1月に放送がスタートしたテレビアニメ「スロウスタート」のキャラクターソングアルバム「Step by Step」が3月14日にリリースされた。アルバムには一之瀬花名(CV:近藤玲奈)、百地たまて(CV:伊藤彩沙)、十倉栄依子(CV:嶺内ともみ)、千石冠(CV:長縄まりあ)、京塚志温(CV:M・A・O)、万年大会(CV:内田真礼)、榎並清瀬(CV:沼倉愛美)の7名による色とりどりのキャラクターソングが収められている。そのすべての楽曲を書き下ろしたのは、ポップな作風がアニメソングシーンで高評価を集めるROUND TABLEの北川勝利。今回の特集では、サウンドプロデューサー北川にキャラソン全曲の制作過程を詳しく語ってもらった。
取材・文・インタビュー撮影 / 臼杵成晃
アゲなくていいキャラソンを
──STARTails☆のシングル発売記念イベント(参照:「スロウスタート」発の声優ユニットSTARTails☆、ドキドキのお披露目ライブ)で、近藤玲奈さんが最後に一之瀬花名のキャラソン「みんなありがと。」をひと足早く披露していました。
あの日は僕も観に行きましたよ。
──試聴音源も公開されていなかったのでまったくの初披露だったわけですが、あの曲を聴いた段階で「キャラソンアルバムは北川さんのやりたい放題な内容になるだろうな」という予感がしました。実際、全編北川印の、北川勝利全部乗せみたいなアルバムで。
あははは(笑)。そうです、そうです。全部乗せ。最初にアニプレックスさんと打ち合わせをしたときから、キャラソン全曲の作曲とプロデュースをしてほしいという話だったんです。全曲の作曲とプロデュースをしてほしいと。でも、キャラソンって僕の中ではアゲていくものというイメージがあったので、大変そうだなと思ったんですよ。
──アゲていく?
なんとなくキャラソンというとテンション高い曲のイメージがあって。全曲弾けていて、熱くないとダメなのかなと思っていたんですけど、最初から「いや、そういう感じじゃなくていいんです。と言うか、そういう感じじゃないんです」と言われて。僕がやってる「ARIA」(2005年秋放送の「ARIA The ANIMATION」。以降も地上波やOVAでシリーズ化された)関連の楽曲だったりとか、落ち着いた感じのものがいいと言われたので、だったら大丈夫かなと。
──アニメ全体の世界観をイメージするオープニングテーマ、エンディングテーマとは違い、キャラソンは文字通りキャラクターそのものの特徴を落とし込んだ音楽ですよね。作曲をする側としても意識は変わってくるのでしょうか。
そうですね。オープニングやエンディングは作品全体の“顔”になるから、その世界観を凝縮する必要があって、ハードルとしてはちょっと高めの設定なんですけど、キャラクターソングの場合は1曲1曲がバラエティに富んでいていい。作品の世界観と言うよりは、もっとディープなものと言うか。あとキャラソンは最近だと、声優さんたちがライブで歌うことありきの、現場で盛り上がるものというイメージもあって。だから勝手に「キャラソン=アゲる曲」という印象を持っていたんです。
「単に僕の好きなものをやればいいんだな」って
──そこからどのように曲作りを進めていったんですか?
「スロウスタート」の原作(篤見唯子によるマンガ作品。雑誌「まんがタイムきらら」で連載中)はいただいて読んでたんですけど、その段階ではまだアニメになったときのイメージが頭に浮かばなかったんです。そのあと1話、2話の映像を見せてもらったら、劇伴にジャズやフレンチの要素が入っていたので「あ、この感じだったら、単に僕の好きなものをやればいいんだな」って(笑)。そこから1コーラスずつ、断片をどんどん作っていきました。あと「キャラソンアルバムは7曲でひとくくりにします」と事前に言われていたので、7曲でちょっとずつ違う音楽、違うリズムが並んでいるのが楽しいかなと。1人のキャラにつき何曲かずつ、どんどん提案させていただいて。
──それぞれ候補をいくつか出したんですか?
僕はいつも1曲依頼されたらだいたい2、3曲ぐらい作って選んでもらうようにしているんです。今回は原作や映像の印象と、ディレクターさんがキャラクターごとのイメージを書いたメモを元に、思い付いたものを何曲かずつ。
──そのメモはどんな内容だったんでしょう。
ひと言ふた言ぐらいですよ。「楽しい」とか「しっとり」とか、だいぶざっくり(笑)。主人公の花名だけは「最後にありがとうの気持ちを伝えます」と具体的な言葉が付いてました。あと今回は、キャラクター1人ずつ15秒ぐらいの紹介動画があったので、それを観たら「こういうふんわりとした子なんだ」とか「ちょっと強めなんだね」と、ちょっとイメージが浮かびやすくなりましたね。
北川勝利の「スロウスタート」キャラソン全曲解説
1スパークルデイズ / 百地たまて starring 伊藤彩沙
ディレクターメモ:明るく元気、テンション高め
──ではここから、1曲ずつ7名分の楽曲解説をお願いします。「スパークルデイズ」は1990年代のポップスやその当時発掘されたソフトロックの要素を盛り込んだ、いわゆる“アキシブ系”の流れを汲む北川さんの得意パターンの1つですよね。
これは仮タイトルで「ソフトロック」と書いてました(笑)。たまては元気なキャラクターなので、明るい感じがいいだろうというのがまずあって、わりと迷いなく。ただ、初めはもう少しシンプルだったんですよ。「イントロに何かフックが欲しいな」と思いながらギターを触っていたら、不思議なコード進行が浮かんで。
──あのイントロが挟まることでリッチな雰囲気になりますよね。
ソフトロックなら転調感は大事でしょ(笑)。曲全体は意外とシンプルにできていると思うんですけど。
──ボーカリストとしての伊藤彩沙さんはいかがでしたか?
キャラの元気な感じもあるけど、本人もそのままの明るく元気な方で。STARTails☆の中でも全体を引っ張っていくポジションですよね。ほかでもユニットをやったりとか、メンバーの中でも一番経験を積んでるし、舞台にも立っている人なので、歌も安心してお任せできる感じでした。
──キャラクターも含めて1曲目にふさわしい感じですね。先鋒を買って出る感じ。
そうそう。声のキャッチーさと、空気をグイッとつかむ感じは、彼女がもともと持ち合わせたものなんだろうなと。
2ストロベリーアイスクリーム / 十倉栄依子 starring 嶺内ともみ
ディレクターメモ:お姉さん、おしゃれ
──これもまた北川さんの得意路線の1つと言える、グルーヴィな16ビートのソウルミュージックで。
栄依子は主要キャラ4人の中でもお姉さん的で、キーワードにおしゃれというワードもあったのですが初めはこれとは違う方向で作ってたんです。もっと7thっぽいコードで作っていて、サビでメジャー7thに持っていくみたいな。メロがあまり上下せず1音で押していく、あまりポップじゃない感じがそういう感じっぽいかなと思ってたんですけど、ちょっとディレクターのイメージと違ったらしく。で、ディレクターのイメージを詳しく聞いてみたら「なるほど、こっちか」と。一番得意な目をつぶっても作れるパターンだったので、帰ってすぐに作って翌朝には「ハイできました」って感じでした(笑)。最近あまりやってなかったから、やり出したら楽しくなって。仮歌を自分で歌いながら「あーこれ自分でライブで歌って楽しいやつだな」と。
──確かにROUND TABLEのレパートリーにあっても違和感ないですね。“チュクチューン”系と言いますか。とにかく何度もギターの“チュクチューン”が出てきますが、過去の北川曲の中でももっともチュクチューン率の高い曲なのではないでしょうか。
花澤香菜さんのツアーなんかも一緒に回っている山之内俊夫くんにギターをお願いしたんですけど、チュクチューンを1回弾いてもらったあとに「それじゃ足りないからもう1周お願い」って言って(笑)。延々弾いてもらって、ベストな場所にベストなチュクチューンを入れた結果がこれです。
──速くてシャープなチュクチューンもあれば、じわじわ降りていくムーディなチュクチューンもあって。
最初は速いのばっかりだったんだけど「おんなじチュクチューンは要らねえんだよ! 緩急を付けて、上からも下からも来てくれ」って(笑)。
──嶺内さんはユニットを組むのもSTARTails☆が初めてだし、そもそも公の場で歌うのも今回の現場が初めてなんですよね。なかなか難しい曲だと思うんですけど、すごくいい歌声だなと思いました。
彼女はあまりレコーディングに慣れていないので「どうしよう、どうしよう」と緊張してましたけど、ある程度地の力がないと難しい16ビートにもすぐに対応できていたので、場数を踏んだらさらに歌えるようになると思います。
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ほんわかびより / 千石冠 starring 長縄まりあ
- V.A.「スロウスタート キャラクターソングアルバム Step by Step」
- 2018年3月14日発売 / アニプレックス
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初回限定盤 [CD]
2700円 / SVWC-70333
- 収録曲 / アーティスト
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- スパークルデイズ / 百地たまて starring 伊藤彩沙
- ストロベリーアイスクリーム / 十倉栄依子 starring 嶺内ともみ
- ほんわかびより / 千石冠 starring 長縄まりあ
- Sweet Slow Days / 京塚志温 starring M・A・O
- ココロ替え宣言 / 万年大会 starring 内田真礼
- シュガー&シュガーレス / 榎並清瀬 starring 沼倉愛美
- みんなありがと。/ 一之瀬花名 starring 近藤玲奈
- テレビアニメ「スロウスタート」Vol.1
- 2018年3月28日発売 / アニプレックス
- テレビアニメ「スロウスタート」Vol.2
- 2018年4月25日発売 / アニプレックス
- テレビアニメ「スロウスタート」Vol.3
- 2018年5月30日発売 / アニプレックス
- テレビアニメ「スロウスタート」Vol.4
- 2018年6月27日発売 / アニプレックス
- テレビアニメ「スロウスタート」Vol.5
- 2018年7月25日発売 / アニプレックス
- テレビアニメ「スロウスタート」Vol.6
- 2018年8月29日発売 / アニプレックス
- 北川勝利(キタガワカツトシ)
- 1971年10月18日、北海道函館市生まれのアーティスト。1993年に大学のジャズ研究会で出会った伊藤利恵子と共にROUND TABLEとしての活動を始め、1997年に高橋幸宏主宰のレーベル・コンシピオレコードからミニアルバム「World'sEnd」を発表する。1998年にはミニアルバム「Feelin' Groovy」でマーキュリーレコードよりメジャーデビュー。2002年にはNinoをボーカルに迎えたROUND TABLE featuring Nino名義での活動も並行してスタートさせる。洗練されたポップな作風が高い評価を集め、0000年より外部アーティストへの楽曲提供やサウンドプロデュースでも活躍。坂本真綾、花澤香菜、中島愛、やなぎなぎ、ワルキューレほか多数のアーティスト、「ちょびっツ」「ARIA」「謎の彼女X」「マクロスΔ」「スロウスタート」など多数のアニメ作品の音楽を手がけている。