それいゆ、スタジオで●●を見る
──「担当ディレクターによる超勝手な収録曲ひとこと解説」がビクターのサイトに載っていますが、裏テーマが「無国籍」と書いてあるじゃないですか。本当にそういうテーマがあったんですか?
それいゆ ……あとから(笑)。
──あと付けなんですね。そうじゃないかなと思って。
中森 剣さんの曲(「Hong Kong Chang」)ができてからですよね。で、かせき(さいだぁ)の歌詞も近い感じだったので、そういうテーマになって。
久保田 なので、もともとテーマはなかったです(笑)。
──「Hong Kong Chang」はオリエンタルなムードが漂う曲になりました。
久保田 剣さんはちょうど自分のアルバムを作っていたし、横浜アリーナでのデビュー20周年公演に向けて忙しい時期だったんです。でも、マネージャーさんが言うには、レコーディングに向けて曲をまとめていっぱい作っているから、その中から合いそうなものがあれば提供しますよっていう感じだったんです。で、1カ月くらいしたら「できました」って届いて、「作ってもらえたんだ!」と思いました。すごくラッキーだったなと。
──デモも完成版に近い感じだったんですか?
久保田 いや、違いますね。元の曲は、普通に考えれば72、73年くらいのソウルっぽくやれば一番ハマる感じだったんですけど、SOLEILでそれはできないので。マーティン・デニー感と、50年代のロカビリーとジャズっぽい感じが出たと思います。リズムは「Mr. Moonlight」みたくなればいいなと思っていたりもして。でも、もともとの香港色はすごく強かったですね。それも返還前の香港。イギリス領だから一応モッズだなって(笑)。
中森 あの曲は、どうしてもそっちのほう(香港のイメージ)に持ってかれるんですよね。中華街の細野晴臣さんもチラついて。で、アレンジはこれかなと。
久保田 だからギターは細野さんの去年出したアルバムっぽくなればいいかなっていうのはありました。あとこの曲では、それいゆちゃんがマリンバやビブラフォンを叩いていて。
中森 星野源くんばりにね。
それいゆ ふふ(笑)。でも大変でした。レコーディング前日の夜に楽譜が来て。
久保田 例によってバタバタだったんです。だから当日は、譜面見ながらその場で練習して叩くっていう感じでした。
中森 歌うときがどうとかではないんですけど、楽器を演奏するときはもう完全に別人ですよ。シャキーンって。譜面見ながらババババーってできちゃう。どっちかって言うと我々がモタモタしてるくらいの(笑)。
それいゆ いや、全然です。楽器のレンタル業者さんが取りに戻ってきちゃうから、やらなきゃってなったんです。
──レンタルのタイムリミットに追われるわけですね。
久保田 ビブラフォンとティンパニとタブラをレンタルした日があって。それいゆちゃんのレコーディングはあとのほうだから、けっこう焦りながらね。
それいゆ ティンパニの演奏を見学したかったのでスタジオに早く行ったんですけど、見てる場合じゃなくなって。全然見れなかったです。
──自分の練習をしないとまずいぞと。ちゃんとそれいゆさんに叩いてもらうというのがSOLEILのバンド感ですよね。
中森 だって、できちゃうので。だったらやってもらおうって感じですよね。あんまりいないじゃないですか、ビブラフォンとかマリンバを演奏できる人っていうのは。
久保田 (マレットを)2本ずつ持つのできますかって聞いたら、できるって言うんですよ。最初はできないと思っていたんです。タブラを叩いてもらった子がビブラフォン専門だったので、その子でもいいんじゃないかって思っていたんですけど、やるって言うのでやってもらいました。
──部活動を通じて学んだものなんですか?
それいゆ はい。でも部活だと4本持ちは基本的に和音しかやらないんですよ。4本持っていろいろするっていうのはなかったから、初めてでした。
久保田 フレーズを叩くのがね。
──ティンパニを見学せずに練習した甲斐もあったと(笑)。プレイヤーとしてもめきめきと存在感を増していますが、アルバムでドラムを叩いた曲はないんですか?
それいゆ ないです。
久保田 でも、近田春夫さんの作品ではね。
謎のレコーディング、START!#近田春夫 #のん #ソレイユぽ pic.twitter.com/ixW9uqQODo
— 近田春夫PROJECT2018 (@PROJECT20182) 2018年7月23日
──Twitterに写真が上がってましたよね。のんさんとも写っていて。
久保田 のんさんが書いた近田さんの曲のバックをSOLEILでやったんですよ。そこで、それいゆちゃんがドラムにチャレンジしてます。
中森 ぜいたくにも、ウルフルズのサンコンJr.にドラムテックに付いてもらって(笑)。
──え!
中森 そうなんですよ。セットも持ってきてもらって。ドラム褒められてたね。
久保田 近田さんも褒めてましたね。スネアの位置がいいって。そういえばあのときスタジオで……。
それいゆ ねえ、やめてください!
久保田 やめておきますか。
──言えないことが起こったんですか?
久保田 いや、それいゆちゃんが幽霊を見たんです。
それいゆ 見てないです! イヤだなあ。
中森 あのスタジオ、有名なんですね。男子トイレの窓開けちゃいけないんですよ。お墓がちょうど目の前にある場所で……っていう話をしてないのに、ね?
久保田 「いた」って言うんですよ。
中森 こっちがゾッとしましたよ。
久保田 見える人がいるんだと思いました。
それいゆ もう! 見てない、見てないです! この話載せるのやめてほしい(笑)。
危うく「これって70年だっけ?」っていう曲も
──それはあとで考えます! 脱線してしまいましたが、SOLEILでバックを務めた近田さんの曲がいつか聴けるということで。アルバムの話に戻りましょう。マリンバやビブラフォン然り、前作と比較して音数が多いのかなと感じたのですが、いかがでしょうか。
中森 確かに前回よりは多いですね。最初の話に戻りますけど、前回は「1962年」というテーマが大きくドーンとあったので、ダビングも少なくしてっていう感じだったんですけど、今回はそこらへんが少しゆるくなったので。
久保田 曲によっては「これは65年で」とか言いながら(笑)。あと、何曲かアコギを入れましたね。ジョン・レノンみたいな感じで。
中森 危うく「これって70年だっけ?」っていう曲もあって。ギリギリ69年でセーフ、みたいな。60年代にとどめておきたいっていうのがあったので。
久保田 基本的には前と同じギターサウンドなんですけど、剣さんの曲のイメージがあるのと、タブラが入ったりしているのでカラフルにはなったかもしれないです。
──「Baby Boo」にはそれいゆさんの台詞パートがありますよね。
久保田 ツアーからやります。それまでは控えさせてくださいって言われたので。
それいゆ ……やりたくないなって。
──恥ずかしいですよね。レコーディングのときは?
それいゆ なかなか渋りました。
久保田 プリプロで録って、そのあと2回くらい録って。最終的には最後に録ったやつを使いました。いいですよね、台詞。
──とてもいいと思います。
久保田 ああ、よかった。挑戦してみたかったんですよ。世の中に対して問いかけてみたかったって言うか……よくわかんないけど。
それいゆ 世の中に出回るのが怖い。
久保田 クラスの子に廊下ですれ違いざまに言われるんじゃない? 「泣いてるように見えるけど~」って。
──さすがにそれをされたら怒りますよね。
それいゆ ふふ(笑)。
──一般公募したアルバム曲はどのくらい集まったんですか?
久保田 110いくつか。この前、それいゆちゃんに「嘘言っちゃダメです」って言われて。
それいゆ なんかちょっと多めに言ってたから。
久保田 「120曲ちょい」って言ったら、「116曲です」って。
中森 たしかに嘘じゃんね。
それいゆ 「120くらい」じゃなくて、「120ちょい」って、さらにちょっと上を言ってたから。
久保田 どうせわからないし、少し盛ったほうがいいのかなあなんて。でも、思ったより来たなと。
──聴くのも大変だったんじゃないですか?
それいゆ はい。それぞれ家で聴いて、いいと思ったのを持ち寄って。
中森 「自分は何曲目がいい」って。
──それだけあったら意見が割れそうですよね。
久保田 僕は4曲くらいまで絞って。
それいゆ それいゆは3曲選びました。
久保田 中森さんは2曲でしたっけ?
中森 はい。ほとんどかぶってましたね。
それいゆ すごいかぶった。
──では、採用になった「Every Day Every Night」は満場一致な感じだったんですね。
久保田 違うタイプの曲もあったんですよ。SOLEILに寄せてきた感じの。
──寄せたものは多そうですね。
久保田 「Pinky Fluffy」みたいなのはいっぱいありました。
中森 それか「これをSOLEILが!?」っていう曲だよね。
久保田 自分のデモテープを送ってるんじゃないかっていうのもあって。もうジャンルとかも関係ないんですよ。
それいゆ 「おれは40歳」っていうのがあった(笑)。
──それはさすがにSOLEILと離れ過ぎだろうと。「Every Day Every Night」はそのどちらでもなかった?
久保田 やるならこれが面白いかなと思ったんです。デモテープを聴いた時点で、こういうアレンジがいいんじゃないかっていうのが見えやすかったところはあります。
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極端な話、半分くらいカバーでもいいと思っている