ナタリー PowerPush - 曽我部恵一
全23曲67分「まぶしい」の秘密
ロックには飽きた
──今、過剰な表現はしたくないという話がありましたが、ロックにはある種の過剰さはつきものだと思うんです。例えば曽我部さんもソカバン(曽我部恵一BAND)では拳を振り上げて「ロックンロール!」とシャウトしていたわけで。でもこのアルバムはそういう過剰な表現を徹底して避けていますよね。
それはね、俺がやってるのは別にロックではないから。ロックをやるつもりは特にない。飽きたね。
──えっ、どういうことですか?
「これがロックでしょ」とか「この人の生き方はパンクだわ」とか、もうそういうのはいい。普通でいい。
──それはロックンロールやパンクロックという音楽のスタイルに飽きたということ?
ではなくて、“生き方としてのロック”みたいなものに飽きた。そんなのはロック好きのたわごとに過ぎない。だって世の中のお母さんたちとか毎日一生懸命やっててすごいと思うんだけど、それがロックだからやってるってわけじゃないでしょ。「ロックだねえ!」なんて言いながらやってるのは飲み屋のおっさんぽい。
──でもこのアルバムは曽我部さんの、まさにロックな姿勢から生まれたものだと思うんですけど。
だから誰かがそう評するぶんには全然いいけど、自分が物事を決めるときにロックかロックじゃないか、パンクかパンクじゃないかっていうことは今はすごく邪魔になる気がしてるの。
──以前のインタビューで曽我部さんは「パンクかどうか」を判断基準にしてるって言ってましたよ(参照:曽我部恵一「曽我部恵一 BEST 2001-2013」「サニーデイ・サービス BEST 1995-2000」インタビュー)。
うんうん。でもそういうことはもう言わないようにしようと思ってる。なんかね、物事を判断するときにみんな白黒つけようとしたがるじゃん。でもそんなにはっきり分けられるものじゃないんだよ。売れ線はダサい、アンダーグラウンドはカッコいい。与党は悪い、野党はいい。またはその逆。それは思考の停止だし感受性の停止だと思う。売れ線はダサいって切り捨てちゃうことで、誰かが売れ線の歌を聴いて「今日も1日がんばろう」って思ったその感情は全部スポイルされちゃう。そこにあった真実はどこに行ってしまったんだ?と思っちゃう。世の中をパンクかどうかなんて基準で分けちゃうのは危険だし、もっと言うとパンクじゃないことの中の大事なところを見ようよ、って今は思うんだよね。
──でもそうやって「あれもいいし、これもいいよね」とか「それぞれの立場があるからね」みたいなことを言ってるのってヌルくないですか?
ヌルくない。たとえ誰かがヌルいと言ったとしても、大事なことだと思う。みんなそれぞれ事情があって一生懸命に生きてるんだから。物事の奥のほうには、白黒つけられないどっちでもないことがいっぱいあって、俺はそれをちゃんと見たい。
「君はギターを弾かないでくれ」
──ところで、2月の東名阪ツアーで曽我部さんはギターを弾かずにボーカルだけを担当していましたよね。どういう心境の変化があったんですか?
ああ、あれはね、尾崎友直っていう同い年の友人がいて、彼は今回のアルバムにも何曲か参加してくれたんだけど、彼が「ライブでギター弾かせてくれ」って言ってきて。俺は「いいね、じゃあ2人で弾く?」とか言ってたんだけど、彼は「いや、君はギターを弾かないでくれ」って言うのよ。
──尾崎さんの提案だったんですね。
うん。それで俺は「いやいや、俺はギター弾くよ?」って(笑)。そしたら彼が「君のことはリスペクトしてるけど、ギターは俺に任せて歌だけやってくれたらすごい最高の瞬間が絶対生まれるから。だから今回はギターを弾かないでくれ」って。
──すごいですね、それ(笑)。
もうわけわかんないこと言ってんなと思って最初ちょっと腹立ったのよ。でもよく考えてみたら、なんでそれがわけわかんないことなのかっていう理由が自分の中で見つからなくて。「わかった。じゃあ弾かない」っつって、結局ギターとドラムと歌だけでやることになった。
──実際やってみてどうでした?
なぜ俺はギターを持って歌わなきゃいけなかったのかっていうのがもう思い出せない。
──あはは(笑)。
曽我部恵一はギターを持って歌う人だなんて、そんなこと誰も決めてないじゃん? そんな形はいくらでも壊していいんだなって思った。そういうことをやっていかないと意味がないと思う。
──じゃあ今後はボーカルに専念する?
いや、そういうことは決めないの(笑)。また時間が経つと、俺はやっぱりギターだよなって思うかもしれない。どっちにしても、さっき言ったようなことがあってよかったなってすごく思う。自分の可能性っていうのは、いろんなところに、考えもしないところにあるんだなと思って。
──そういう新たな発想が次回作にどう反映されるか気になりますね。
次はもう、人に書き下ろしてもらうっていうのをやりたくて。
──曲を?
うん、全曲誰かに書いてもらう。
──えっ、曽我部さんはそれでいいんですか?
それでいいのかよくないのかっていうのを確かめたい。やっぱり自分の言葉で自分のメロディじゃないとダメなんだなってなるのか、人が作った曲でも自分が一生懸命がんばってそこに心を近付けて歌えば、めっちゃいい曲じゃんってなるのか。
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収録曲
- 東京はひとりで歩く
- 汚染水
- ちりぬるを
- 純情
- ママの住む町
- 碧落 -へきらく-
- とんかつ定食たべたい
- だいじょうぶ、じゅんくん
- それはぼくぢゃないよ
- 工場街のシュウちゃん
- ホームバウンド、ホームバウンド
- あぁ!マリア
- ボサノバ
- 悲しい歌
- ハッピー
- 心の穴
- 夕暮れダンスミュージック
- 一年間
- 夢の列車(第二部)
- 高まってる
- パレード
- 坂道
- まぶしい
初回限定盤は3Dジャケット&3Dメガネ付き。
曽我部恵一(そかべけいいち)
1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在は曽我部恵一BAND、および再結成したサニーデイ・サービスのメンバーとしても活動しており、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。