SLOTHREATが9月25日に1stアルバム「THEMIS」をリリースした。
メインコンポーザーの克哉(G)を中心に5年の歳月をかけて結成された5人組バンド・SLOTHREAT。昨年4月に本格的な活動をスタートさせた彼らは、メンバー全員が自信作だと口をそろえて語る1stアルバムを完成させた。音楽ナタリー初登場となる今回は、バンド結成までの紆余曲折を振り返りながら、本作の魅力について語ってもらった。
取材・文 / 阿刀“DA”大志
完璧な音楽を作りたい
──SLOTHREATは首謀者である克哉さんがバンドの構成を考えてから結成に至るまで5年もかけたそうですね。その執念はどこから湧いてきたんですか?
克哉(G) 自分が作る音楽にはもともとすごく自信があったので、最初に始めたバンドが終わってしまったことが悔しくて。なんとしてでも多くの人たちに聴いてほしいと思って……とにかく悔しかったんです。
──その悔しさはどこに由来するんですか?
克哉 うーん、よくある言い方になってしまうんですけど、「なんで自分の音楽が認められないんだろう?」って。音楽を始めた18歳の頃から、やりたかったこと、やってることは根本的にずっと変わらないんです。
──それは具体的にはどういう音楽ですか?
克哉 まさにSLOTHREATのようなヘビーミュージックです。僕はこれまでさまざまな音楽をディグってきたので、簡単になぞった程度の浅い感じではなく、すべての要素にちゃんと深みがあって、歌心やキャッチーさにおいてもツッコミどころのない完璧な音楽を作りたかったんです。
──それにしても、5年ってけっこうな長さですよ。そこまでして自分の鳴らしたい音を追求できるってすごいことだと思います。
克哉 月並みな言い方になりますが、自分から音楽を取り除いたら虚無でしかないんですよ。生きた心地がしない。セルフセラピーというか、ソロプロジェクトなどを通じてクリエイトすることである程度浄化されていた部分はあるんですけど、自分にはバンド以外考えられなかったっていうのは大きいかもしれません。ミュージシャンを志した大きなきっかけとしてバンドへの憧れもあるし、バンドで叶えられていないことがあまりにも多すぎて。
──大げさでもなんでもなく、生きるために音楽をやっているという。
克哉 そうですね。死ぬか、音楽やるか、みたいな感覚です(笑)。
5年を費やしたメンバー集め
──メンバーはどうやって集めたんですか?
克哉 まず僕の双子の弟の孝哉に声をかけました。その頃、孝哉は別のバンドをやっていたんですけど、そこから脱退するという話になってたので、「じゃあ、俺とやらないか?」と。その次は瀬希でした。瀬希は僕と同い年で、僕の先輩のバンドのローディーをやっていたり、単純に友達としても仲がよくて。それに前から僕の曲を褒めてくれてたんですよ。
──今回取材するにあたってほかのインタビューを読ませていただいたのですが、瀬希さんはもともとギターを弾いていたのに、克哉さんからベースを弾いてほしいとお願いされたんですよね? それもなかなかすごい話だなと。
瀬希(B) そうですね(笑)。それまでずっとギターを弾いていて、ベースは触ったこともなかったのでけっこう悩みました。
──SLOTHREATは瀬希さんにとって初めてのバンドだそうで。
瀬希 2013年に上京してきてからバンドメンバーを探していたんですけど、なかなか見つからなくて。そんなときに克哉から「バンドをやらないか?」と誘ってもらったんです。
──ボーカルのKAZさんはどういう経緯で?
KAZ(Vo) 僕は克哉のソロプロジェクトに参加していて、もともと克哉からアプローチを受けていたんですけど、諸事情で1年ぐらい断り続けていたんですよ。
──1年も!
KAZ それで落ち着いた頃に、克哉がまだボーカルを募集していて。もしほかにいいボーカルが見つかっていたら身を引こうと思っていたのですが、克哉と一緒にバンドをやりたいという気持ちが強くて電話をかけたんです。「ボーカル見つかったの?」と聞いたら「まだ見つかってない」と言うので、「見つかってないなら一緒にバンドをやらないか?」と相談して、そしたら克哉がブチ上がってくれて、晴れて加入することになりました。
──Web媒体に出していたボーカルの募集要項を拝見しましたけど、条件がガチガチですよね。「歌だけでなく音楽への幅広い理解や興味と、音楽そのものへの愛がある方」「クリーンなメロディーを歌うことだけでなく、シャウトなどのアプローチに対しても強い興味と探究心がある方」とか。言い換えると、それだけやりたいことが明確にあったということなんでしょうけど。
孝哉(G) あれは僕が8〜9割仕上げて、最後に克哉と2人で詰めたんですけど、ガチガチに作り込むことで「これで誰も来なかったらそれはそれでしょうがない」と思っていました。最初から高いハードルを設けることでふるいにかけたというか。あと、ちょっと変な人というか、人と何かをやる上で最低限の常識がない人が来たときに、わざわざやり取りするのも時間がもったいないってことでこうしました。
──結局、誰か応募者はいたんですか?
孝哉 ああいう募集系って「なんでもいいからバンドをやりたい」って人がバンバン送ってくる感じなんですけど、このときはかなり少なかったですね。ただその中でよさそうな人が数名連絡をくれたのですが、問い合わせのみで応募には至らないケースもありました。
──そりゃあそうですよ(笑)。この条件で応募しようと思うボーカリストはなかなかいないと思います。
孝哉 まあ、そうですね(笑)。あれを読んで「何様だ?」みたいに思った人もいたかもしれませんが、こちらも真剣だったので臆することはなかったです。
克哉 実はその募集をかける前にボーカルがいて、いつ表立って活動を始めるかというところまできていたんです。でもその人が土壇場で飛んでしまって。非常識だと感じる場面もあったのですが信じていたこともあり……そのトラウマから「もう絶対に変なヤツに当たりたくない」と思ったんです(笑)。
──音楽への高い意識はありつつ、過去のトラウマがあの文章を書かせたところもあったんですね。
克哉 あはは!(笑) そうですね。
──SHINYAさんはどうやって加入したんですか?
SHINYA(Dr) 僕だけほかのメンバーとはちょっと経緯が違っていて。メンバーの中で面識があったのはKAZだけで、SLOTHREATのこと自体知らなかったんですよ。で、あるときSNSのタイムラインにSLOTHREATの「蒼華」という曲のMVが流れてきて、自分の大好きな要素が詰め込まれているとてつもない音楽に強烈な魅力を感じたんです。その頃の自分は前のバンドが終わってから音楽活動はしていなくて、音楽は二度とやらないつもりでした。けど「蒼華」を聴いてあまりに心が動いたのでKAZに連絡をして「ぜひやらせてくれないか」とアプローチをかけたんです。
──最初はサポートメンバーだったんですよね。
SHINYA 一緒にバンドをやるうえで、ほかのメンバーとの人間的な相性だったり、いざ音を合わせたときにアンサンブルがどうなるのかなど音楽的な相性もかなり大事なので、サポートとしてお互いの感触を確かめる期間がしばらくありました。
信用できる人としかやりたくない
──結果として克哉さんの身近にいた人たちが集まったわけですが、そこに至るまで紆余曲折があったわけですよね。
克哉 はい、ありましたね。ベースは瀬希が3人目、ドラムはサポートを含めると3人目、ボーカルもKAZで3人目だったんですよ。
──じゃあ、去年ミニアルバム「Allium」を出すまではかなり大変だったと。
克哉 はい。さっきもお話しましたけど、バンドがまさに始まろうとしているタイミングでボーカルが飛んだこともあったし、本当に時間がかかりました。そこで思ったのが、音楽的なポテンシャルやアビリティももちろん大事なんですけど、人間性も大事だということで。信用できる人としかやりたくなかったし、人間性がバグった人と組んでもしょうもないバンドになってしょうもない結果で終わるというのはいろんな人たちを見てきてわかっていたので、それだけは絶対に避けようと思っていました。
──ただ、人間性や演奏力も大事ですけど、その人が本当にバンドとフィットするかどうかというのはまた別の話だったりしますよね。
克哉 本当にそうですね。なので、自分が作る音楽に対する信用度みたいなところも重視しました。単純に言うと、僕の曲をどれぐらい好きか、みたいな。
──ただバンドがやりたいというだけではダメだと。では、このメンバーならイケると思えた理由は?
克哉 人それぞれバンドに対する考え方ってあると思うんですけど、僕はメンバー同士が友達みたいな関係性で成り立っているバンドがよくて。一度組んだらずっと一緒にやっていかなきゃいけない人たちだから、日頃から一緒にいても苦じゃないかどうかっていう基準もありました。音楽的なラインをクリアしたあと、バンドをいろいろと進めていく中でストレスが溜まらなかったっていうのは大きいです。
──めちゃめちゃ高いハードルですね。
克哉 故に時間がかかったっていうことなんですけどね(笑)。
──あはは!(笑) よくくじけませんでしたね。
克哉 「ああ、生きてる意味ねえな。全部捨てて遠いとこに行きてえな」とか思ったことも正直あるっちゃあるんですけど、なんとか今こうしてやれてます(笑)。
中心人物・克哉とは?
──ここまで話を聞いてきて、克哉さんのキャラクターがけっこう特殊だということに気付き始めているのですが、克哉さんっていったいどういう方なんですか?
孝哉 僕は兄弟としての視点が入ってしまうので、その質問にはほかの3人が答えたほうがいいですね(笑)。
KAZ 普段は本当にフレンドリーで、一緒に馬鹿できる存在です。生涯のうちに親友と呼べる人ってそれほど多くないと思うんですけど、初めて会ったときから一生付き合える仲間だと感じましたね。
──SHINYAさんはあくまでもこのバンドの音に惹かれたわけで、実際にバンドに入ってみて「思ってたのと違う!」なんてことはなかったんですか?
SHINYA 僕も過去に組んだバンドでいろいろと経験していたので、それは懸念していたところではあったんですけど、初めてスタジオメンバー全員と会ったときからフィーリングが合ったんです。音楽以外に人間性の部分でも似てるところがあったりして。自分は人と打ち解けるのに時間がかかるタイプなんですけど、だいぶ早い段階で仲良くなれましたね。
──それも奇跡的な話ですね。瀬希さんから見て、克哉さんはどういう方ですか?
瀬希 本当に厳格ですね。繊細だし、いい意味で神経質。それは普段、友達として遊んでいるときにはあまり感じられないところなんですけど、やっぱり音楽になると違いますね。
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1stアルバムにして新境地