ナタリー PowerPush - 曽我部恵一

簡単には感動させたくない

独り言をちゃんと言おうと思った

曽我部恵一

──「自分のことを歌いたい」という感覚はわかる気がしますが、でも以前の曽我部さんはそれだけじゃなかったと思うんです。歌で世の中に何かを伝えようとしていましたよね。

うん、確かにこれまで書いてた曲では外とのコミュニケーションっていうか、自分を取り巻く世界のことを歌うみたいなところもあったんだけど、そういうのも嘘くさいなーなんて思って。

──嘘くさい?

「コミュニケーションしようぜ」なんていうのは聴き手を下に見てる気がする。この社会の閉塞感とか日本の状況をうまく描いたとして、それが表現者にとってなんの意味があるんだろうって。今までもそういう気持ちはあったと思うの。サニーデイ・サービスのときもそうだった。社会のこととか自分を取り巻く世界のことよりも自分の心なんだっていう気持ちはどこかにあった。それを今また改めて感じて、独り言をちゃんと言おうと思ったんだよね。

──確かにこのアルバムに入っている歌は全部独り言みたいなものですね。

うん、今までは独り言を壮大な曲に仕立てて、それっぽく成立させてきたんだけど。

──でもそういうのが普通の歌なんじゃないですか?

いや、例えばジョン・レノンの「ジョンの魂」とかRCサクセションの「楽しい夕に」っていうアルバム、俺はすごく好きなんだけど、あそこには独り言が独り言のままあるよ。脚色がない気がする。だからよくわかんないし、でもその人がよくわかる。それが本当のコミュニケーションなんじゃないかな。

──なるほど。

まあいろんなやり方があるし、みんながこのやり方をやらなきゃいけないってことじゃないけどね。

──あえて技巧を加えずに、そのままを出すということですよね。

曽我部恵一

子供たちが作文とか書くにしてもだんだんうまくなって「お前そんなこと思ってないだろう」みたいなこと書き始めるじゃん。「私もがんばりたいと思いました」みたいな。いや、そういうことじゃなくて、もっと君の心が聞きたいんだよって思う。高学年くらいになると作りこんだ跡も見せないくらい巧みになってきて。でもやっぱり自分が歌を歌うときくらいはそうじゃない感じでやりたくて。本当は誰でもあるんだよ、例えばコンビニで店員に「チッ」とか思うこととか。でもそのことはとりあえずナシにしといて、素晴らしい未来のことを歌ったりするじゃない。でも「その『チッ』はどこいったんだよ、お前」って思うわけ。こっちの大きい素晴らしいことを表現するときに、そういう小さなことが見捨てられがちだから。自分はそこもちゃんと歌にしていきたいなって。

──曽我部さんがやろうと思えば、カレーライスの歌にもちょっと気の利いた、共感を得られるような要素を入れることはできるはずなのに。

入れるとまたちょっと自分から離れちゃうからね。

──入れないって決めて、意識してやってないわけですよね。

でも初期の清志郎とかもやってないよ、ジョン・レノンとかも。からっからに乾いてて「この人寂しいんだな」ってことだけがぼんやり残るんだよね。言いたいことは漠然としてたとしても、ぼんやりとその人だけは残る。俺はそれがいいなって思うの。

物足りなくていい

──ひとつ気になる点があって、日記的なアプローチをとっているせいか、このアルバムはいわゆる“名盤”的な印象が薄い気がするんです。どの曲もさりげないぶん、大きな感動みたいなものは生まれにくくて、そこに若干の物足りなさを感じるところもあるんですが。

いや、それでいいんだよ。よくわからなくて物足りない。それでいいと思うな。

──そういうものですか。

映画にしてもコマーシャルで「泣きました!」とか言ってるような、そういうのあるでしょ。そういうものも大事だし、否定するつもりはまったくないんだけど、俺が作ろうとしてるのはそうじゃない。その場で胸をぎゅっとつかむようなものより、心のどっかに引っかかって離れないっていうか、あとからなんか思い出しちゃうようなもののほうが大事なときがある。「これがど真ん中の表現だ!」っていうのは今、もうないんじゃないかな。俺たちが若かりし頃はOasisの「Don't Look Back In Anger」みたいな曲がど真ん中だって言えたけど、今はそうじゃないと思う。

曽我部恵一

──それは時代の変化によるもの?

もちろんあるんじゃないかな。みんなが音楽に何を求めるのかってところも変化してると思うし。俺はとにかく簡単には感動させたくないわけ。

──えっ?

させたくないのよ。感動なんて嘘っぱちだろうと思ってる。「全世界が涙!」とかさ。そういうお涙頂戴的な感動を自分が提示しようとはまったく思わないね。

──まあ、そういう感動の押しつけがイヤだっていうのはわかるんですけど、そこまで極端なものじゃなくても、自分の歌を聴いた人の心を動かしたいとか、その人に変化を与えたいとかそういう気持ちは?

正直、そこも考えてないんだよ。自分のことをとにかくきっちり歌うっていうのをまずやりたくて。

──じゃあ聴いてる人のことはどうでもいい?

うん、ほぼどうでもいい。

──そうなんですね(笑)。

意識してないし、よくわかんないっていうほうが近いかもしれない。俺が自分で聴きたいものを作ってるだけだからね。

ニューアルバム「超越的漫画」/ 2013年11月1日発売 / 2500円 / ROSE Records / ROSE-160
収録曲
  1. ひとり
  2. すずめ
  3. リスボン
  4. うみちゃん、でかけようよ
  5. あべさんちへ行こう
  6. もうきみのこと
  7. そかべさんちのカレーライス
  8. 6月の歌
  9. マーシャル
  10. バカばっかり
曽我部恵一(そかべけいいち)

1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。