SOMETIME'S|新作音源「Slow Dance EP」で鳴らす、2人だからこそ紡げる音楽

3人目のSOMETIME'S

──SOMETIME'Sの楽曲の多くの編曲を手がける藤田道哉さんというのはどういう方ですか?

SOTA 彼はほぼ「3人目のSOMETIME'S」みたいな立ち位置です(笑)。

TAKKI 近所に住んでいるので、2人で録ったデータを持って、藤田の家に行ってアレンジしてます。3人で集まれれば3人で、もしくは僕と藤田、SOTAと藤田みたいになるべく同じ現場に居合わせてアレンジを進めるようにしています。仕事をお願いしている関係というより、地元の仲のいい仲間みたいな感覚が強くて、3人集まったのに結局無駄話だけして終わっちゃった、みたいな日もけっこうあります(笑)。

SOTA ちゃんとやるときは3人でリファレンスを挙げ合いながらサウンド感とかを煮詰めているよね。まあだいたい無駄話だけど。

TAKKI 僕らは2人組なんですけど、なんでもできる2人組じゃないんですよ。僕はギターと作詞以外何もできなくて、トラック作りはできない。SOTAはピアノを弾けるんですけど、基本的に機械系がまったくダメで、DAWで音楽を作るのが向いてない。

SOTA 作曲のクレジットに名前が載ってますが、僕は基本的にボイスメモに記録するかピアノでちょっと弾くくらいしかできないので(笑)。

TAKKI SOTAがメロディを生み出して、それをアレンジャーに渡せるまで落とし込むのが僕の役割。そこから先は藤田の力を借りつつ、レコーディングにはいろんな方々の力を借りて……というのがSOMETIME'Sなんです。

──「Never Let Me」の冒頭に入っているエンジン音や、「Raindrop」の冒頭に入っている雷鳴のようなSEは藤田さんのアイデアなんですか?

TAKKI SE的なサウンドは藤田を含めた3人でいろいろアイデアを出し合いながら入れています。このエンジン音に関しては藤田が乗ってるバイクの音をガレージで録りました(笑)。

SOTA サンプリングへのこだわりはけっこう強いかもね。

TAKKI 藤田がジョインした頃からサンプリングを突発的に入れるようになったんです。それも素材を探してもらうんじゃなくて、音を直接録るのが好きなんですよね。キックの音を冷蔵庫のドアの開け閉めの音にしたり、道路の真ん中にiPhoneを置いて、その上を通る車の音を録音したり(笑)。

SOTA 道路での録音は面白かったね。コンデンサーマイクを置くんじゃなくて、録音ボタンを押したiPhoneをあまり車が通らない道路に置いといて、その上を車が通るのを2時間ぐらい待ってました。iPhoneが粉々になってもおかしくなかったよね。

TAKKI もう僕ら30代なんですけど、藤田と一緒にいると小学生みたいな面白いアイデアが出てきて、それを実行したくなっちゃうんですよ。特に今はデスクトップミュージックの精鋭たちがどんどん頭角を現してきている時代なので、僕らはSOMETIME'Sとしてそこにどう自分たちなりのアプローチをするかをすごく考えています。育ってきた環境が似てきたこともあって、僕とSOTAは自分たちの感性が似ているし、藤田も挑戦的な試みをビビらず提案してきてくれる人なので、安心して自分らの音楽を追及できている感覚はありますね。

SOTA 機械が一切使えないこともあって、もし自分が今10代だと思うとすごく怖いよね。

TAKKI それは僕も思うな。2020年代に10代だったら全然違う音楽になっていただろうし、自分がちゃんと音楽と向き合えていたかどうかもわからない。ライブに出たことがない人がめちゃくちゃ売れてしまうことを僕は怖く感じてしまうので、ライブハウスでライブをやれてよかったと思っています。過渡期と言えるこの時代に30代になって、ギリギリ大人と言える年齢で戦えているのはすごく幸運なことだと思います。

2人組だと逆に大人数でやれる

──先ほど「SOMETIME'Sはなんでもできる2人組じゃない」とおっしゃっていましたが、それこそ何かができる人を集めてユニット自体の構成員を増やす選択肢もあったと思うんです。SOMETIME'Sというユニットが2人組にこだわるのはなぜですか?

SOTA お互いにバンドをやってきて、4人も5人もいると意思決定が遅くなるのを感じていて。いろんな意見が出て物事が進まなくなると「ああ、もうめんどくせえな!」ってなっちゃうんですよ(笑)。

SOTA(Vo)

TAKKI 僕とSOTAは音楽を続けたかったのにバンドを解散することになって、その原因を2人ともどこかほかのメンバーのせいにしていたと思うんです。当時はほかのメンバーと運命共同体になりきれていない感覚があったというか。単純に人数で表せるものではないけど、僕とSOTAの2人なら絶対に運命共同体として活動できる確信があったんですよね。

SOTA 2人だからできることが少ないわけじゃなくて、2人しかいないのでいろんな人に声をかけて逆に大人数でやれる可能性があるとも捉えていて。

──おっしゃる通り、今作のサポートミュージシャンには冨田洋之進(Omoinotake)さんやKeity(LUCKY TAPES)さんをはじめとしたさまざまな方が参加しています。

TAKKI ホーンアレンジに関しては永田こーせー(EMPTY KRAFT)さんにお任せしていて、こーせーさん自身にもサックスで参加してもらっていますし、かなりいろんなミュージシャンの方々に力を貸してもらってます。特に冨田にはけっこう長い期間ドラムを叩いてもらっているので頼りにしています。

SOTA 2人以外が全員サポートメンバーのほうが僕らとしてもやりやすいのかもしれないですね。任せるところは任せられるし、責任は僕ら2人が取ればいいだけなので。曲によっていろんな人に携わってもらって、チームとして1曲を完成させる形がすごく合っているんです。

──話を聞いていると2人ともすごく懐が深いですよね。

TAKKI そうですかね? ただ、僕ら2人とも30代になって、ある程度どっしり構えられるようになったのは確かだと思います。曲作りに関しても、もしもうちょっと若かったら、もっとピリピリして楽しめてなかったかもしれないし。もちろんこだわりはあるから僕らの意向を伝えることはあるけど、自分たちの役割を変に超えようとは思っていないし。ちょっとずつみんなで作っている今の感じがすごく楽しいんですよね。

結成当初に生まれた曲

──表題曲「Slow Dance」は、SOMETIME'S結成当初に制作された曲だと伺いました。どのようにして作った曲だったんですか?

TAKKI それがよく覚えていないんですよ(笑)。

SOTA 日吉駅のホームでボイスメモを吹き込んだことくらいは覚えてますね。それとレコーディングは今でもよく使わせてもらっている長野のスタジオに2人で行って録ったよね。

TAKKI そうそう。都内のスタジオでドラムとベースを録って、そのデータを持って長野でギターと歌を録りました。当時はお金がなかったので、僕ら以外のミュージシャンを長野に連れて行くお金がなくて(笑)。

──逆に言えば、どうしても自分たちの作業はそのスタジオでやりたかったわけですよね。

TAKKI はい。もともとはSOTAが前のバンドのときからお世話になっていたんだよね?

SOTA うん。小屋みたいな建物がぽつんとあるスタジオで、田んぼの中にあるから防音とかも全然してない(笑)。でもその環境がすごくよくて、今でも使わせてもらってます。確か当時「Slow Dance」を長野のスタジオで録って、ラフミックスを帰りの車で聴きながら帰ったんですよ。その音がすごくよくて、当時サラリーマンだった僕は「Slow Dance」のラフミックスを聴いて、SOMETIME'Sとして本気で音楽をやろうと覚悟を決めました。

──新曲を作り続けている中で、今回あえて「Slow Dance」を表題曲に採用した理由は?

「Slow Dance」ジャケット画像

TAKKI これは単にレーベルの方が粋な方だったからですね。「Slow Dance」は制作した当時から自信作だったんですが、自主制作音源がビックリするくらい売れなかったんですよ(笑)。でもアーティストにとって売れたか売れなかったかで曲の価値はあまり上下しないもので、売れなかったけど僕らにとっては大切な処女作としてずっと大事にしていたんです。それをIRORI Recordsの方が「表題曲にしたらどう?」と提案してくれて。

SOTA 実はアートワークも当時の自主制作音源のときの背表紙をそのまま使っているんです。

──約5年の歳月を経て「Slow Dance」という曲は、どう進化しましたか?

SOTA 単純に入れられる楽器の数が多くなりました。当時は藤田とも出会っていなかったので同期も入れてないし、管楽器も入れられなかったんです。

TAKKI 5年前はサウンドが小さくまとまらないように、ギターの倍音を増やして録ってみたり、いろんな試行錯誤をしていたんですよ。でも今はいろんな楽器が個性を出しながらサウンドを構築してくれるので純粋に楽曲が華やかな仕上がりになりましたね。

──作曲の段階では「ここにはこの楽器を入れたい」みたいな想定はしているんですか?

TAKKI 曲によってまちまちですが、例えば「シンデレラストーリー」はSOTAの鼻歌の段階でどう転んでも華やかになる印象があって。僕のイメージではロックとファンクの間にあるサウンドで、ロックすぎず、ファンクすぎもしない。管楽器がこのメロディをなぞったら気持ちいいだろうな、というイメージは最初から持ってました。

SOTA 「シンデレラストーリー」のメロディは風呂場で頭を流しているときに降りてきたんですよ。何気なくシャワーを浴びていたら「シンデレラストーリー」という歌詞とメロディが出てきて、それをすぐボイスメモに録って共有したんです。確かコードは指定したんだっけ?

TAKKI コード進行のイメージがすでにSOTAの中にあったみたいで、コード指定で鼻歌が届きました。音源では管楽器がなぞっているイントロのメロディを当時はギターでまず弾いてみて。ギターで作ったものをほかの楽器に当て直す、みたいな作業をしながら作った曲ですね。ギタリストなので一度ギターに落とし込んではいるんですけど、最初からメロディのイメージは管楽器でした。