムは毎回、1つのコンセプトに合わせて作っていくというよりも、そのときにご一緒したいアーティストの皆さんにいろんな楽曲を書いてもらって1つのアルバムとして完成させる作り方をしていて。その中でも今回は、自分で作った楽曲を中心にアルバムの世界観がまとまっていけばと思っていました。そう考えて作ったのが「センス・オブ・ワンダー」だったので、意図が伝わってうれしいです。

Sou「センス・オブ・ワンダー」通常盤ジャケット

Sou「センス・オブ・ワンダー」通常盤ジャケット

武市 僕はこの曲のメロディラインが好きなんですよ。Souくんはもともとボカロ系の歌い手で、最初は正直、いわゆるボカロ然とした楽曲と、mol-74の楽曲が好きという部分が、自分の中ではつながらなかったんです。でも「センス・オブ・ワンダー」を聴いたときに、自分とつながる感覚があったんですよね。

Sou それはすごくうれしいです。この曲を作るときに直接意識したわけではないですが、やっぱりmol-74の音楽は僕の中にDNAレベルで溶け込んでいるので。

武市 あと「センス・オブ・ワンダー」の歌詞で思ったのは、もしかしたら“願いの強度”も自分と近い感じなのかなと。この曲は「絶対にこの願いは叶う!」という100パーセントの強度というよりも、「叶うかな……叶ってほしいな」という感じがしました。

Sou ちょっと自信がなさげな感じというか。

武市 そうそう。その感じは僕の書く歌詞とも共通しているなと思って。僕も強い願いというのは書かないんですよ。それこそ「ことばのこり」も、“君”が残してくれた言葉や“君”ならこう言うだろうなという言葉を信じて「前を向いてみようかな……?」というニュアンスで。そういった願いに対しての捉え方や、不安や切なさ、哀愁の混入具合いは、近いものを感じます。

──お互い通じ合う部分は多そうですし、今回のコラボレーションはお互いにとって実りのあるものになったのではないでしょうか。

武市 mol-74の楽曲は基本的に僕が歌うので、武市和希が歌っている世界しか見えないですし、それがmol-74の1つの形としてあるわけですが、今回の「ことばのこり」のように、ある種、僕以外のボーカルが歌うことで完成するものがあることが、僕の中では新発見で、すごく刺激をもらいました。バンド内だけでは味わえない感動を与えてもらったので、歌ってくれて本当にありがとうございます!

Sou こちらこそありがとうございます! 僕としても今回、今までの活動から一歩外側に広がっていく中で化学反応が起こって、すごくいい経験ができたと思いますし、もっともっと楽しいことをしていきたいという気持ちも増えたので、今回きりで終わらずにまたご一緒したいです。

武市 ぜひやりましょう! 一緒に歌う曲とかやってみたいですよね。

Sou うわー! それはめちゃくちゃ熱いですね。またお願いします!

Sou ツアー情報

Sou LIVE TOUR 2024「センス・オブ・ワンダー」

  • 2024年8月8日(木)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
  • 2024年8月10日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2024年8月15日(木)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年8月23日(金)中国 MAOLivehouse広州永庆坊
  • 2024年8月25日(日)中国 バンダイナムコ上海文化センター 夢想劇場
  • 2024年9月22日(日・祝)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール

プロフィール

Sou(ソウ)

インターネットの世界を原点とするボーカリスト。YouTubeチャンネル登録者は150万人、X(旧Twitter)のフォロワー数は60万人を超える。2018年に発売したEveとのコラボレーションアルバム「蒼」がスマッシュヒットし、2019年3月には初の自作曲「愚者のパレード」を公開。同年7月発売の2ndアルバム「深層から」を携えて行った初の東名阪ワンマンツアー「深層から見た景色」は全公演がソールドアウトした。2022年6月には3rdアルバム「Solution」を発表。活動10周年を迎えた2023年4月にシングル「ネロ」を配信リリースした。2024年7月に4thアルバム「センス・オブ・ワンダー」を発売。同年8月から9月にかけて中国を含むツアー「Sou LIVE TOUR 2024『センス・オブ・ワンダー』」を行う。

mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)

武市和希(Vo, G, Key)、井上雄斗(G, Cho)、坂東志洋(Dr)の3名で2010年に京都で結成。2017年に髙橋涼馬(B, Cho)が加入し現在の4人体制になる。日常にある身近な感情を歌う武市の透き通るようなファルセットボイスを軸に、北欧ポストロックを思わせる繊細な音作りで注目される。インディーズで計5枚のミニアルバムをリリースしたのち、2019年4月に1stアルバム「mol-74」でメジャーデビュー。2022年3月に2ndフルアルバム「OOORDER」を発表。同年に自主レーベル「11.7」を設立した。2024年5月には3rdフルアルバム「Φ」をリリース。9月に東京・新代田FEVERでライブイベント「9.9 to 10 -YouTube」を開催する。