ナタリー PowerPush - ソノダバンド
合い言葉は「ロックでいこう!」2ndアルバム「疾走」リリース
ソノダバンドがEMIミュージック・ジャパン移籍第1弾作品となるメジャー2ndアルバム「疾走」(はしれ はしれ)をリリースした。
この1年の幅広い活動を経てついに完成した本作は、意外なほどにロック色を強めた意欲的な作品となった。インストゥルメンタルバンドとして独自の個性を放つ彼らが、ここに来て方向性を大きく変化させたその理由とは? 6人へのインタビューでその秘密を解き明かしていこう。
取材・文 / 大山卓也 インタビュー撮影 / 中西求
前作「ルネサンス」は過渡期のアルバムだった
──前回インタビューしたときに「次はわかりやすくロックなアルバムを作りたい」という話をしていましたが、今回その予告どおり見事なロックアルバムになりましたね。
園田涼(Key) そのあたりの話はやっぱりギタリストに訊くのがいいんじゃないですかね(笑)。
──アルバム全編通して、歪んだギターがたくさん鳴ってますもんね。
赤股賢二郎(G) 前作は全体的にクリーンでアコースティックな響きのギターが多かったんですけど、今回は歪みっぱなしで、ギターがサウンドの核になるような曲が増えたんですよね。それがロックな印象につながってるのかなと思います。
──バンドにとっては結構な冒険だったと思うんですが。赤股さんが暴走してこうなったっていうわけではなく?
赤股 違います(笑)。ロックバンドっぽくなっていったのは、最初にアメリカでライブをしたときからで、自然な流れですね。
園田 そもそも曲を書いてる人間からすると、ボーカリストってものすごく大きい存在で、インストバンドとしてはうらやましいっていう気持ちはあるんですよね。インストでシンプルなロックをやるっていうのはどうしても難しくて、作曲者としてこのバンドで曲を書いてきた5年間、ずっと悩んできたところなんです。で、僕の中の実感としては前作の「ルネサンス」がちょうどその過渡期だったような気がしていて。
──インストのシンプルなロックへたどり着く過渡期?
園田 そうです。あの時点で手応えがあったんですね、もっとシンプルにやっても音楽的に深いところにいけるんじゃないかっていう。それから1年、さらに新しい曲を書いていく中で、自分も作曲家として成長して、ようやく本当にそういうシンプルなバンドサウンドの上でボーカリストじゃない弦楽器がメロディをとるっていうスタイルが見えてきたんです。
──確かに全体にシンプルで音が太くなったし、これを聴くと「ルネサンス」はまだ上品な部分が強かったな、と気付かされます。
園田 まず僕の書く曲が変わってきて。それに応じる形で、ギターにディストーションをかけるようになったり、ドラムパターンがシンプルになったりして。そういうところは楽曲ありきで、楽曲が求めるアレンジをしているだけなんです。
──リズムパターンがシンプルになって、ドラムはプレイしやすくなりましたか?
小山田和正(Dr) いや、どっちかというとシンプルだからこその難しさがすごくあって。アルバムのレコーディングを終えて、どう叩けばいいのか、やっと見えるようになったかなっていう感じです。
──ベースは?
牧瀬崇之(B) 今回はものすごく魂を込めて演奏した気がします。アスリートみたいに集中して。同期とかコンピュータを使わず生で6人で音を出してるからっていうところもあると思うんですけど。
──アスリートっぽいというのは、シンプルなロックバンドっぽいということ?
牧瀬 どうなんですかね。自分たちでは全然わかんないんですけど。
──制作中に「ロックでいこうぜ!」みたいな話はしたんですか?
牧瀬 それはありました。
園田 うーん、「ロックでいこうぜ!」って言ってる時点でロックじゃない気もするんですけど。
一同 あははは!(笑)
このメロディに歌詞をつけても歌うことはできない
──ボーカリストなしでロックをやる難しさは感じますか?
園田 僕らはインストをやってるからこそ、逆に歌モノの音楽を強く意識するところはあるんですよね。例えばジャズやフュージョンも、ある意味歌モノに対抗するためにちょっと変わったリズムだったり、派手なソロだったりっていうのを組み入れて張り合うしかなかったんじゃないかなって思ってるんです。そうやってジャズやフュージョンは今から数十年前にひとつの完成を見てるわけで。ただ、21世紀を迎えた今、僕ら20代の人間がインストをやるっていうときに、そこをなぞっても仕方ないというか。だから僕らはあの時代のインストとは違った形で、歌モノを意識しつつ、新しいバンドサウンドを作りたいんです。
──ソノダバンドの場合は、歌メロにあたる部分をバイオリンやチェロの旋律が担当しているわけですよね。
園田 はい。でもだからと言って、このアルバムに入ってる曲に誰かが歌詞をつけて歌えるかっていったらそれは難しいと思うんです。人間が歌いやすいメロディラインと弦楽器が歌いやすいメロディは別物だから。
──なるほど。そのあたり熱田さんはどう捉えてるんですか?
熱田哲(Violin) 曲にもよりますけど、基本的にはそうだと思います。楽器は声に比べれば音域にもあんまり制限はないし、音がポンポン飛んでもそんなに弾きづらいとかっていうのはないんで。歌だとやっぱり近い音域の音が並んでることが多いし、ポンポン飛ぶと歌いづらいんだろうなと思いますけど。
橋本怜(Cello) チェロのメロディに関して言えば、今回はテクニカルな部分が減ってシンプルになりましたね。その分、奥は深いんですけど。でもシンプルで弾きやすい曲ばっかりでした。
園田 あと、シンプルなメロディっていうものの意味合いが、楽器と歌で違うような気がしてるんですよね。例えば「はしれ、はしれ」っていう曲のピアノのメロディはすごくシンプルで、「ラソファミレドシラ・シラソファミレドシ」って、ただ音階を降りてくるだけなんですけど、あれに日本語の歌詞をつけようとしてもハマる歌詞はないと思うんですよ。
──ああ、そうかもしれません。
園田 でもなぜかそういうメロディがインストの曲としては非常にポップに聴こえて、リード曲になってしまうという。これが音楽の不思議なところだと思います。
CD収録曲
ソノダバンド
園田涼(Key)、熱田哲(Violin)、橋本怜(Cello)、赤股賢二郎(G)、牧瀬崇之(B)、小山田和正(Dr)からなる6人組インストゥルメンタルバンド。2006年に大学の音楽サークルで結成。都内ライブハウスを中心に活動を開始し、インディーズで2枚のミニアルバムを発表。2010年3月に米テキサス州オースティンで開催された「SXSW」に出演し、現地の音楽ファンの熱狂的な支持を得る。同年5月に初のフルアルバム「shiftrise」をリリースし、10月にはFlyingStar Recordsよりアルバム「ルネサンス」でメジャーデビュー。その後も精力的なライブ活動を重ね、2011年11月にはEMIミュージック・ジャパンからアルバム「疾走(はしれ はしれ)」を発表。