そらるが描く“子供”

──シングルには「ゆきどけ」という新曲が収録されていますが、この曲はシングルのために書き下ろしたものですか？

そうですね。ロックバラードを書こうと思って。本当はもうちょっと柔らかい仕上がりになるはずだったんですけど。気持ちいいほうにサウンドを寄せていったらいつの間にかこうなってました。

──歌詞は切ない男女の別れを描いたものですが、深読みするといろんな背景が浮かんでくるような気もして。

あまり種明かしはしたくないんですけど、必ず別れが訪れる男の子と女の子の歌です。設定と言うか、ちゃんとストーリーを思い描いたうえで作詞してるんですけど、歌詞として書くときはストーリーをそのまま伝えるのではなくて、比喩的な表現に置き換えることが多くて。歌詞を読んでどういうストーリーなのか思いを巡らせてほしいんですよね。

──歌詞の種明かしに触れない形で歌詞について伺いたいんですが、そらるさんの書く歌詞や歌う曲には“子供と大人の対比”がよく出てくるように感じているんです。「ゆきどけ」には「僕たちは子供のままだ」という歌詞が書かれています。

言われてみれば「ゆきどけ」も「嘘つき魔女と灰色の虹」も同じで、子供の視点で書いた歌詞ですね。自分の中では大人って、嘘つきで都合のいいように生きてる人間ってイメージがあるんです。ただそれは単純に悪いことではなくて、大人になることで守らないといけないものが増えたり、大きな責任を負ったり、それなりのプライドを持ったり、そういったいろいろなことが積み重なって1人の人間が形成されていくわけで。中には大人になりたくないのに大人になってしまった人だっていると思うんです。

──そらるさん自身は「大人になりたくないのに大人になってしまった」という自覚はあるんでしょうか？

こんなことを言うとズルいかもしれませんが、半分くらい自覚している感じですね。自分はまだ半分子供でいると思っているんです。

──その思いは音楽にどう影響を与えていると感じていますか？

音楽や物語を作るとき、自分は主人公として立っているのは子供であってほしいんですよね。そこには、「その子と同じ目線でいたい」という自分の願いみたいなものも入っている。だから気持ちはまだ子供なんです。これは別に自分が音楽をやっているからとかは関係ない気がしていて、多くの人は「いつまでも子供でいたい」って願望を持っていると思うんです。でもきっと、成長して日々忙しく過ごしているとだんだんそういう気持ちが薄れてきて、忘れてしまったときにようやく大人になるのかなって。だから自分はまだ半分子供なんだと思うんです。

──そらるさんのリスナーには中高生も多いので、現実に「子供」と呼ばれる人たちにも楽曲が届くわけですよね。

そうですね。ただ自分が描いている「子供」はやっぱり大人から見たものですから、どうしても「こうあってほしいもの」になってるとは思うんです。だから現実の子供はもっと擦れているかもしれないし、実はもっと純粋かもしれないし、意外と夢を持っていない子だって多いかもしれない。でもフィクションって大げさであっていいものだから、自分が描く子供の像は自分の理想像であっていいと思うし、音楽に触れたときの感じ方だって千差万別でいい。いろんな人がいろんなことを思ったり、考えてくれたりしたらそれで十分かなって思っています。

10周年ツアーは集大成的なライブに

──2019年3月から4月にかけては全国ツアーが開催されます。どんなライブにしようと考えていますか？

自分が動画を投稿し始めて10周年の記念すべきタイミングでもありますから、集大成的なライブにできればいいなと思っています。そらるという自分の歴史が伝わるようなものにして、応援してくれた人に懐かしんでもらえるような曲も歌いたいですね。もちろん初めてライブに来てくれる人にも、自分の人柄やこれまでやってきたことが伝わるようなライブにしたいです。

──そらるさん自身は、自分の10年の歩みを振り返ってどういうものだと思いましたか？

そもそも自分は遊びのつもりで動画投稿を始めて、言ってみれば状況に流されてここまでたどり着いた側面もあると思うんです。具体的な何かを目指しながら歩いてきたわけではないし、都度都度で決断を迫られて悩んだことも、何かに失敗したこともたくさんあった。でもやっててよかったと思える10年ではあります。楽しさとつらさ、どっちが多かったかって言われるとわからないですね（笑）。ただ、総合的に見てとても恵まれているなとは思います。

──実際は違うんですか？

恵まれているし、すごく幸せではあるんですけど、もし違った道を進んでいたらもっと悩みは少なかっただろうなって思うし、こんなに苦しむ必要もなかったんだろうなと思うこともあるんです。もちろん、違う道を歩んだ先でほかの悩みにもぶつかるだろうから、後悔してるとか、そういう意味ではないんですけど。ただ、それでも「やってよかったな」と思えるということは、今の自分はきっと幸せなんだろうと思います。

──メジャーレーベルからCDをリリースして、幕張メッセ2DAYSを含む大きなツアーも準備段階に入っているとなると、今後もソロ活動は活発化していくものだと思います。そらるさん自身、今後の活動で何か叶えたいことはありますか？

あんまり具体的なものはないんですけど、欲を言うなら自分のことをもっと多くの人に知ってもらいたい。自分の書いた曲や歌った曲が広まって、こういう音楽をやる人なんだっていうのを広めたいってことくらいで。あとは素敵な作品とのタイアップや、憧れの人と音楽で関わりを持てたらそれはすごく幸せなことだなって思いますが、やっぱり漠然としてますね（笑）。目標っていつも何を言っていいかわからなくなるんですよ。現実的な目標を話せるほど自分に自信がないので。

──10年活動を続けてきて、横浜アリーナのような大舞台での単独公演を埋めているわけですから（参照：そらる、満員の横アリ単独公演でツアー完走「夢みたいな日になったよ」）、自信を持って何か宣言してもいいような気もしますが……。

今回のツアーファイナルの幕張メッセ2DAYSも「やれるわけないよ」って思いと「やってみたい」って思いがどっちもあるんです。基本的にネガティブな性分が出ちゃってるんだと思いますけど、最近は「やれるわけない」って言っててもしょうがないなって思うようになってきて。やるしかないし、これまでもそれで乗り越えてきたわけですから。きっといいライブになるって信じて向かうことにします。